表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/211

83.薬学科の魔女

研究棟のテラスに座り、俺とエミリアはマーガレットの特製アイスハーブティーと焼き菓子でもてなされた。


ハーブティーはミントが入った清涼感のあるものだ。サクッと香ばしいアーモンドの風味が香るクッキーも、すごく美味い。


エミリアがクッキーを一口食べて幸せそうに頬を緩めた。


「お、美味しいです! これなら何枚でも食べられちゃいそうです! マーガレット先生の手作りなんですか?」


マーガレットはドヤ顔だ。


「ええ。料理も魔法薬学も調合の比率が重要なのよ。今度、エミリア先生にもレシピを教えてあげるわ。意中の人がいるなら、手作りプレゼントをしてみたらいいんじゃない?」


エミリアが「ええええっ!?」と、奇妙な声を上げた。


「ふふふ。冗談よ冗談。まあでも、少し本気だけど。それよりレオ君、あなたはただ者じゃないと思っていたけど、理論魔法に詳しいとは思わなかったわ」


交流戦から数日――そのうち聞かれると思っていた質問が、このタイミングで飛んできたか。


「隠してて悪かったな」


「責めてるんじゃないわよ。ところで、どうして平民のフリなんてしていたの?」


「…………」


俺は口ごもる。下手な嘘を重ねるとあっさり看破されそうだ。


「あら? 言えないのかしら?」


「別にやましいことはないぞ。ただ、少し……疲れたんだ」


マーガレットは「そんなあなたに、とっておきがあるわ!」と、席を立つなり研究室の方に行ってしまった。


いきなりテラスに俺とエミリア、二人きりだ。


エミリアが伏し目がちに言う。


「とっても仲がいいんですね。マーガレットさんと話している時は、リラックスしているように見えます」


「まあ、良い関係だとは思うぞ。魔法使いだとバレる前から、マーガレットには色々と便宜を図ってもらってたからな。けど、あいつはあいつでかなり人使いが荒いし、人を新薬の実験台にするし……そこらへんは持ちつ持たれつって感じだ」


「そうなんですか。なんだかお二人の関係性がうらやましいです。わたしなんてレオさんに助けてもらってばかりで……」


「俺はエミリア先生にもいっぱい助けてもらってるぞ。イーブンさ」


「そう言っていただけると、とっても嬉しいです!」


落ち込みかけた顔を上げてエミリアは微笑んだ。


「あら、二人とも見つめあって何をしてるのかしら? あたし、もしかしてお邪魔だった?」


いつの間にか戻って来たマーガレットの言葉に、エミリアの顔が真っ赤になった。


「そ、そそそそんな! とんでもないです!」


「エミリア先生をからかうなよマーガレット」


と、言った瞬間エミリアはしゅんとする。


あれ? 俺……何か変なこと言ったか?


マーガレットが呆れ顔で俺に告げる。


「この病気は魔法薬じゃ治らなさそうね」


「何が治らないって?」


「なんでもないわ。はい、新開発の栄養剤よ。まだ英雄の秘薬にはほど遠いけど、自信作だから。あとで是非試して効能をレポートしてちょうだい」


ガラスの小瓶に密封された液体は、綺麗な青色だった。


「新開発か……ちょっと怖いな」


「いいじゃない。二回に一回は100%成功するんだもの」


それは半分は確実に失敗してるって意味だからな!


まあ、ある理由から副作用は俺には効きにくいわけだが。


「失敗した時の副作用の事を考えてくれよ」


「レオ君って、副作用が出ても割とすぐに快復するでしょ?」


「まったく。そんなんだから不名誉なあだ名をつけられるんだぞ」


「本当に失礼しちゃうわよね。“魔女”だなんて。こんなに善良なのに」


霊薬や秘薬を調合する腕を持ちながら、治験による被害者が後を絶たないことから、マーガレットについたあだ名が“薬学科の魔女”だった。


エミリアが心配そうに聞く。


「あ、あの、副作用って……大丈夫なんですか?」


「ああ、俺はその……特異体質なのか、昔から魔法薬に耐性があるみたいでさ。効きにくいんだ。もちろんまったく効かないわけじゃないけどな」


エミリアが目を丸くさせた。


「レオさんって、やっぱりすごいんですね!」


「そ、そうか?」


ごめんエミリア。特異体質というのは嘘なんだ。


俺の場合、身体が勝手に解毒するよう鍛錬済み――というのが正解である。


この身体になるまで、世界中のありとあらゆる毒持ちモンスターに噛まれたり、刺されたりした。


そんな苦行の甲斐もあって“悪い影響や効果を与える魔法薬”を身体が毒物と認識して、ある程度までなら無毒化できるようになっていた。


注意すべきは、この世界には無い未知の毒物と、薬の副作用くらいだろう。


副作用の場合、有効な薬効も発生するため、毒として認識してくれないことがあるのだ。


そのためマーガレットの薬を飲むと、時々とんでもない副作用に見舞われることがある。


まあ、一度喰らった効果は打ち消せるようになるので、彼女の薬を飲んで副作用を経験しまくるのは、俺にとってプラスになるんだが……。


一晩トイレから出られなかった時は、死ぬかと思ったぜ。


「レオさん? あの、どうしたんですか? そんなにげっそりとした顔をして」


「いや、なんでもない! 心配してくれてありがとう」


マーガレットが満足そうに頷いた。


「うんうん。レオ君は感謝の気持ちを口にできるくらい、素直な方がいいと思うわ。ところで、エミリア先生は魔法史学の教員なのよね?」


急に話を振られて驚いたのか、エミリアが肩をビクつかせた。


「は、ははははい! そうです!」


「なら英雄の秘薬のことはご存じかしら?」


「ええと……確か薬学史の本で名前を見かけたことがあります」


「あたしの夢は英雄の秘薬の完全再現。人生の目的と言っても過言ではないわね」


エミリアはそっと目を閉じた。


「たしか、名も無き勇者が魔王との戦いに備えて調合した完全なる薬品……としか、わたしが読んだ本には記述がありませんでした」


身を乗り出すとマーガレットはエミリアの手を取った。


驚いてぱちりとエミリアの目が開く。


指が長く大きな手で、そっと優しく包むようにマーガレットはエミリアの手を握った。


「ええそうよ! そうなのよ! いったいどんな薬効か詳細な記録はないし、素材も精製器具も方法も、何もかもが不明なの。ただ、その秘薬は美しい虹色をしていると言われていて、魔法薬としての成分も完璧なものだ……って。せめて一滴でもあれば、分析して再現に挑戦できるのに、方々探して回ったけど、出てくるのは水で薄めたような偽物ばかり……」


熱っぽく語るマーガレットの視線が不意にこちらに向けられた。


「で、理論魔法使いのレオ君には心当たりはないかしら?」


そこで俺に話題を振ってくるのかよ!?



まあ、誰が作った薬とは言わないが……さすが“魔女”の異名は伊達じゃない。



■マーガレット・???? エステリオ魔法薬学教員


召喚魔法言語学=E

理論魔法学=C

感情魔法学=E

精霊魔法学=B

魔法史学=C(薬学史特化)

回復魔法学=E

戦闘実技学=F

魔法芸術学=F

魔法工学=D

魔法薬学=A

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ