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4.傷だらけの勝利宣言。

うおおおお、頑張って書くぞぉぉぉぉぉ!









『――ティオルよ。外の世界は、お前にとって危険すぎる』




 少年がいまよりも、さらに幼かった頃。

 彼の祖父である竜の長は、そう告げたのだった。しかし少年――ティオルにとって、それは想像に難しい。自身が普通の人間とは異なると知ってはいたものの、それによる弊害というものが理解できていなかったのだ。

 いいや、正確にいえば現在でもしっかりと理解できていない。

 だからこそ少年は、夢を見るのだ。



「外の世界、って……どんな場所なんだろう?」――と。



 物心つく前に亡くなった自分の母は、外の世界の人間だったという。

 だとすれば、外の世界には彼女を知る人もいるかもしれなかった。そう考えると、自分のルーツを知りたくなるというのも普通の話だろう。

 それでもティオルは、同時に素直だった。

 祖父であるオルリアの言いつけを守り、一生懸命に我慢を重ねる。仄暗いダンジョンの中で、仲間の竜たちと戯れながら、自身の願いに蓋をしたのだった。



 それでも、やはり夢は隠し切れない。



 ダンジョンの最奥に迫ったヘリオスたちを見て、少年の心はざわついた。

 初めて見る自分以外の人間に、心が躍って仕方がないのだ。

 だが、しかし――。









 ――きっとティオルは、他人との対話を知らないのだ。

 ボクはあまりに無邪気に戦闘を行い、それを『遊び』と表現した彼にそんな感想を抱いた。ずっとダンジョンの中で暮らしていたのだとすれば、外の人間とかかわったことがないのなら、価値観に相違が出ても仕方ないだろう。

 もちろんボクには、魔物の心や言葉は分からない。

 それでも、純粋な人間である自分との差があるのは確かだった。



「キミは、外に行きたいの?」

「………………」



 そう問いかけると、少年は静かに黙ってうつむく。

 しばしの沈黙。その後に、ようやく口を開くとこう言った。



「でも、お爺ちゃんが危ない、って言うんだ。だから――」



 首を左右に振って。

 こちらを真っすぐに見つめ返して。






「自分よりも強い、信じられる人に守ってもらいなさい……って」――と。







 その直後に、ティオルの身体は矢のような速度で突っ込んできた。

 ボクはまた防御魔法で障壁を生成し、持ちこたえる。



「おにいさんは、どうなの? ぼくを連れ出してくれる人なの……?」

「…………くっ!」

「答えてよ!!」



 こちらが苦悶の表情を浮かべると、どこか怒ったように彼は叫んだ。

 痛々しいほどの願い。それが声という形で伝わってくる。ティオルは間違いなく、自分のことを連れ出してくれる存在を待っていた。だから、必死になっているのだ。

 ボクがもしかしたら、その人かもしれないと思って……。



「みんな、みんなぼくを閉じ込める! でも、ぼくにだって――」



 そう信じて、彼は拳を振り下ろした。







「夢はあるのに!!」――と。







 なんて、悲しい言葉だろうか。

 こんな小さな身体に、心に、大きな枷を与えられて。ボクはそんなティオルを見て、おこがましくも救い出したいと感じた。

 自由を与えられない。

 そして、夢を叶える機会すら与えられないなんて、どれだけ悲しいのだろう。それこそ『中途半端』だからと見放された自分と、大差がないような気がしてしまった。


 彼には才能がある。

 彼には大きな夢がある。


 だったら、ボクのような『半端者』にならないように。





「………………え?」

「いてて、やっぱり強いね。……ティオル」





 ボクはその一心で、少年の拳を受け止めた。

 真正面から、しっかりと。



 骨が軋む音がする。

 いや、指先の何本かは折れてしまっただろう。

 それでもボクは、小さなティオルの拳を掴んだのだった。そして――。




「一人で、寂しかったよね。……でも、もう大丈夫だ」




 ――あぁ、どうやら腕のそれもいかれてしまっている。

 そんなひしゃげた腕でボクは、彼の身体をそっと抱きしめた。




「もう、一人じゃないよ」




 どちらが勝者か分からない。

 ボロボロのボクに、傷一つないティオル。

 それでも自分は彼に対して、優しく勝利を宣言するのだった。




 


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