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67.試合開始

エミリアクラスの出番は初日の第一試合。


交流戦の開幕を華々しく飾ることとなった。


といっても、主役はあくまでギリアムクラスの選手たちだ。


学園内での俺たちの特訓も、ほとんどの生徒が悪あがきだと思っているらしい。


この試合はギリアムクラスのお披露目で、エミリアクラスの代表はその引き立て役……にさえならないというのが、大方の前評判だった。


が、それでもクリスだけは注目度が高い。


学園内でも一番の収容人数を誇る、第零番闘技場の客席は満席だ。


生徒だけでなく、この日の試合を見るために王都から見物客が押し寄せていた。


入試主席のクリスと、次席のシアンの戦いは全生徒及び教員たちの注目の的である。


ステージから一番遠い三階席に、エミリアに連れられたクラスの生徒たちの姿があった。


応援の横断幕のようなものはなく、その一角だけ暗く沈み込んでいるようにさえ見える。


恥をさらすな。面倒に巻き込むな。辞退すればよかったのに。


そんな空気を醸し出していた。


エミリアが説得して、なんとかクラスの生徒たちを引っ張ってきたのだろう。


彼女に代わってコーチとして、ステージ際でチームを率いる俺は、責任重大だ。


本来ならここに立っているのはエミリアのはずだが、無理を言って代わってもらったのだ。


ステージにもほど近い来賓席には、老紳士のガンダルヴァ・アプサラスの姿があった。


そんなガンダルヴァの元に駆け寄り、ギリアムが米つきバッタよろしくペコペコと挨拶をする。


そして、ステージ脇を回って俺の方にもギリアムはやってきた。


「おや、おかしいですね。担任でも教員でも、ましてや魔法使いでもない平民が、なぜ監督席にいるのでしょうか?」


「コーチとしてエミリア先生に監督を委任されたからだ」


「ふふふ……ははは! いやぁエミリア先生にも困ったものだ。しかし、これで負けても言い訳が立ちますね。素人の平民が監督ならば、生徒が敗北しても仕方ない。エミリア先生の経歴も守れますし、実に良い手だ。感服しましたよ」


まあ、そういう風に受け止めるのが普通だよな。


「今日の俺は管理人じゃないからな。遠慮無く行かせてもらう」


ギリアムは目を細めた。その口からチロチロと蛇の舌でも出しているような顔つきだ。


「どうぞどうぞ。ご自由になさってください。なんなら、今からオーダーを変えていただいても結構ですよ?」


「お前の指図は受けない」


「それは残念だ。せっかくこちらはシアン君以外の二人のうち、どちらかには負けてもらうつもりでいたというのに」


俺は口元を緩ませた。


「こっちは三勝するつもりだ。負けた時の言い訳を考えておくんだな」


余裕しゃくしゃくだったギリアムの表情が、かすかにこわばった。


「ハッタリなどでは実力差は覆せませんよ。はっはっは。すぐに終わらせてあげましょう」


そう言うと、ギリアムはステージを迂回するように自陣へと戻っていった。


闘技場の天井部分が開口し、青空が広がった。


ドンッ! ドドンッ!


と、開幕を告げる花火の音が鳴り響く。


実況席には報道部の女子生徒と、解説役として精霊魔法教員のリチャードソン・オルガの姿があった。


精霊魔法のランクBで、年齢は三十手前くらいだ。


物腰も柔らかで教え方もわかりやすいと、生徒受けの良い教員だった。


拡声器を通して、実況席の女子生徒の声が場内に響く。


『はい! というわけでついに開幕しました、本年度の交流戦! 年間通じて行われる各種大会の最初のイベントです! 本日の実況は、報道部二年のニキータ・オルソウがお送りします! 解説のリチャードソン先生。最初の試合の見所について教えてください!』


『ええと、そうですね。ギリアムクラスの三名とエミリアクラスの三名の、入試時の成績を比較したものがこちらです』


闘技場の投影板に、第一試合の出場選手の顔と入試成績のチャートが表示された。


シアンのチャートは、ほぼクリスと互角だが、プリシラとフランベルのそれは、ギリアムクラスの残りの代表二人――アイリスとミゲルに遠く及ばない。


解説が続ける。


『数字の上ではエミリアクラスの苦戦は必至と言えるでしょう。しかし、勝負に絶対はありません。戦闘実技の項目に関しては、フランベル選手も十分に通用するレベルにあります。エミリアクラスの三人には、ぜひ、がんばってもらいたいものです』


つい、ひねくれた見方になった。判官贔屓をされたようなものだ。


まあ、その方が番狂わせになっておもしろい。


『はい! 解説ありがとうございました! それでは選手入場です! まずは西門から、我が校きっての理論魔法教員、ギリアム・スレイマン先生のクラス代表、入場です!」


ゲートが開き、派手に煙幕をブシューッ! と発煙装置が吹き出して、その中から三人が姿を現した。


中心となるのはシアン・アプサラスだ。


彼女は眼帯をつけたままだった。


左右をアイリスとミゲルが固めている。


実況が甲高い声を上げた。


『おや! ミゲル選手は若干緊張しているようですね! 歩くのに右腕と右足が一緒に出てしまっております!』


『初戦を飾る緊張もあるでしょうが、偶然とはいえ女子選手の中に男子が一人というのが、心理的にプレッシャーになっているのかもしれません』


アイリスは細い長剣……レイピア使いで、ミゲルは二本で一対となる双剣の使い手だ。


遠目からなので詳しいところまではわからないが、ともにシアンほどではないにせよ、良質な魔法武器を携えていた。


会場中の喝采が代表三名に浴びせられる。


『続きまして東門より、新任教員エミリア先生のクラス代表の入場です! えー、こちらのチームですが、なぜかなぜか? 昨年の後期より学園の庶務をしていらっしゃる、レオさんが監督をしております!』


『正式に担任から委任を受けていれば問題ありません。過去の公式戦において、監督役を生徒が務めることはありましたが……しかし、これは前代未聞ではないでしょうか? 管理人職は魔法使いではない方が就くのが慣習でしたから』


『ということは、へいみ……一般の方です! エミリアクラスの監督は一般の方のようです!』


会場中がどよめいた。


そんな空気とは無関係に、こちらの入場にも発煙装置が派手に煙りを吐き散らし、ゲートが開いてクリスたちが姿を現す。


「ゲホッゲホッ! なにこれ超煙いんですけどぉ」


「ふあぁーあ。今日もお昼寝したくなるくらい、良い天気だ!」


「二人とも緊張感がまるで無いわね」


会場内の視線が選手に集まる。生け贄を哀れむようなものばかりだ。


だが、三人にはそれを気にする素振りがない。


俺は右手をあげて三人を迎えた。


「今日くらいは本気、出しちゃうし!」


「普段からもうちょっとがんばってもいいんだぞ」


パンッ! と、プリシラとハイタッチを交わす。


「師匠。ぼくの心の刀には、一点の曇りもないよ。だからあの約束は……」


「よし! がんばってこいよ!」


パンッ! と、フランベルとハイタッチをして、それ以上言わせない。


「私が勝てば、一気にチームを乗せられるわよね」


「気負いすぎるなよ。けど、期待してるぜ。エース!」


パンッ! と、クリスとのハイタッチが綺麗に決まった。


そのままクリスはステージへと駆け上がる。


敵方もシアンがトップバッターとして、戦場に歩み出た。


シアンの視線が、一度だけ来賓席に向いた。


ガンダルヴァを意識しているのは間違い無い。


審判を務めるのは、王宮付きの魔法使いだ。


公平を期するため、利害関係の無い者が王宮から遣わされるのも慣例だった。


「両者魔法武器の確認を!」


審判の呼びかけに、クリスとシアンが頷く。


シアンは可変槍。クリスはショートソードと、計算尺だ。


シアンが射貫くようにクリスを見据えた。


「私の槍と、その剣で戦うつもりか?」


「ええ。お手柔らかに頼むわね」


「その申し出は承伏しかねる」


互いの得物を確認しあうと、二人は20メートルの距離をとって、対峙した。


審判がさっと右手をあげる。


「公式戦のルールにのっとり、互いに全力を尽くすこと…………始めッ!」



開始のかけ声とともに、クリスの……そして、俺たちの戦いが始まった。

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