80.学園長からの依頼
※こちらのお話は、スキップしていただいても本編に影響ございません。
お気軽に、さらっと読んでいただければ幸いです。
前作「勇者攻略」とのクロスオーバーエピソードとなっております。(全二話)↓
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学園内の森にある祭祀場は、召喚魔法言語学の実践訓練用に作られた施設である。
先日、獅子王の召喚で破損した結界用の尖塔は、修理が終わったばかりなのだが……新しく張られた結界の強度試験がまだ済んでいなかった。
学園長室に呼ばれた俺は、椅子に深く腰掛けて半分眠ったままのような老人に聞く。
「で、耐久試験の話なんて、どうして俺にするんですか学園長?」
細めていた目をぱちっと開いて、学園長は頷いた。
「あれの修理費がけっこうかさんでしまってのぅ。残念ながら我が校にはランクAの召喚獣を呼び出せる教員がおらんのじゃが、専門家を呼ぶ予算もなくてのぅ。ああ、困った困った。一体全体、だれじゃランクA以上の化け物を呼びだして暴れさせたのは。いや、それをやらせた人間にこそ責任があると思うのじゃがのぉ」
く・そ・じ・じ・い!
俺だよ! わかってるよ俺がプリシラに無理を言ってやらせたんだって!
知らないとは言わせないとばかりに、リングウッドは俺をじーっと見つめてきた。
「俺に言われても困ります」
「お主、知り合いにおらぬか? 無料でランクA以上の召喚獣を出してくれるような輩を? もしおるようなら、ちょっと耐久試験をお願いしてほしいのじゃ。ああ、お主以外に他に立ち会いの人間なんぞいらんよ。理論魔法使いのお主が耐久性の保証さえしてくれれば、それでええから」
「そう言われても」
リングウッドは小さく首を傾げさせた。
「クビ?」
「あッ! 心当たりがあるんで声をかけてみます」
「よろしい。では下がって良いぞ」
俺はいそいそと学園長室を後にした。
身から出たさびとはいえ、完全に弱味を握られてるな。
これも教員になるまでの我慢だ……我慢!
◆
――午前十時三十分。
さっそく俺は、修復されたばかりの祭祀場にやってきた。
まだ学園は午前の授業の真っ最中だ。
クリスたちがいないのを少し寂しく思う反面、危険な目に巻き込まなくて済むという安堵感もあった。
石を切り出して敷き詰めた祭祀場のステージは、綺麗に新調されて獅子王との戦いの爪痕など微塵も残っていない。
そっと尖塔の外面に触れてみる。
ひやりとした感触だ。
解析したところ、結界の物理的強度がかなり引き上げられていた。
これなら獅子王でも簡単には破れないだろう。
ただし、魔法的な防御は引き換えにやや下がってしまっている。
それでも総合的にみればランクAの召喚獣くらいなら、きっちり封じることができる性能だった。
A+となると、どうだろうな。相性によっては押さえ込めないかもしれない。
俺はステージの中に入り、結界を起動させた。
四方の尖塔が障壁を展開し、ステージ場と外界が断絶される。
起動にも問題無し……と。
さて、何を呼ぼうか。
実際に何か呼んでみて、性能をチェックするのが手っ取り早い。
まあ、呼ぶ相手は適当でいいか。
俺はパスも何も考えず、ランクA相当の召喚を行った。
ステージの上に魔法陣が浮かび上がる。
そこからゆっくりと姿を現したのは……人間(?)だった。
「んだよてめぇ! ここどこだよ! コルアアアアアアアアアアアアアァッ!!」
声のトーンは少年のそれだ。ずいぶん口が悪い。
現れた姿は異形というか、異様だった。
全身をぴっちりとした布地で覆い、仮面をつけている。
仮面は目元を覆うタイプのものだった。
その全てが白黒――モノトーンでまとめられていた。
トランプのジョーカーのような格好だ。
いくら適当に召喚したとはいえ、こんな変質者が出てくるとは思わなかった。
俺は言葉に感情魔法を込める。
「とりあえず名前を名乗れ。そして、貴様の条件を教えろ」
「はあ? 人に名前を聞く前に自己紹介しろや!」
チンピラめいた威圧的な口調で少年は凄んで見せた。
魔族にしては、雰囲気がずいぶんと人間よりに感じられる。
だが、確実に人間ではない。
元人間――そう、人間が不死者に転じたような、一種独特の“臭い”を感じた。
腐臭ではなく、あくまで空気感の話だ。
「つーかじろじろ見てんじゃねぇよ! 気持ち悪ッ! 男に見つめられるとかマジありえないから!」
「女ならいいのか?」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃねーよ! はいはい、それでおっさんの名前をとっとと言えって」
「俺は学園の管理人をしている、レオ・グランデだ」
「はい! ありがとうございました! んじゃあ、俺は帰るんで」
帰られるのはまずい。まだ結界の耐久試験が済んでいないからな。
「待て。こちらが名乗ったんだから、そちらも名乗るのが筋ってものだろう」
「いきなり呼びだしておいて筋とか、何言ってくれちゃってるわけ?」
「呼び出された方が悪いんだ」
「つーかおっさん、さっきからずいぶんと気やすいなぁ? 俺ら初対面なわけよ? わかるかおっさん?」
「お前もおっさんおっさん言うな。俺はまだ二十代だ」
「十分おっさんだろうが! あぁん? こちとらぴっちぴちの十代半ばだぜ?」
仮面の少年はため息混じりだ。やけに挑発的なやつだな。
「ここまで受け答えができるということは、幻体に中身が入っているということだよな?」
「おっさんが何言ってるかわからんが、久しぶりにこの姿になる夢をみてるみたいだし、ちょっと昔を思い出して俺復活って感じだぜ!」
俺と同じく、眠ることで幻体をコントロールしているのか。
もう一度名前を聞いた。
「俺はおっさんでもかわまないが、お前をお前呼ばわりするのは、確かに気やすいからな。名前を教えてくれ」
「それが人に物を頼む態度かぁ?」
「教えて……ください」
「もっと心の底から懇願するように!」
「お、教えてくださいお願いします」
俺が頭を下げると、道化風の少年は口元を緩ませた。
「そこまで言うなら仕方ない! 俺はアーク……大魔王シルファーの参謀にして魔王軍の大幹部――世界の破壊者! 道化魔人アーク様だ!」
なるほど、かなり高位の魔人らしい。
しかも世界の破壊者か。こいつはやっかいな化け物を呼びだしてしまったようだ。
俺の中でスイッチがカチッと入る音がした。
精神が臨戦態勢に切り替わる。
「そうか。じゃあさっそく始めようか道化魔人アーク?」
「始めるってなんだよおっさん?」
「お前の望みは世界の破壊なんだろ? この世界に呼び込んだ非礼はわびるが、世界を壊すというなら……俺はお前を倒さなくちゃならない」
とはいえ、まいったな。
こんな時に限って手元に魔法武器が無い。
徒手空拳は得意じゃないんだが、この際、仕方ないか。
道化魔人アークはじっと俺を見据えた。
「もしかしておっさん……強いのか?」
「さあな。そちらの世界の基準じゃどうかはわからないが、なんの抵抗もせずに世界を壊させるわけにはいかない」
俺は拳を握って身構えた。




