7.エンシェントドラゴン――オルリア。
亀更新申し訳ないです_(:3 」∠)_
――いまから遥か昔のこと。
まだ生まれたばかりのミクリアは、先代である母の庇護下において暮らしていた。精霊の世界にあるのは、とにかく清らかな魔力。しかしそれ以外には何もなく、おてんばな少女にとっては退屈な日々が続いていた。
なにか面白いことはないか、と。
そう考えて、少女が足を運んだのは古い文献を扱う書斎だった。
「へぇ……!」
そこで、彼女は知ったのだ。
自分たち精霊はその昔、人々と共に暮らしていたことを。互いに協力し合い、種族の垣根を越えて、尊重し合いながら生きていた。時に衝突することもあったが、その文献に描かれた内容は、ミクリアの胸を震わせる。そして、いつか彼らに会いたいと願った。
だが、母はそれを許さず。
ミクリアはついに、彼女と和解することはなかった。
◆
「最後に会ったのが、何百年もまえだったよね。……オルリア」
「……えぇ。その頃はたしか、人と魔物の対立が激しくなっていた頃合いでしょうか。私もまだ若く、考えも浅はかで向こう見ずでした」
「そうだったかも、しれないね」
疲れ果てたと語るドラゴンのことを撫でながら。
ミクリアは、静かにそう口にした。
「人間と我らは違う種族。それでも、話し合うことさえできれば、何かが変わるかもしれない。あるいは、そうに違いないと考えたかったのでしょう」
ミクリアに対して、オルリアはどこか悲しげに語る。
かつて、このドラゴンと少女は同じ方向――理想を見ていたのだ。種族の壁は乗り越えられる、と。きっと、分かり合えるはずに違いないのだ、と。
しかし争いは激化し、それに伴って仲間の血が多く流れた。
「だが、現実を目の当たりにするたびに、私の心は摩耗していった。死していく仲間の最期の声が、叫びが、耳に張り付いて離れてくれないのです」
「それでも、キミは――」
苦しみを語るオルリア。
だが、そんな彼にミクリアは言った。
「まだ、夢を見ているんだね……?」――と。
自分たちが、初めて出会った日を思い出しながら。
「あの書斎で、偶然に出会って。一緒に読んだあの日の夢を」
「………………」
それは、幼き日の記憶。
彼らは同じ日、同じ時を過ごして理想を語り合った。それがとても困難な道程であるとしても、それこそがあるべき姿なのだと、そう信じて。
だから、ミクリアには分かるのだ。
このドラゴン――オルリアが、まだ夢を抱いていることが。
「だって、もし諦めたのだとしたら。こうやって、ここにいる必要もない」
「えぇ、そうですね。たしかに私には、このダンジョンに籠る理由がない」
彼が仮に人間を見限っていたなら。
このダンジョンを出て、別の地へ向かうこともできたはずだった。それでもそうしないのは、何かまだ、微かでも希望を抱いているから。ミクリアは、その理由が知りたかった。
だから、意を決して訊ねる。
「……オルリア。いったい、何があったの?」
「………………」
すると彼はしばし黙り、そして――。
「我が子が、人間の娘との間に子を授かったのです」
静かに、そう語り始めた。
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