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ダンジョン「地球」の管理者は、人生二度目の天使さま。  作者: 伊里諏倫
小鬼たちの哀歌

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115/122

ゴブリン・リベリオン

【連続投稿 1/2】

 一口に「探索者」と言ってもその質は玉石混交だ。


 レベルが低くとも、知略や勇気でそれを補い、深部を目指す者もいれば。

 レベルばかりが無駄に高く、技量も伴わず、更には向上心の無い者だっている。

 得てして、後者は絶対に負けることのない浅い階層に()()()()()、力を誇示するようにスキルを振り回す。そうして僅かばかりの日銭を稼ぐのだ。


 今、東京摩天楼の「ゴブリン窟」で配信を回している、二人組の探索者もそう。


「おい、ちゃんと抑えとけよ!」

「分かってるって、うるせぇなぁ。それより、映ってっか?」

「ああ、バッチリ」


 目に痛すぎるぐらいの色に髪を染めた男たちが、荒く息を吐く。

 その内一人はゴブリンを羽交い絞めにしながら、磔のようにしていた。


「ギィイイイイ!」

「クソッ、暴れるんじゃねぇ! オラ!」

「ギャッ……!?」


 拘束から逃げ出そうと藻掻いたゴブリンの腹に、膝蹴りが突き刺さる。そうした一部始終を一つ目のドローンカメラが記録していた。


「……やっと大人しくなったか。チッ、手間かけさせがやってよ」

「よーし、そんじゃお楽しみタイムと行こうぜ」

「今日は何を用意したんだっけ~?」


 やけに芝居がかった口調で片割れが問うと、もう一人の男が鞄から赤い容器を取り出す。毒々しい装飾のラベルが張られていて、よく目立つ。


「じゃ~ん! 通販で取り寄せた、激辛ソース~! なんかスコヴィル値? とかいうのがヤバいぐらい高いヤツ!」

「うっへ、やっば! 匂いだけで涙が出てくんだけど!」

「今からこの激ヤバソースを、ゴブリンくんに食べさせてあげたいと思いま~す」

「うぇ~い!」


 二人組の探索者、かれらは俗にいう「迷惑系配信者」だった。


 元々大手の動画配信サイトで犯罪紛いの行為を繰り返し、世間の耳目を引くことで収益を得ていたが、余りにも目に余る言動から、チャンネルの停止や収益化の無効を宣告されてしまった過去を持つ。

 その後もいくつかのサイトを渡り歩きながら、同じことを繰り返す日々。やがてかれらが最終的に流れ着いたのが「ダンジョン配信」だった。


 ダンジョンは、どこかしこにもライブカメラという名の目があるから、同じ探索者相手に迷惑行為を働くと、すぐに罰せられてしまう。炎上して悪名が売れるなら望むところだが、協会から出禁にされると、今度こそ行く先がない。

 そこでかれらはダンジョンにおける不届きもの――モンスターに目をつけた。


 モンスターには人権が無い。

 どんなに残虐なことをしても、罪に問われない。

 肥大化する承認欲求とエスカレートしていく犯罪行為の受け皿に、これほど丁度良いサンドバッグはいなかった。


 何せ少しレベルを上げれば、低層のモンスターなど簡単に倒せるのだから。


「くっくく。ほら、あーんだぞ、あーん」

「たっぷり食べろよ~」


 本来であれば、かれらはもう第五層の番人(ボス)、ゴブリンキングに挑戦して問題ないくらいのレベルだ。


 しかし一切先へ進まず、こうして弱者ばかり甚振っている。

 そうやって日々のストレスを解消しながら、刺激を求める視聴者たちへコンテンツを届け、食い扶持を稼いでいるのであった。


「おい、口開けろや! クチ!」

「ギ……ギ……!」

「せーの、よいしょお!」

「ギギャアアアアアアアアアア――――ッ!?」


 口内に無理やり刺激物を詰め込まれ、絶叫するゴブリン。

 それを見てゲラゲラと嗤う探索者たち。

 醜悪な一部始終を映す、無機質なレンズの瞳。


 この場には何一つ、明るいものがない。

 ただヘドロのような悪意があるだけだ。

 まともな人間なら、溢れ出す腐臭に鼻を摘まんでいることだろう。


「あークソ、コイツもうくたばりやがった!」

「だから目はやり過ぎだっつったろ! 加減しろや馬鹿が!」

「は~あ。ま、スッキリしたからいいや」


 結局、哀れなゴブリンはその身をポリゴンに変えるまで解放されることはなかった。男が空になった容器を無造作に放り投げる。


「どうする、もう一本いっとくか?」

「それじゃワンパすぎるっしょ。次はダブルで――あん?」


 ふと、男たちが通路の向こうへ目を向けた。

 そこに一体のゴブリンが立っている。


 一見、そのゴブリンは何の変哲もない、ただのゴブリンに見えた。ただし服装が他のゴブリンと比べ、小奇麗で、錆びていないちゃんとした剣を持っている。もっともゴブリンウォーリアーと違って、鎧は着込んでいない。


 男たちは少し不思議に思いつつも、新しい犠牲者(カモ)がやってきたとほくそ笑んだ。


「ちょうどいいや、次はアイツを掴まえようぜ」

「さっきは俺が抑える側だったから、お前頼んだわ」

「チッ、しゃーねぇなぁ」


 ぼやきつつ、一人だけが前に出る。

 獲物は抜かない。ゴブリンごとき素手でも捕らえられる自信が彼にはあった。わきわきと手を動かして、ゆっくり肉薄していく。


「ゴブリンちゃ~ん、こっちきて俺と遊ぼ――――え?」


 ぽとり。何かが地面に落ちる音。

 見れば棒切れのようなものが落ちている。先が五股に分かれ、うぞうぞと蠢く。

 少しして、赤い液体が漏れ出した。



「あ、へ、あ」



 その音は――人間の腕が斬り落とされた音だった。


「俺の腕がぁああああああ!?」

「おいどうした! 何が――」


 後ろで待機していた男が思わず駆けだそうとした瞬間、ゴブリンの持つ剣が閃く。そうして彼は見た。仲間の首がいとも容易く刎ねられる一幕を。まるでボールのように転がった首の、驚愕に見開かれた両の目を。そこに映る引きつった自分の表情を。

 一切合切、見せつけられる。


「てめェええええ! ゴブリンごときがあああああ!」


 腐っても、男もまた探索者。

 背中の槍を抜いて、咄嗟にスキルを発動した。



「死ね、死ね、死ね! 【突撃】(ブリッツ)ッ……!!」



 穂先を突き出し、全体重を載せて前方へ突き進む〈槍士〉の攻撃技。

 馬鹿な仲間は油断してやられたようだが、今までゴブリン相手にこのスキルを使って、力負けしたことなど一度もない。彼の脳裏には既に、小鬼を弾き飛ばす己の姿が浮かび上がっていた。


 しかし。


『…………』


 激情に駆られる人間に対し、ゴブリンはどこまでも冷徹だった。

 衝突の瞬間、ひょいと右に避ける。さながら闘牛士のよう。たったそれだけで、渾身の【突撃】を無効化してしまう。男は標的を見失い、そのまま壁に激突していった。


「いっでぇ……!」


 安物の槍が根元から折れ曲がる。


 鼻を抑え、蹲る男の傍に小さな影が落ちた。

 頭の上に二本の角が生えている、人型のシルエット。

 その実像を男がもう一度拝むことはなかった。


 何故ならば、



「ヒッ――」



 振り返る前に、首を刎ねられたからである。


 くるくると回った首級はライブカメラのレンズにぶつかって、赤黒い尾を引く。

 微かに見えた隙間から、死に戻り(リスポーン)の明かりが漏れていた。

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