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60.揺れる気持ち

フランベルの魔法武器――蒼月が完成したその日の夜、寮に帰る前にクリスに再び協力してもらって、俺は学園の宝物庫に模倣元の名刀を返却した。


少し元気がないように見えたクリスに「調子悪いのか?」と聞いてみたのだが「そんなこと……ないわよ」と彼女は力無く笑う。


正門まで彼女を送ると、彼女は門を出る手前でに立ち止まった。


「あ、あのね……レオ……」


「ん? なんだクリス?」


クリスはどことなく、寂しそうな顔だ。


「……ええと……良かったわね。フランベルの新しい刀が完成して」


「ああ! クリスが協力してくれたおかげで、良いお手本もみられたしな。俺も魔法工学は専門じゃないから、名工の作品を模倣できて勉強になったよ」


「本当になんでもできるのね?」


「まあ、必要に迫られ続けているうちに、色々できるようになったってだけさ」


クリスは小さく息を吐いた。


「プリシラは新しい武器もそうだけど、クロちゃんを呼べるようになったし……」


「クロちゃんのやつ、あんなに大きくなっちまって、クリスとしてはちょっともたいなかったか?」


ハッと目を丸くさせて、クリスは首を左右に振った。


「そ、そんなことないわよ。試合でプリシラを守ってくれる、強い味方だもの」


俺は頷いた。


「そうだな。プリシラががんばったのももちろんだが、獅子王を相手にクリスもしっかりフォローしてくれた。考えてみると、お前に助けられっぱなしだ」


「わ、私に頼らなくても、レオならなんでも一人でできるんじゃないの?」


「買いかぶりすぎだ。実はこの前、王都で襲撃に遭った時も、クリスがいなけりゃ危うく死んでたかもしれないんだぜ」


急にクリスは眉尻を下げて、ため息を吐いた。


「あれは……私がレオを尾行したせいで、レオのピンチを招いたようなものだし」


俺は軽く拳を握ると、クリスのおでこのあたりをそっと小突く。


「痛っ……いきなりなにするのよ?」


「そういうのは言いっこ無しだ」


ムッとしたかと思うと、クリスは軽く肩を上下させた。


「そうね……そろそろ寮に戻らないと。門限を誤魔化してもらってるけど、あまり遅くなるとプリシラたちに、あることないこと詮索されるから」


クリスが再び歩き出し、正門の外に出ると振り返った。


「それじゃあ、少し早いけど……お休みなさい」


「ああ。お休み。気をつけて帰れよ!」


小さく手を振って、クリスは寮へと続く道を歩く。



それにしても、様子がおかしかったな。


もしかして、クリスも新しい武器が欲しいんだろうか?


彼女の計算尺は古い物だが、しっかりとした確かな物だ。


ショートソードこそ武器用具室産の生徒の作品なものの、あれはクリスの気づきを促すためのものだし……。


もう一度くらい、獅子王から素材を提供させようか?


プリシラには召喚獣クロちゃんとアダマンタイトスタッフがある。


フランベルには蒼月と抜刀術一閃があった。


限られた時間の中で、それぞれの準備を整えることができたのは、クリスが支えてくれたおかげだ。


俺はクリスに頼りすぎていたのかもしれない。



交流戦まであと三日となった。


準備期間ということで、授業は午前中までだ。


俺は各階のトイレの石けん水の補充をするついでに、エミリアクラスの様子を見に行った。


帰りのホームルームの最中だが、他のクラスと比べて明かに士気が低い。


他のクラスが代表選手のために、午後の空いた時間を使って応援の横断幕を作るといったことをしているのに、エミリアクラスにはまるでその気配がない。


つい、俺は教室に乗り込んでしまった。


「よう! 久しぶりだなエミリアクラスの諸君」


クリスたちとエミリア以外、俺に視線を向けもしない。


「どうした元気がないな? もうすぐ交流戦だっていうのに、盛り上がりにかけるんじゃないか? クラスの代表三人を、もっと応援してくれよ!」


空気を読まない俺の言葉に、教室内がしんと静まり返った。


エミリアも「あ、あのレオさん! いきなり困ります」と、言いながらおずおずしっぱなしだ。


クラスの男子生徒がぼそりと呟いた。


「どーせ勝てるわけねぇじゃん」


俺が視線を向けると、その生徒はそっぽを向いた。


選手以外のクラス全員の、心の代弁者ってところか。


まあ、信じられないのも無理もない。


今日まで。放課後の訓練風景を見学しに来たクラスメートはいなかったしな。


プリシラとフランベルが見違えるほど強くなったのを、知らないのだ。


「俺がコーチを受けた時、勝たせるチームを作ると約束した。相手が誰であろうと、三勝するつもりだ。それができるだけの力を、クリスもプリシラもフランベルも持っている」


名前を出されてプリシラは眉を八の字にさせた。困り顔だ。


フランベルは得意げに胸を張る。


そしてクリスはというと、どことなく怪訝そうな顔つきだった。


俺は沈黙する生徒たちに続ける。


「勝負は時の運も絡むが、それでも俺たちが勝つ」


今度は教室の隅の席に座った女子生徒が呟いた。


「入試主席のクリスさんだけなら、勝てるわよね」


俺が視線を向けると、その女子生徒も顔を伏せた。言い方にトゲがある。


「クリスだけじゃないぜ。プリシラもフランベルも、戦える力を自ら望んで鍛えてきた。俺に言われたからじゃない。自分から前に進もうと願って努力したんだ。お前たちも本気になれば三日で変わるもんだぜ。若いんだからな!」


しらけた空気が俺を包み込む。


エミリアクラスの生徒たちの心理状態は、ますます悪化しているようだ。


交流戦で勝つしかないか。


それがこのクラスにとって唯一の特効薬だ。


不意に、一人の女子生徒が立ち上がった。


「私はまだ、貴方になにも教わってないわ」



抗議の声を上げたのは、意外にも……クリスだった。

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