1.互いを知らないから。
新作書きたい(発作
「えっと、銅貨がこれだけあれば銀貨になって、銀貨が……」
「そうだね、ティオル。もう、お金の数え方は大丈夫かな?」
「うん! だいじょうぶ!!」
――ティオルを引き取ってから、早一週間。
少年は今まで知ることのなかった外の世界に、とかく興味津々だった。しかしながら、いきなり一人で活動させるわけにもいかず、ボクは生活に必要な事柄を教えている。
ダンジョンの中では敵なしの少年も、この王都の街中では少し強いくらいの少年だ。ギルド長が後見人になっているとはいっても、周囲の理解があるとも限らない。
「…………ん、ヘリオス。どうしたの?」
「あ、いや……何でもないよ」
「ふーん……?」
その証拠、といってはアレだけど。
ティオルの意識の届かない場所では、彼に対する陰口も聞こえていた。いいや、正確にいえば奇異の目、というものだろう。ボクが視線を投げると、こちらを見て会話をしていた冒険者たちが居心地悪そうにどこかへと消えていった。
やはり、ドラゴンの子であるという事実は偏見へと繋がるのだろう。
ボクやリュカさんみたいに、直接にオルリアの願いを聞いた者以外は特に……。
「どうにかしないと、な……」
「…………?」
そう考え、ぽつりと言葉を漏らす昼下がり。
ティオルは無垢な眼差しでこちらを見て、静かに首を傾げていた。
◆
「ねぇ、お爺ちゃん!」
「おー、どうしたんだい。ティオル」
ヘリオスがそんなことを考えていた日の夜のこと。
冒険者や職員も帰ったギルドの一室で、ティオルはコルティスに話しかけた。分厚い眼鏡をかけて資料を確認していたギルド長は、いったん手を止めて少年に向き直る。
優しげな声で対応されたティオルは、笑顔のままにこう言うのだった。
「お金の数え方、ヘリオスに教えてもらったんだ! すごいでしょ!」
それはまるで、その日の授業で習ったことを話す学生のようで。
コルティスはどこか懐かしい思いを抱きつつ、あえて驚いたような表情を浮かべた。
「おぉ、すごいなティオル!」
「えへへ!」
「もしかしたら、将来は王都立学園の首席かもしれないのぉ」
「しゅせき、ってすごいの?」
「あぁ、凄いさ」
「そうなんだ!」
ギルド長の言葉に、ティオルはさらに愛らしい笑みを見せる。
コルティスはそんな彼の反応に気を良くしたが、同時に少年の行く先にあるであろう苦難を考えて眉をひそめた。するとティオルは、コルティスのそんな機微に敏く反応する。
そして、静かにこう口にするのだった。
「ねぇ、お爺ちゃん。ぼくって、やっぱり変なのかな?」
「……どうして、そう思うんだい?」
「…………」
コルティスがヒヤリとしながら答えると、少年は言う。
「今日、聞こえたんだ。あいつは魔物の子だ、って」――と。
それは、ヘリオスと共に勉学に励んでいた時のことだった。
ティオルは聡く、決して馬鹿ではない。ヘリオスがあえて触れなかったことで、その言葉に込められた悪意を理解してしまったのだ。
そして今、自身の新たな親代わりであるコルティスに訊ねたのだった。
「ふむ……。ティオルは、それが気になるのかい?」
「ううん。ただ……」
「……ただ?」
難しい感情を押し殺しつつ、コルティスは訊ね返す。
すると、少年からは思わぬ言葉があった。
「たとえ魔物でも、お互いを知れば仲良くできるはずだから」――と。
それは両方を知るからこそ、口にしたものだった。
コルティスは彼の言葉を耳にした瞬間に驚き、そして深く感心する。そして、自然とティオルの頭を優しく撫でるのだった。
「あぁ、あぁ……そうだね。ティオルは、本当に賢い子だ」
「お爺ちゃん?」
小首を傾げる少年に、コルティスは何度も頷く。
その上で、ある決心をしたのだった。
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