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95.有力なる四候補

参加者の正確な数は64人。


トーナメント優勝まで六勝という道のりだ。


俺が振り分けられたのはDグループだった。


同じグループ入りした受験者たちから落胆の声が上がる。


「なんでDに連中が集まってるんだよ」


「割り振り方が無茶苦茶じゃないの!」


「他の組のやつらは棚ぼただな」


「ったく、今年はダメだ絶望しかねー」


男女問わず口々に、受験者たちは呪いの言葉を吐き続けた。


何がそんなに絶望的なのだろう。


適当に話しかけやすそうな男の受験者に聞いてみる。


うっすらと青みがかった髪の、眼鏡の青年だ。


「なあ、どうしてみんな最初から諦めムードなんだ?」


「キミは……筆記試験にギリギリで入ってきた人だよね?」


純朴な雰囲気で、まだあどけない少年の面影を残しつつ、青年は微笑む。


他の連中に比べると、あまり落ちこんだ素振りも見せていなかった。


「ああ。騒がせて悪かった。それで、どうしてこの組の連中だけ悲鳴を上げてるんだ?」


「キミ、何も知らないのかい?」


「色々と疎くてな」


フフッと笑みをこぼすと青年は頷いた。


「うーん……どこから話せばいいかわからないけど、そうだね。この試験には明確に何人合格という規定はない。だけど理論魔法学の教員免許となると、年間四人も取得できれば良いっていう狭き門なんだ。だからみんなピリピリしてるんだよ」


「へー。年間四人って……そんなんで先生は不足しないのか? 王都にだってエステリオほどの規模じゃないけど、学校はたくさんあるだろ?」


「この試験で取得できる免許は、一般的な教員免許とは違うんだ。エステリオや各地の大学で教えられるものだから、審査が厳しくなるのも当然さ」


「お前、物知りだな」


「そうかな? ありがとう」


すっかり合格を諦めているのか、青年は穏やかな表情を崩さない。


「しかし狭き門っていうのなら、他のグループも条件は一緒だろ?」


「うーん、そうでもないみたいでさ。今年の有力受験者四人が、四人ともこのグループに集まっちゃったからなんだ。四人がつぶし合いになったので、他のグループの受験者は相対的に有利になった……って、ところかな」


強豪ひしめく死のグループDってわけか。


俺は周囲を見渡した。


ウェーブがかった赤い髪の女が不敵に口元を緩ませる。


俺よりも二回りほど身長が高く、横幅も広いがっしりとした山のような短髪男も、黙々と出番を待っていた。


緑の髪をなびかせたチャラい男が、やれやれとため息混じりな表情を浮かべる。


おや、この三人くらいで……一人足りないな。


闘技ステージ上で、審判員が名前をコールした。


「レオ・グランデ君。セリオ・ミズガルド君。ステージへ」


セリオ・ミズガルドの名が呼ばれたと同時に、他のグループの参加者までもがこちらに視線を向けた。


先ほどの赤髪女。山男。チャラ男の視線も俺……の隣の青年に注がれる。


「僕の出番みたいだ」


「奇遇だな。俺もだよ」


周囲の受験者が再びざわついた。


「あいつも運が無いな。初戦が最有力のセリオなんて」


「少しはセリオにダメージを与えてくれ頼むから!」


「つーか対戦相手アレじゃん。遅刻した人。正直期待できないんじゃない?」


「削れなんて言わないから、セリオのスペックの少しは出させろよ!」


どうやら今年の有力者四人の中でも、このセリオが筆頭らしい。


ステージに上がると、審判員を挟んで俺はセリオと対峙した。


「あれ? 計算尺は使わないのかい?」


「暗算派なんだ」


「へぇ。珍しいね。だからといって油断も遠慮もしないよ」


俺が身構えたのをみて、審判員がゆっくりと右腕を上げた。


「双方、理論魔法のみの使用を許可する。悪質なステージ破壊、及び即死系となる魔法は禁じ手とする。戦闘不能と私が判断した場合と、場外に身体の一部が落ちた場合は敗北とする」


ルールは学園の試合のルールと、基本は変わらないようだな。


「では、第一試合……はじめっ!」


審判員が腕を振り下ろしたのと同時に、俺とセリオは魔法式を展開した。


まずは俺の実力を見ようと、正面を斥力場で固めつつ、動きを封じる重力の枷か。


セリオの式は素直で読みやすい。どことなく、最初の頃のクリスを彷彿とさせた。


教科書通りってやつだな。


しかし遅い。展開力はクリスの方が上だ。


俺はセリオの構築した重力の枷に、ぴったり合わせて反重力の魔法式をかぶせて無効化した。


「やるね。計算尺も使ってないのに、後から追いかけられてこちらの魔法をうち消されるとは思わなかった。キミみたいな人を天才というんだろうね」


言いながらセリオは次の魔法式を展開した。


俺のいる位置に直接斥力場を発生させて、場外に弾き飛ばすつもりか。


シンプルな攻めになるのも仕方ない。


理論魔法自体は強力な系統の魔法だが、他系統との組み合わせが出来ず、場外に落とすのが有効となれば戦い方も単調になりがちだ。


俺は目の前に発生した斥力場に押されるようにステージから弾き出された。


「終わったわね」


「……うむ」


「ま、当然の結果っしょ」


見物していた四天王の残り三人の反応が出る前に、俺の魔法式は展開する。


弾き飛ばす勢いを重力制御系で削ぎつつ、場外に不可視の足場を生み出して、その上にそっと着地した。


「あれ? おかしいな。魔法式の展開が間に合うわけないのに」


セリオは首を傾げさせた。


式が見えなくて当然だ。ノータイムで発生させたんだからな。


「そうか。きっと僕が式を見逃していただけだね」


俺は空中の足場からステージに戻る。


セリオが微笑んだ。


「すごいや。キミみたいな人がいるなんて驚いたよ」


セリオは自分の手に斥力場を纏わせた。さらに別の魔法式で、自身にかかる重力を軽減させる。


跳ねるように石床を蹴って、セリオが緩やかな弧を描きつつ宙を舞い、上空から俺に襲いかかってきた。


落下点に俺を捉えると、重力の軽減を反転させてセリオは加速しながら、斥力場を纏わせた拳を打ち付ける。


身体を反らして避けると、俺の足下の石床が陥没した。


「わあ……避けられるとは思わなかったな。体術もできるんだね」


セリオの瞳からだんだんと光が消えていく。


「避けるくらいは魔法に頼らなくてもいいだろ? わざわざ受けてやる義理はないからな」


観衆の吐息とどよめきが、水面に投げ込んだ小石の描く波紋のように広がった。


四天王の残り三人の表情がこわばる。


「い、いいい今のはただの偶然ね!」


「……身体強化無しにあれを避けることはできない。不正を見逃すとは審判の目は節穴か」


「いやいやセリオがわざと外したに決まってんじゃんよ。死にたくなきゃステージから降りろって警告だぜありゃぁ」


セリオは上半身を起こして、すぐさま俺に拳の連打を浴びせかけてきた。


俺も斥力場を纏わせた掌で、その全てを受け流す。


同じ極同士を近づけた磁石のように、セリオの拳は反発してあらぬ方向へと外れていった。


「おかしいな? なんでだろう。どうして僕の攻撃を防げるの?」


「ちょうど同じ大きさの斥力場同士だからだろうな。どちらかがあと少し強ければ、こうしてべた足のインファイトは続けられないだろ」


綱引きでいえば両者の力が拮抗して保たれた……そんな間合いだ。


「偶然か。キミは運も良いんだね」


そうだな……そろそろ足を使ってみよう。


といっても、蹴り技ではなくフットワークの話だ。


身体強化系の魔法は禁じられていても、体術禁止ではないようだし反則はとられまい。


俺はじりじりと後退し、わざとコーナーに追い詰められるようにセリオを誘い込んだ。


「あとがないね? 今までのはやっぱりマグレだったのかな?」


「試合中に喋ってると舌を噛むぜ?」


セリオの放つ大振りのフックに合わせて、ダッキングで相手の脇に滑り込む。


そのまま頭を低くして通り抜け、俺はセリオの背後に回り込んだ。


コーナーに追い詰めていたはずのセリオが逆に追い詰められる。


慌ててセリオが不可視の足場を構築しだしたのをみて、俺はその魔法式にこっそり干渉した。


同時にセリオの背中を軽く押すようにする。


「残念だったね。僕にだって足場が……」


セリオはわざと一歩踏み出した。


不可視の足場に逃れようとする。


が、それを彼は踏み抜いたようにステージの下に転げ落ちた。


セリオの落下を確認して審判員が手を上げる。


「そこまで! 勝者レオ・グランデ!」


場外負けになったセリオが立ち上がれずにステージ上の俺を見上げていた。


「な、なんで……い、いったい何をしたんだ!? 僕は足場を作ったのに!!」


「焦って魔法式の構築をしくじったんだろ?」


純朴そうに見えたその顔が醜く歪み、セリオが絶叫した。


「ありえない! こんなの無効だ! 僕はこの試験を主席でパスするはずだったんだ!」


「運が無かったな」


セリオは黙り込んだ。


彼から見れば、俺は正体不明の非常識な飛び入り参加者だ。


敗退したセリオに声を掛ける者も手を差し伸べる者もなかった。


次にセリオと戦うかもしれなかった二人が揃って、相手が俺に変わったことを露骨に喜び、その場でガッツポーズをしたり両手を挙げている。


四天王の残り三人は敗者となったセリオをわらった。


「四候補最強が聞いてあきれるわ。あんなミスと自爆で沈むなんて。ひとくくりにされたくないわね」


「……ただただ不快な戦いだった」


「つーかセリオよぉ。化けの皮が剥がれたな! ひゃっはっはっは!」


序列的にセリオが一番だったことを考慮すれば、四天王の残り三人もお察しか。


今すぐまとめてかかってこい……と、いうわけにもいかないのがもどかしいな。



やりすぎないように勝つのは、一筋縄ではいかなかった。


ステージの破壊を可能な限りせず、受験者に大怪我をさせるような攻撃は控え、簡単に勝ちすぎないよう、相手にある程度攻撃させてから自滅に追い込むという戦い方を、終始心がけた。


二試合目はセリオを俺が倒したおかげで、ワンチャンスあると踏んでいたガッツポーズ男。


特筆すべき点はなかったな。


三試合目は四天王の一人、チャラ男との対戦となった。


こいつは口だけは達者だ。


俺に自身の理論魔法が通じないとみるや「今日はオレの日じゃねぇ。やめるわ」と勝手に勝負を投げて、そのあとはずっと上から目線でステージ外から、俺の試合を解説し始めた。


四試合目は赤髪女をねじ伏せた山男との対戦だったのだが……。


素の身体能力ではセリオとは比べものにならないのだが、魔法式の同時展開ができない山男は、セリオほどの使い手ではなかった。


そんな山男に負けたのだから、赤髪女の実力もその程度ということだろう。


決勝の相手は四候補を倒した俺にすっかり臆してしまい、ほとんど見せ場も無く魔法式の構築を失敗して試合にすらならなかった。


トーナメントの戦績は六連勝。


俺はきっちり優勝を飾った。


筆記も問題無いし、実技もこの結果なら、教員免許を手に入れたも同然だな。

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