2.ティオルとの出会い。
更新再開!!
「やっぱり、数が多いと難しいな……!」
迫りくるドラゴンの群れから距離を取りつつ、ボクは思わずそう口にした。
各々はそれほど強力ともいえない。だが、問題は統率が取れた動きをしていることだった。負傷した竜は後方に退いて、仲間を庇うようにして新手が姿を現わす。
リュカさんも眉をひそめながら戦っていた。
おそらく、彼女もボクと同じ違和感を抱いているのだろう。
「数が多いだけじゃない。……誰か、指揮をしている者がいる?」
そうとしか考えられなかった。
ここまで適切な判断、そして行動を魔物であるドラゴンにできるだろうか。仮に可能であったとしても、それはきっとごく一部の個体に限られるはずだった。そうなると可能性として挙げられるのは、やはりギルド長が言っていたエンシェントドラゴン、となる。
――でも、本当にそうなのか?
ミクリアの言葉を思い出し、ボクはもう一度考える。
少女を信じれば、彼女はいまそのドラゴンと対峙しているはずだった。
そのような状況下において、これほどの指示が出せるのか。いや、あり得ない。もし大精霊を名乗るミクリアを招き入れているとすれば、そちらを疎かにするわけにはいかない。
だとすれば――。
「他にも誰かいるのか?」
そう思い至って、ボクが口にした時だった。
「正解だよ、おにいさん」
「え……?」
「な、人間の子供!?」
幼い少年の声が、ドラゴンの群れの中から聞こえたのは。
驚きのあまりボクとリュカさんが手を止めると、ドラゴンたちも動きを止める。まるで世界の時間が停止したような錯覚に陥るが、そのようなことはあり得なかった。
しばしの沈黙の後に、声の主はドラゴンの群れの中からゆっくりと姿を現わす。
そして、小首を傾げながらこう言うのだった。
「えと、はじめまして。ぼく、ティオルっていいます」
礼儀正しく、ぺこりと頭を下げる少年。
ティオルという名の彼の出で立ちは、少し独特な印象を受けた。左右で異なる赤と青の大きな瞳に、ボサボサに伸びた銀の髪。身にまとうのは、小柄な身体に似つかわしくない大人用の女性服だった。
そんな彼は子供の竜を肩に乗せ、続けて言う。
「お爺ちゃんが力を試す、って言ってたんだ」
「……お爺ちゃん、って?」
「えと、竜のお爺ちゃん。ぼく、竜と人の子供だから」
「竜と、人間の……!?」
ティオルの言葉に、驚きを隠せなかったのはリュカさんだ。
彼女は眉間に皺を寄せて、小さく「あり得ない」と口にする。たしかに、にわかには信じられない情報であることは間違いなかった。しかしながら、この少年から漂う気配は魔物と人間のそれが入り混じっている。
もちろん、そのくらいはリュカさんでも感じているはずだ。
だが、それでも驚きを隠せないのだろう。
「変、なのかな? でも、ホントだよ」
「ねぇ、ティオル。キミは何のために、ここにきたんだい?」
「…………」
静かに首を左右に振るティオルに、ボクは訊ねた。
すると彼はしばし黙って、まっすぐにこちらを見据える。そして、
「ぼく、トモダチがほしいんだ」
そう、言った。
ティオルは肩の子竜を撫でながら、一つ頷く。
「お爺ちゃんが力を試すって、そう言ったから。だったらぼくも、キミたちの力を見てみたいって思った。だったら――」
その次の瞬間だ。
「キミたちの相手をぼくがしても、問題ないよね……?」
「な、これって……!?」
「凄い魔力だ……!」
少年の纏う空気が一変したのは。
ボクでさえ思わず息を呑む魔力が、ティオルの小さな身体から溢れ出したのだ。
おそらくは周囲の魔素が反応しているのだろう。そうでなければ、このような異常な魔力をあの小柄な肉体に内包できるはずがない。だけど――。
「この魔力の変換速度、やっぱりティオルは……!?」
本来ならば、魔物のような生物でなければそれを即座に魔力変換はできない。
人間ももちろん、魔素を基に魔力を生成する場合があった。だがしかし、いかに魔法に長けている者でも、魔素そのもので肉体を構築する魔物には敵わない。
つまり、この少年は本当に――。
「おにいさんたち、簡単に倒れたらいやだよ?」
本当に、竜と人の間に産まれた子供なのだ。
そう確信を得た瞬間、彼の姿はその場から掻き消えて――。
「リュカさん、危ない!!」
「なっ!? ――が、ふ……!?」
より彼の近くにいたリュカさんのもとへ。
目にも止まらぬ打撃を加えて、自分よりも大きな彼女を壁まで吹き飛ばした。
「んー……?」
首を傾げるティオル。
リュカさんは、どうやら気を失ったらしい。
ボクはそんな二人のやり取りを見て、一つ息をついてから剣を構えた。
これは、少しも気を抜けない。
本気でぶつからなければ、危険だと考えながら……。
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