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59.精製技術

魔高炉にくべる燃料は、魔法力がこもった特殊な石炭だ。


フランベルにくべさせるためのスコップを持たせる。


「師匠……ここはお風呂じゃないのかい?」


「残念だったな。けど、たくさん汗はかけると思うぞ」


金床とハンマーも万全だ。


一通り準備を終えて、俺はお手本の名刀を抜く。


瞬間――フランベルの瞳がハートマークになった。


「し、ししし師匠! この刀は!? すごいよ! 半端じゃないよ! 圧倒されちゃうよ!」


「こらこら、刃に近づきすぎだぞ。こいつは刃付けもしてある実戦用だ」


うっとりとした顔でフランベルは頷いた。


「そ、そっかぁ……刃付けされた武器は学園の規則で使えないんだよね? ところでこんなに凄い“気”を発している刀を、師匠はいったいどこで見つけてきたんだい?」


「あ、ああ……実はな……昨日、クリスが寮にいなかっただろ?」


「うん。用事があって、実家に一時帰宅したって聞いたよ」


「実家にあるかもしれないっていうんで、探して来てもらった。借り物だから丁寧に扱わないとな」


フランベルが突然、ほろりと涙の雫を頬にすべらせた。


「そんな……ぼくのためにわざわざ? クリスはそんなこと、一言も言ってないよ!」


フランベルは少し怒ってさえいるようだった。


「クリスは恩を着せるような性格じゃないからな」


「そうだね。ありがたく使わせてもらうよ!」


こらこら、借り物だし刃付けされてるから使えないと説明したばかりだろ。


「いいかフランベル。これはあくまで模倣の対象だ」


「模倣? 模倣って?」


ここまで準備したのに、フランベルはまだ気付いてないみたいだな。


「今から、この名刀の模造刀を作るんだ。俺たち二人で!」


フランベルは半分口を開けて、目を見開いた。


「えええええええ!? 無理だよ! ぼく、刀どころか鍛冶仕事なんてしたことないよ!」


「安心しろ。刀身と鞘は俺が担当する。フランベルには魔高炉に燃料をくべて、柄や鐔の装飾をしてもらう」


フランベルがもじもじと膝をすりあわせるようにした。


「うう、出来るかなぁ」


「やるんだ。鋼材も用意してあるから、さっそく取りかかるぞ!」


「わかったよ師匠! そうだよね! 誰かにもらうんじゃなくて、自分でなんとかしなくっちゃ! ぼく、がんばるから!」


さっそく魔高炉に火を入れて、フランベルに燃料を休み無くくべさせた。


温度を上げる。


炉の内部の魔法陣が過熱を促進した。


梃子棒を手にして、アダマンタイトの加工に移る。


王都で名工ともてはやされる一流の鍛冶職人でも、アダマンタイトの刀身を叩き上げられる人間は五人もいないだろう。


魔高炉の温度が上がりきる前に、早くも俺とフランベルは全身汗だくだ。


「師匠! ぼく、濡れちゃたみたいだよ」


言い方がおかしいぞフランベル! 熱さで変になっちまったのか?


「火力を落とすな! くべ続けろ!」


「はい師匠! うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


上着を脱ぎ、ブラウスの袖をまくってフランベルは懸命にスコップを振るった。


火力を維持するのは体力勝負だ。


ひたすらに懸命に、炉の炎に魂を込め続ける。


一つの事に集中できるフランベルだからこそ、その集中を切らすことなく続けられた。


石炭をくべるたび、フランベル自身の魔法力も炉にくべているようなものだ。


俺は金槌を置くと、名刀を手にして、その構造を確認するように解析する。


刃を俺の頭の中で分解し、込められた魔法式を読み解き、解きほぐし、要素を抽出すると再び刀の形に戻す。


それが終わると鞘に名刀を納め、十分に熱されたアダマンタイトを金槌で叩いた。


カアアアアアアアアアアアアアアン!

カアアアアアアアアアアアアアアン!


鐘の音のように透き通った音が響き渡る。


金槌で打つ度に、アダマンタイトに魔法式を込める。


この式の込め方一つで、仕上がりが変わるのだ。


俺は黙々と金槌で打ち、鍛え、熱し、折り返し、式を込め、再び打つを繰り返した。


フランベルも炉の火を絶やさないよう、スコップを振るい続ける。


「フランベル……つらいか? 悪いが休憩はできない。ペースを落として調整してくれ」


「ううん……大丈夫。ぼく……嬉しいよ。師匠やクリスや、プリシラやエミリア先生……みんなの気持ちに応えたい……だから、つらくない! この熱さの向こうに……未来があると信じてるから!」


その言葉に頷くと、そこから先、俺もフランベルも言葉を交わさずひたすら汗まみれになって作業を続けた。



――炉に火を入れてから三時間。


作業は休み無くぶっ続けだ。


王都の名工でも三時間では形にならないが、理論魔法や精霊魔法を組み合わせた俺の鍛冶技法で、一気に焼き入れまで仕上げた。


久しぶりに武器を作ったわけだが、我ながらなかなかの出来映えだ。


つい、刃付けをしたくなったが我慢する。


フランベルはひっきりなしに休み無く作業を続けて、脱水症状を起こしかけていた。


「よくがんばったなフランベル」


「え、えへへへ……ぼくは……石炭をくべてただけだよ……」


普通の鍛冶仕事と魔法工学の鍛冶は、ある意味別物だ。


それでも、良いモノを生みだそうという強い気持ちが宿る……と、俺は思う。


フランベルの魔法力も込められた炎によって、鍛えられたアダマンタイトの塊は、高性能設計の名刀を模倣しつつ、俺の持てる技術と魔法知識を総動員して、まったく新しい刃となった。



休憩を挟んで、午後からは刀身以外の鐔や留め金などをミスリルで加工した。


工作室で神木から鞘と柄を作成する。作業は急ピッチだが手は抜かない。


柄にフランベルの魔法力を込めたサファイアを埋め込んだ。


これで、彼女の魔法力をロス無く刀身に流し込むことができるはずだ。


フランベルは鞘を塗り、ミスリル細工をし、柄糸を巻く。この柄糸はシアンに砕かれてしまった打刀の柄から取ったものだ。


自分に“一閃”を教えてくれた打刀の一部でも、残したいというフランベルたっての希望だ。


時間の掛かる乾燥などの行程は、魔法の補助で短縮する。


完成した刀は、深みのある鋼色の刀身に青い鞘という、フランベルらしい色彩を纏った仕上がりだ。


ミスリルを燻した鐔も味わい深い。


全てが組み上がり完成した時には、すっかり日も暮れかけていた。


他に利用者もいない、学園内の工作室に俺はフランベルと二人きりになる。


鞘に収まった刀を改めて手にとると、フランベルが歓喜の声を上げた。


「うわあああああ! こ、これで完成……したのかな? 」


「この世界に二つと無い、お前のためのオーダーメイドだ。さてと……フランベル。そいつに銘を与えやってくれ。それでようやく完成だ」


「銘って……名前をつけるの?」


不思議そうにフランベルは首を傾げさせた。


「ああ。その刀は俺とお前の子供みたいなものだしな。名前をつけるのは親の務めだろ?」


フランベルの顔がかあああっ! と赤くなった。


「え、えっと……子供……師匠とぼくの……赤ちゃん……はわわわ」


「おいおい。赤ちゃんは言い過ぎだろ」


「つ、つけられないよ! 師匠! お願いだから師匠が名付けて!」


「お前が使うのに、俺が名付けていいのか?」


うんと頷いてフランベルは俺に詰め寄った。


「師匠が打って、師匠が名付けてくれた刀を使いたいんだ!」


魔法武器との相性は、その武器をどれだけ好きになれるかも関係してくる。


フランベルが俺にゆだねたいというなら、良い名前を贈ってやろう。


「わかった。それじゃあ……そうだな」


日が暮れて、月が東の空に昇り始めた。


「蒼い月……蒼月ってのはどうだ?」


フランベルが「わぁ」と口を開いて感嘆の声を漏らす。


「すごいや師匠! ぴったりだ! この子は蒼月……ぼくの蒼月!」


フランベルが蒼月を抜き払った。


その刀身に光が宿り、銘が打ち込まれる。


完成だ。使い手と刀の魂が、銘によって一つに結ばれた瞬間だった。


「どうだフランベル? 使いこなせそうか?」


フランベルはにっこり微笑む。


「必ず使いこなしてみせるよ! ありがとう……師匠」


笑顔から一転――思い詰めたような表情になって、フランベルは蒼月を鞘に納めると上目遣いで俺を見つめた。


「こんなにしてもらって、ぼくは師匠に何かお返しがしたいよ」


「別に礼なんていいって」


「あ、あのね……師匠! ぼくの……ええと……ぼ、ぼくの初めてをもらってよ!」


「初めてってなんだよ?」


「しょ、しょしょ……処女をもらってほしいんだ!」


「お、お前いきなりなんて爆弾発言ぶち込んでくるんだよ!?」


真剣な顔つきのままフランベルは続けた。


「今すぐじゃなくても、大人になったら師匠に捧げるから! それならいいでしょ!」


「いいわけあるかぁ!」


「師匠はぼくのこと……嫌い?」


「その聞かれ方をして、嫌いなんて言えるか」


フランベルは困り顔だ。


「そ、そうだよね。けど……ぼくは本気だよ! ぼくの大切なものを捧げても、あまりあるものをもらえたから。いつでもぼくで筆卸してよね!」


「俺の童貞設定、まだ生きてるのかよ!」


はにかむように笑うフランベルに、俺はそれ以上返す言葉を思いつかなかった。



フランベルの準備も整ったな。あとは彼女が生まれたての蒼月を、どこまで育てられるか次第だな。

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