3.少女マナリーと、彼女の過去。
(*‘ω‘ *)ひぃ、ひぃ……(〆切の迫る音
「本当に、あり得ないわ。どうしてあんな……!」
大きなローブを羽織った少女は、ブツブツと口にしながら歩いていた。
どうやらティオルを受け入れたギルドに不満を抱いているようだが、自分には何も決定権がないことに苛立っているらしい。もっとも、それ自体は仕方のないこと、というのも理解はしている様子だった。しかし、だからこそ不満が行き場を失くしてこうなっているのだが……。
「ギルドは魔物を討伐する人の場所でしょう? それなのに、なんで!?」
そんなこんなで、結果的に独り言を吐き出すしかなくなっていた。
周囲の冒険者はあからさまな彼女の態度に、思わず苦笑いしつつ遠目に見ているだけ。元々この少女は冒険者の間で、とかく『魔物嫌い』として有名だった。
過去に何があったか知る者は少ないが、その人となりはよく知られている。
栗色の髪に、黒の強気な眼差し。眉間に年不相応な皺を寄せる少女――マナリーは、大きなため息をつきながらうな垂れるのだった。
「……こうなったら、関係ないわ。わたしがいつか、あんなの追い出してやるんだから!」
胸の前で両拳を握り締めながら、そう決意を口にするマナリー。
そして、彼女は懐から小さな銀時計を取り出した。
「わたし、頑張るからね。……パパ、ママ」
少女の声には、確かな決意がこもっている。
ゆっくりと伏せた目。そんな彼女の目蓋の裏に焼き付いている景色は、今でも忘れることのできない光景だった。
◆
――村が、火の海に呑み込まれていた。
ここはマナリーの生まれ育った場所、王都から少し離れたところにある小さな村だ。農耕によって支えられていた穏やかな暮らしを壊したのは、例年にない異常気象で糧を失した魔物の群れ。裏手にある山岳地帯に棲んでいる彼らが、マナリーの村に降りてきたのだ。
「ママ……!」
「大丈夫よ、マナリー……!」
現在よりまだ少し幼かった少女は、母に抱えられながら一緒に逃げる。
燃え盛る故郷に涙を流しながら、それでも必死になって生きようとしていた。生きて、自分たちを逃がしてくれた父親に報いなければと、そう考えていたのだ。しかし農耕の村で生活する人々が、簡単に魔物の群れを食い止めることなど出来ようはずがない。
「ママ、後ろ……!?」
「か、は……!!」
マナリーが叫ぶと同時、彼女の母親の脚に魔物の一撃。
強か身体を打ち付けた二人は倒れ込んで、痛みから苦悶の表情を浮かべた。そんな彼女たちに、魔物たちは少しずつ距離を縮めてくる。
人の血の味を覚えた魔物は、人の肉を食らうようになる。
そうなれば、この状況は目の前に馳走を置かれたようなものだった。
「ママ! ……ママ!!」
倒れたままの母の肩を揺らし、必死に訴えるマナリー。
しかし、そこで少女は気付くのだった。
「マナリー、逃げなさい……!」
「ママ、足が……」
母の片足、その膝から下が切断されていることに。
この状況ではもう、母親が逃げることは不可能だと分かった。だからこそ、母はマナリーに自分を置いて行くように叫ぶ。だが、幼い少女が途端にそんな決断をすることはできない。
震えが止まらず、足が竦む。
そんな娘の姿を見て、母親は小さく息をついてから微笑んだ。そして、
「ママからのお願い。……マナリー、これを守って?」
「これ、って……」
手渡されたのは、母の宝物だという銀時計。
世界に一つしかないという逸品だった。父と母の思い出であるそれを受け取って、マナリーは大粒の涙を流しながら立ち上がる。
自分は母と、そして父と約束した。
二人の宝物を必ず、絶対に、守ってみせると。
それを反故にすることは、できない。
だから、少女は背を向けて一心不乱に駆け出すのだった。
「ママ、ママ……!!」
泣きじゃくりながらも、一生懸命に。
「ごめんね、ママ……!!」
背中で、母親の悲鳴を聞きながら……。
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