61.クリスの本心
教室内が沈黙に包まれる中、クリスが真剣な眼差しで俺に訴える。
プリシラもフランベルも、口を半分開けて目を見開いてた。
ハッとしてから、慌ててプリシラが声をあげる。
「ほ、ほら! クリっちはランクAの理論魔法使いじゃん! いくらレオっちがすごくても、理論魔法は無理なんじゃないかな?」
フランベルも頷いた。
「ぼくもプリシラと同じ意見だよ。それにクリスはそのままでも強いじゃないか? もっと強くなりたいっていう気持ちは、ぼくにもわかるよ。だけど、レオにだって出来ないことはあるんだから」
クリスがうつむいた。
「それは……その……違うの!」
待てクリス。俺の正体は二人の秘密だよな?
エミリアも、この場をどうしていいのかわからず「あわわわ」と狼狽えるばかりだ。
クリスは全身をわななかせた。
「レオは……レオは……」
声まで震えている。
彼女の口からすべてを明かされたら、俺はもうここにはいられない。
「なあクリス。俺にどうしてほしいんだ?」
他の生徒たちも入試主席の様子に驚いたらしく、教室中の視線がクリスに注がれた。
「わ、私は……レオの全部が欲しいの!」
は、はあああああああああああああああっ?
教室内がざわついた。
エミリアは顔を真っ赤にさせて、その場でくらっと立ちくらみにあうと、教卓に突っ伏すようにしがみつく。
プリシラが声をあげた。
「ちょ、ちょちょちょちょっと! クリスってば大胆すぎるし!」
フランベルがゴクリと唾を飲み込んだ。
「ぼ、ぼくはあげるので精一杯だけど、クリスは全部奪うんだね。す、すごいよ!」
こらこら、さりげなく奇妙なことを口走るんじゃない!
クリスが顔を真っ赤にさせた
「変な誤解はしないで! 私はまだ、全然物足りないの! もっとしてほしいのよ!」
クリスの問題発言に耐えきれず、教卓につっぷしたエミリアが感情魔法にかかってもいないのに「あばばばばば」と錯乱した。
プリシラが恥ずかしそうに顔を両手で覆う。
「やだもー! クリスってば、そんな大胆なところもあるんだ!? キャー!」
フランベルはうらやましそうにクリスを見つめた。
「いいなぁ……ぼくも早くしてほしいなぁ」
いい加減にしろ! 誤解を膨らますな!
「おいクリス。言い方がおかしなことになってるぞ」
「え? けど、もっと特訓を……プリシラやフランベルには、個性に合わせた個別のトレーニングをしてくれているのに、私にしてくれないのは不公平って思って……」
どうやらクリスは、自身の発言が曲解されてしまいかねないことに、気付いていないようだった。
「わかった。じゃあこのあと、さっそく個人特訓をしよう。プリシラとフランベルはそれぞれ自主練だ。エミリア先生! しっかりしてくれ」
俺は“しっかりしてくれ”という言葉に、沈静の感情魔法を織り込んだ。
「は、はい! ええと、なにがどうしてどうなったんでしょう?」
「このあとクリスが個人練習を希望したので、俺が担当するから、エミリア先生はプリシラとフランベルの自主練習をみてやってくれないか? 闘技場は狭い第七闘技場なら、使用予定が入ってなかったと思うんで、そこを利用してほしい」
エミリアは頷いたが、プリシラとフランベルが席から立ち上がった。
「クリっちだけ個人レッスンなんてずるいし!」
そもそも個人練習の発端はお前だろうにプリシラ。
「交流戦明けに、またお前の個人練習にも付き合ってやるから」
「うー! 人質っていうか、イベント質とるなんてひどくない?」
「ひどくない!」
断言する俺に、プリシラはほっぺたを膨らませた。
フランベルがもじもじと言いにくそうな口振りでうつむく。
「ぼ、ぼくはその……あの約束さえ守ってもらえれば、レオ師匠が何人とお付き合いしてもかまわないよ!」
「誤解を招くというか、誤解しかない事を言うなフランベル!」
もはや教室内のしらけた空気は、混沌としたものへと変貌していた。
「それじゃあクリスはホームルームが終わったら、一人で管理人室まで来るように」
「え、ええ……けど……自分から言い出しておいて言うのは変だと思うけど、本当にいいの? 二人は反対しているし……」
プリシラが膨らませていたほっぺたから空気を抜いた。
「いいよ! レオっちのコーチを受けて、もっと強くなって帰ってきてね」
フランベルも笑顔でプリシラに告げる。
「ぼくらのことは気にしないで、存分に楽しんできてよ!」
二人が後押ししたことで、クリスは「わ、わかったわ!」と、力強く頷いた。
クラスの生徒たちの俺を見る視線は、いわずもがな。ひどいものだ。
だが、そんなことはもはや些細な事だった。
クリスの望みを叶えてやろう。
俺にできうる限りを尽くして。




