3.少年の夢。
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「ヘリオスたちが危ないって、どういうこと!?」
「ティオルはまだ、自分の力がどれ程か分かっていないのです! そして、このダンジョンの環境はまさしく、あの子にとって――」
◆
――ミクリアは、息を切らせながらダンジョン内を駆ける。
オルリアは彼女に語っていた。
ティオルという少年の持つ可能性と同時に、その危うさについてを。たしかにあの少年は、少女や古代竜にとっての希望であることは間違いなかった。しかしその反面、
「あまりにも強い、異次元の才覚は人間との差を広げかねない……」
彼は才能に恵まれ過ぎたのだ。
もっとも、その力というのはダンジョン最奥の潤沢で、穢れのない魔素を前提とする。ティオルは一歩ダンジョンを出れば、力の制御ができず、並の魔法使いと大差なくなるだろう。
だが、あまりに無垢すぎる現状の彼は危険だった。
ティオルはまだ、周囲との差についてしっかりと理解していない。
「ヘリオス……アタシが行くまで、なんとか耐えて!」
そんな少年を止めるために必要なのは、自分の力だろう。
ミクリアはそう考え、いままさに危機にある仲間の名を口にするのだった。
◆
「あはは! おにいさん、すごい! ぼくの速さについてこられるんだ!!」
「かなり、ギリギリだけどね……!!」
ティオルが肉薄し、ボクに目がけて拳を振り下ろしてくる。
それを寸でのところ回避すると打ち付けられた拳を中心として、地面には大きな窪みが発生した。轟音が鳴り響き、粉塵が舞い上がる。それを払うように風の魔法を使用すると、微かな切れ間から少年の小さな身体が飛んできた。
「くっ……!?」
一足飛びに迫られ、ボクは回避行動を取れずに堪える形になる。
防御魔法を幾重にも張って、どうにか最後の一枚で一撃を防ぐに至った。するとティオルは驚いたような表情を見せ、しかしすぐに無邪気な笑みを浮かべるのだ。
「凄いよ!! 外の人と『遊ぶ』のが、こんなに楽しいなんて!!」
――『遊ぶ』だって!?
その言葉に、ボクは思わず驚愕する。
何故なら、それは『少年がまだ本気ではない』のだと意味するからだ。それでこの速度に、破壊力を秘めているのなら、とんでもない才覚だろう。彼の力の源泉が潤沢な魔素であるとしても、その身にある可能性はあまりに大きい。
だけど、それと同時に思うのだ。
この少年はもしかして――。
「ねぇ、ティオル……?」
「なに? おにいさん」
だから、鍔迫り合いの最中に。
ボクは少年に、こう訊ねていた。
「キミの夢、ってなんだい?」――と。
すると、彼の瞳は揺らいだ。
そして力が一気に弱くなって一度、後方へと距離を取る。ボクは剣を下ろして、黙ったまま答えない少年を待った。そうやって、どれだけの時間が経過しただろうか。
ふと、ティオルはこう口にするのだった。
「ぼく、は――」
どこか退屈そうに、周囲の岩壁を見回しながら。
「外の世界のことを知りたいんだ……」――と。
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