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93.時間制限

ゴロツキを撃退し、少女がエヘンと平らな胸を張る。


この小さな身体からほとばしる魔法力は、おびただしいものだ。


「ほれ、わらわに何か言うことがあるじゃろ?」


「ん? なんだ?」


言うことと言われても……そうだ!


ここは大人として、きちんと言っておこう。


「いいかちびっ子。もう、一人でそんな豪華な身なりのまま、路地裏に入っちゃいけないぞ」


襲ってくださいと言っているようなものだ。実際に危ないのは襲ってきた方なんだが……。


「ち、ちびっ子ではない! 仮面ジャスティスじゃ!」


やけにその名前にこだわるな。


仮面……仮面……。


仮面ジャスティス……あ! 思い出した。


今朝、プリシラが俺に勧めてくれた絵物語だ。


なるほど。そういうことか。


おおかた魔法使いの名門貴族の娘が、その絵物語に影響を受けまくって模倣したってところだろう。


「ごっこ遊びをするなら友達同士でしろって」


「遊びではない! わらわは本気じゃ! ここで貴様が言うべきは『危ないところを助けてくれてありがとうございました』であろうに」


「俺は別に危なくなかったぞ」


一番危なかったのは、今、俺たちの足下で気絶している連中だ。


「だ、だいたい貴様は失礼なのじゃ。いきなり腕を掴んで人を壁際に押しつけて……ど、ドキドキして魔法の火力が上がってしまったではないか! そもそもちゃんと火力調整はできておったのだ。貴様があのような距離にまで近づいたことが悪いのじゃからな!」


「しょうがないだろ。狭い路地なんだし。ああしなきゃバレてたぞ」


仮面の少女は小さく唸る。


「むぅ……結果としてバレたではないか!」


「苦情は引き返したこいつらに言ってくれよ」


「先ほどから、ああ言えばこう言う……生意気なやつめ」


宝剣を鞘に納めて腕組みすると、少女はフンッ! と鼻を鳴らした。


「さて……余計な邪魔は入ったが、次の悪を探しにいくとしよう。さらばじゃ!」


それはいかんでしょうに。


彼女自身はおそらく無事だろうが、悪人と戦う上で彼女の力が強力すぎて、副次的な事故の発生が容易に想像できた。


兎を狩るのに極大破壊魔法を連射するようなものだ。


「いや待って! お待ちください仮面ジャスティス様!」


俺の前から去りかけて、少女は足を止めた。


「なんじゃ? 町のしがない青年よ」


「実は迷子になってしまって困り果てていたんです。貴族街に行きたいのですが、どう行って良いのやら」


「駐在の警備兵に聞けばよかろう?」


急に俺が下手に出たのを気にも留めず、少女は不機嫌そうにぼやく。


俺は下手に出たまま続けた。


「それが誰かに道を聞いても、私ときたらすぐにあらぬ方向に行ってしまって。ああ、困った困った」


少女はわざとらしく大きなため息を吐いた。


「ああ、まったく仕方ないのう。正義の味方が困っている人間を放ってはおけぬ。来るが良い」


少女は表通りに向けて歩きだす。


ほっと安堵の息を吐きつつ、俺は堂々と先を行く彼女の背中についていった。



中央広場に戻ると、少女は「あの馬車に乗ればすぐじゃ」と、十二番街方面行きの路線馬車を指さした。


俺は困り顔で聞く。


「馬車にはどうやって乗れば良いのでしょう?」


「貴様、田舎者じゃな。仕方ない……最後まで一緒に行ってやろう」


派手で目立つ風体を気にも留めず、仮面ジャスティスは馬車に乗り運賃を支払った。


俺もそれに倣って馬車に乗る。


十二番街は通称、貴族街と呼ばれていた。


王都の中でも特別な人間だけが住むことを許された、特別な場所だ。


乗り合いの路線馬車には俺たち以外に乗客は居なかった。


少女が窓際の席で、退屈そうに頬杖をつきながら俺に聞く。


「時に、貴族街になんの用向きじゃ? 奉公か? 兵士として志願するなら西の軍管区じゃぞ?」


「え、ええと……ちょっとした野暮用です」


「怪しい奴じゃな。悪い事をしようというなら、この仮面ジャスティスの第三の眼がお見通しじゃぞ」


少女は仮面についた額の宝石を指さし、自慢げに笑った。


「そ、それはすごいですね」


「すごかろう! どんな悪行も見つける千里眼なのじゃ」


自慢げに言ったところで、キューッ! と、奇妙な音が響いた。


「うっ……そういえば、今は何時じゃ?」


俺は懐中時計を取りだした。


「一時二十分だ……じゃない、一時二十分です」


試験開始まで四十分か。


結構ギリギリじゃないか?


「うう、どうりでお腹が空くわけじゃ。戻ってきてしまったし、今日はこれくらいにしておこう」


どうやらさっきの「キューッ!」という音は、彼女の空腹の虫が騒いだもののようだ。


そういえば俺も飯抜きだな。試験中に腹が鳴らないことを祈ろう。


馬車が停車し、御者がドアを開くのを待ってから彼女は先に降りる。


「どうしたのじゃ?」


「いや、ちょっと忘れ物を思い出して。自分はこのまま一度馬車で戻ります。貴族街には無事つけましたし、次はもう迷わないと思うので……ありがとうございました仮面ジャスティス様」


俺がぺこりと頭を下げると、少女は嬉しそうに笑った。


「おお! やっと話がわかるようになったな青年よ。わらわも貴様が喜んでくれて嬉しく思う。良いか、今後は一人で裏路地などに行って迷子になるでないぞ!」


それはこっちのセリフだ。と、思ったが言い返しはしなかった。


「はい。気をつけます」


「ではな! できることなら、また会うことが無いことを祈るぞ。なぜなら仮面ジャスティスあるところ、危険と犯罪の影ありじゃからの!」


一応、俺の事を気づかってくれているんだよな。


俺はもう一度、運賃を払った。御者は不思議そうな顔をしたが、ドアを閉めて馬車を出す。


少女は馬車が出るのを確認して、颯爽と白いマントを翻すと、まっすぐ王城方面に歩いていった。


城に近いほど名門貴族の屋敷になる。


睨んだとおり、大貴族のお嬢様みたいだ。


座席後部の窓からも、すぐに彼女の背中は見えなくなった。


仮面ジャスティスか。


俺の光学迷彩や理論魔法による補正の発動に、まるで気付かなかったところをみると、どうやら彼女は理論魔法が苦手なようだ。


精霊魔法の才能があるだけに、制御が苦手なのは実にもったいない。


そんなことを思っている間にも馬車は快調に走り、ほどなくして俺は中央停車場に戻ってきた。


懐中時計で時刻を確認すると、一時三十五分だ。


すぐに行政区画行きの馬車に乗り継ごうと停車場を探すと、時計塔が目にとまった。


時刻は一時五十五分。


えっ!? なんで?


俺は懐中時計の針と時計塔の表示を見比べて、すぐに理解した。


この時計、遅れてやがる! どのタイミングで遅れたのかはわからないが、今の正確な時刻は一時五十五分だ。


「やばすぎるだろ!」


悠長に馬車なんて待っていられない。


俺は東の三番街方面に向けて走り出す。


駆けながら戦闘実技の身体能力強化と、回復魔法による能力強化を二重掛けして、その力を走る能力に一極集中させた。


景色が吹き飛ぶように通り過ぎ、先行する馬車を次々と追い越して、俺は王都を一陣の風となり駆け抜けた。



行政区画に入ると、俺は理論魔法で不可視の足場を組んで空中へと駆け上がる。


時間が無い。


行政区画には国家運営に関するいくつもの施設の建物が集められていた。


感知魔法を広域展開する。


広域にしたことで詳細な位置はわからなかったが、さらに東に二㎞ほどの場所に、ランクB以上と推定できる魔法力の反応を多数感知した。


もう時間が無い。俺は意識を集中してそちらに向け跳ぶ。空中を駆ける。


不可視の足場を蹴って放物線を描きながら着地すると、行政区画内の碁盤の目のように整理された舗道を走り抜けた。


ひときわ立派で大きな門構えの建物が視界に入る。


門の脇の“教育委員会館”という文字を確認して、俺は警備兵の脇を通り過ぎた。


「な、なんだ!?」


警備兵が振り向いた時には、俺は会館の建物二階の高さに跳躍していた。


「侵入者だ!」


騒ぎの声を背中に受けながら、建物の外壁を前に俺は理論魔法で座標を固定し……跳ぶ。


短距離瞬間移動魔法だ。


壁をすり抜け、着地と同時にもう一度瞬間移動し、さらに三度目の瞬間移動を行ったところで――。


ゴーン……ゴーン……。


遠くどこからか、午後二時を告げる鐘の音が鳴り響いた。

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