4.傷だらけの勝利宣言。
うおおおお、頑張って書くぞぉぉぉぉぉ!
『――ティオルよ。外の世界は、お前にとって危険すぎる』
少年がいまよりも、さらに幼かった頃。
彼の祖父である竜の長は、そう告げたのだった。しかし少年――ティオルにとって、それは想像に難しい。自身が普通の人間とは異なると知ってはいたものの、それによる弊害というものが理解できていなかったのだ。
いいや、正確にいえば現在でもしっかりと理解できていない。
だからこそ少年は、夢を見るのだ。
「外の世界、って……どんな場所なんだろう?」――と。
物心つく前に亡くなった自分の母は、外の世界の人間だったという。
だとすれば、外の世界には彼女を知る人もいるかもしれなかった。そう考えると、自分のルーツを知りたくなるというのも普通の話だろう。
それでもティオルは、同時に素直だった。
祖父であるオルリアの言いつけを守り、一生懸命に我慢を重ねる。仄暗いダンジョンの中で、仲間の竜たちと戯れながら、自身の願いに蓋をしたのだった。
それでも、やはり夢は隠し切れない。
ダンジョンの最奥に迫ったヘリオスたちを見て、少年の心はざわついた。
初めて見る自分以外の人間に、心が躍って仕方がないのだ。
だが、しかし――。
◆
――きっとティオルは、他人との対話を知らないのだ。
ボクはあまりに無邪気に戦闘を行い、それを『遊び』と表現した彼にそんな感想を抱いた。ずっとダンジョンの中で暮らしていたのだとすれば、外の人間とかかわったことがないのなら、価値観に相違が出ても仕方ないだろう。
もちろんボクには、魔物の心や言葉は分からない。
それでも、純粋な人間である自分との差があるのは確かだった。
「キミは、外に行きたいの?」
「………………」
そう問いかけると、少年は静かに黙ってうつむく。
しばしの沈黙。その後に、ようやく口を開くとこう言った。
「でも、お爺ちゃんが危ない、って言うんだ。だから――」
首を左右に振って。
こちらを真っすぐに見つめ返して。
「自分よりも強い、信じられる人に守ってもらいなさい……って」――と。
その直後に、ティオルの身体は矢のような速度で突っ込んできた。
ボクはまた防御魔法で障壁を生成し、持ちこたえる。
「おにいさんは、どうなの? ぼくを連れ出してくれる人なの……?」
「…………くっ!」
「答えてよ!!」
こちらが苦悶の表情を浮かべると、どこか怒ったように彼は叫んだ。
痛々しいほどの願い。それが声という形で伝わってくる。ティオルは間違いなく、自分のことを連れ出してくれる存在を待っていた。だから、必死になっているのだ。
ボクがもしかしたら、その人かもしれないと思って……。
「みんな、みんなぼくを閉じ込める! でも、ぼくにだって――」
そう信じて、彼は拳を振り下ろした。
「夢はあるのに!!」――と。
なんて、悲しい言葉だろうか。
こんな小さな身体に、心に、大きな枷を与えられて。ボクはそんなティオルを見て、おこがましくも救い出したいと感じた。
自由を与えられない。
そして、夢を叶える機会すら与えられないなんて、どれだけ悲しいのだろう。それこそ『中途半端』だからと見放された自分と、大差がないような気がしてしまった。
彼には才能がある。
彼には大きな夢がある。
だったら、ボクのような『半端者』にならないように。
「………………え?」
「いてて、やっぱり強いね。……ティオル」
ボクはその一心で、少年の拳を受け止めた。
真正面から、しっかりと。
骨が軋む音がする。
いや、指先の何本かは折れてしまっただろう。
それでもボクは、小さなティオルの拳を掴んだのだった。そして――。
「一人で、寂しかったよね。……でも、もう大丈夫だ」
――あぁ、どうやら腕のそれもいかれてしまっている。
そんなひしゃげた腕でボクは、彼の身体をそっと抱きしめた。
「もう、一人じゃないよ」
どちらが勝者か分からない。
ボロボロのボクに、傷一つないティオル。
それでも自分は彼に対して、優しく勝利を宣言するのだった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!




