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6.これはきっと、誰かの――夢。

_(:3 」∠)_(タスクに潰されて倒れている作家の図)






 ――あの日から、幾らか時が経過して。

 ボクは改めてギルド長室に通されていた。大きなテーブルに置かれているのは、特殊な色合いをしたドラゴンの鱗。大小様々なそれを観察しながら、ギルド長は小さく笑った。



「……まさか、本当にエンシェントドラゴンに出会うとはな」

「あ、あはは……」



 どこかしら含みのあるような声に、ボクは思わず苦笑いする。

 しかしその鱗は本物。正真正銘、エンシェントドラゴンから預かったものだった。だけど本来は討伐を指示されていたのだから、満点の答えではないだろう。

 だから、ボクはどこか誤魔化すように笑って乗り切るしかないのだった。

 そうしていると、ギルド長は鱗の一つをテーブルに置きつつ言う。



「倒すように言ったはずだが、あるいはそれ以上の成果かもしれんな」

「え……?」



 その言葉は、どこか嬉しそうで。

 ボクは思わず首を傾げ、相手の顔をうかがうのだ。

 しかしギルド長はそれ以上、表情を変えることなく何度か頷いて続ける。



「ヘリオス。お前さんの連れてきた少年――ティオルの引き取り先だが、どこかしら当てはあるのか?」

「ティオルの引き取り先、ですか……?」

「あぁ、そうだ」



 ボクが訊き返すと、ギルド長はこう言った。



「眉唾な話ではあるが、人間とドラゴンのハーフとなれば奇異の目は避けられまい。それならば、ひとまずこちらでティオルの保護をしようと思うのだが?」――と。



 その申し出は少し意外なもの。

 いったいどのような意図があるのだろうか、と思っていると……。



「……なに、取って食おうなどとは考えておらん。これはただ――」




 ギルド長は、ゆっくりと伏せていた目を開いて口にするのだった。




「少しばかりの罪滅ぼし、それだけだ」――と。










 エンシェントドラゴン――オルリアは、ボクに言った。




『ティオルたちに、外の世界を見せてあげてほしい』




 彼の真意までは分からない。

 それでも、ボクは彼がこちらを認めてくれたのだと思った。ミクリアも隣で穏やかに微笑み、静かに身を預けていたが、あえて何も口にしないまま。

 リュカさんと顔を見合せて少し考えたが、申し出を断る理由はなかった。




 そして――。




「おはよ、ヘリオスっ!」




 元気な声が、ギルドの中に響き渡った。

 それの聞こえた方向に視線をやると、そこにあったのは無邪気な笑みを浮かべる少年――ティオルの姿。彼はボクを認めると、一直線に駆け寄って抱きついてきた。

 その勢いに驚きつつも受け止めると、文句を口にしたのは隣のミクリアだ。



「あー! ティオル、そこはアタシの指定席だよ!?」

「していせき、ってなに……?」

「……ティオルにそれを言っても、きっと伝わらないと思うが」

「リュカは黙ってて!」

「朝から元気だなぁ、みんな」



 彼女の言葉の意味が分からずに、首を傾げる少年。

 そこにリュカさんも合流し、だんだんと会話が賑やかになっていった。ボクは楽しげに言葉を交わす彼らを見て、自然と笑みを浮かべてしまうのだ。



 種族など関係なく、ただ『仲間』という絆で繋がる光景に。



 そして思う。

 これはきっと、誰かが夢に思い描いた景色の一つに違いない、と。




「ねぇ、ヘリオス……?」

「どうしたの、ミクリア」

「えっと……」




 そう考えていると、ティオルをリュカさんに任せて。

 ミクリアがボクにそう声をかけてきた。


 彼女は小さく息を吸うと、花束のような笑顔を浮かべて言うのだ。






「今日はどんなクエストを受けるのかな!」――と。






 いつものように、これからも続く日々を願うように。

 夢を大切に守るようにして……。




 


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