53.一瞬の交錯
二人の戦いが危険な領域に入る前に、きっちりレフリーストップをかけよう。
フランベルとシアンの間に入って、俺は双方の顔を確認した。
シアンは淡々とした表情で、一方のフランベルはワクワクと、すぐにも戦いたいという顔だ。
双方に言い含めるように告げる。
「練習試合ってことだから、二人とも魔法武器に込める魔法力は最低限に抑えること。ルールは公式に準拠するけど、俺も細かくは覚えてないんで、勝負ありと判定したところで試合終了だ。それでいいな?」
シアンは「構わない」と呟き、フランベルも「それでいいよ!」と返事をした。
俺は右腕を上げる。
「では両者武器を構えて……」
シアンが可変槍を長槍に変更する。一方のフランベルも抜刀術ではなく、打刀を抜いて構えた。
「始めッ!!」
合図とともに俺は腕を振り下ろす。
先に動いたのはフランベルだった。
打刀で斬りかかる。
動きに無駄は無く、野生の本能を剥きだしにして相手を穿つような突撃だ。
だが、間合いの外からシアンは長槍で、フランベルの踏み込みを牽制した。
隙が無い。
フランベルは理論魔法や精霊魔法で相手の防御態勢を崩したり、感情魔法を交えた駆け引きなんて、できないからな。
槍の攻撃範囲の内側に入りこむことができず、フランベルはバックステップで距離を取る。
その瞬間――。
シアンの槍がフランベルを貫くように、打ち抜いた。
「――ッ!?」
寸前のところで打刀で槍の穂先を弾き返し、フランベルの顔が青ざめる。
「クッ……迅い」
一気に緊迫感が増した。
シアンは一突きすると、槍を引き戻して構え直す。
フランベルの刀の間合いには、絶対に入ってこないという強い意志を感じた。
攻めっ気のあるフランベルにとって、カウンターを狙われるのはうまくない。
コーチとしてアドバイスしたいところだが、公平に審判をすると言った以上、肩入れも出来なかった。
「来ないなら、こちらから仕掛ける」
シオンが地面を蹴った。
速い。迅い。踏み込みの鋭さはフランベル以上だ。
一瞬でフランベルを射程圏に捉えると、シオンは三連突きを放つ。
最後の一撃がフランベルの左肩を突いた。
有効打だ。
ここで一本ありとコールすれば、試合は終わりだった。
だが、フランベルが俺を睨みつける。
「まだだ! ぼくはまだ戦える! 撃ち抜かれたのは左肩だ!」
両手持ちにしていた打刀を右手だけに持ち替えて、フランベルは反撃に出る。
回り込むようにフェイントも織り交ぜながら、フランベルはシアンの懐に飛び込んだ。
打刀の間合いだ。フランベルが斬撃を放つと……。
「甘い」
シアンは読んでいたように、瞬時に槍を短槍に切り替えて、超近接の間合いでフランベルの斬撃をいなした。
なるほど。戦闘実技の専門家というのは伊達じゃない。
きっちりフランベルに反撃し、フランベルがそれを防ぐのに手一杯になったところで、シアンは短槍を構え直す。
体勢を低くし、重心も落として一撃に集中する。そんな構えだ。
「そっちがそうなら……ぼくだって」
フランベルは一度、鞘に刀を納めた。
使うなと言ったのに……しかし、止めるには最悪のタイミングだ。
すでにシアンの技は放つだけの状態にまで、その魔法力が高められていた。
相殺するなら、フランベルには一閃しかない。
入試二位は伊達じゃない。
いくらフランベルに才能があっても、シアンもまた戦闘実技の天才なのだ。
一朝一夕では埋まらない差が、明確に存在する。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアア」
シアンが気合いの声を上げた。
「――ッ!!」
フランベルの集中力も、これまで見せたことがないくらい高まっている。
一呼吸置いて、二人は同時に互いのキルゾーンに踏み込んだ。
「穿て! 軍国流!!」
「一閃!」
殺傷圏内に二つの刃が閃いた。
技のキレは同等だ。
だが……。
ここにも大きな差があった。
魔法武器の性能である。
いかに良質といえども、学園の生徒が生み出した打刀では、名工の手で仕上げられたであろう、アダマンタイトコーティングの刃に……撃ち抜かれるのは必至だった。
白刃が交錯した瞬間、フランベルの放った一閃の刃はシアンの可変槍に打ち砕かれた。
衝撃で吹き飛ばされて、フランベルは大きく後ろにのけぞらされた。
「そん……な……嘘……だよね」
全力で放った一撃がシアンに通じず、それどころか得物を破壊されたのだ。
フランベルはふんばりも聞かず、そのままゆっくりとスローモーションがかったように後ろに倒れこんだ。
「そこまで! 勝負ありだな」
倒れきる前にフランベルの身体を受け止めて、俺は試合の終了を宣言した。
観戦していたクリスもプリシラも、シアンの一撃の威力に言葉も出ない様子だ。
「次は誰だ?」
喜ぶような素振りも見せず、シアンはクリスを見据えた。
俺が二人の視線に言葉で割って入る。
「もう十分だろう?」
「ふむ……正直なところ、この程度とは残念だ。しかし当然の結果か」
シアンのつまらないものを見るような、冷淡な視線にクリスもプリシラもうつむいてしまった。
俺に支えられたまま、フランベルは寝息を立てる。
その瞳からぽろぽろと涙が落ちた。
フランベルの打刀は真ん中の辺りから、ぽっきり二つに折れてしまった。
「では失礼する」
可変槍を軽く払うように振るうと、シアンは俺たちに背を向けて、校舎の正門方面へと向けて歩き出す。
プリシラが吠えた。
「ちょ、ちょっと! フランベルの武器をこんなにして、ごめんなさいもないわけ?」
シアンはプリシラに振り向くことなく言う。
「実戦で武器を破壊されて、敵にそのようなことを言うのか?」
プリシラは黙り込んだ。
擁護するつもりはないが、シアンの言うことももっともだ。
敵は容赦などしてくれない。
遠のくシアンの背中が、フランベルとシアンの実力を現すように遠のいていった。
息を呑むような顔つきで、クリスが呟く。
「彼女を……倒せるのかしら?」
お前まで弱気になるなよクリス。
「お前なら十分勝てる見込みはある。けど……」
直近の問題は刀を砕かれたフランベルだった。
エステリオだからこそ、こういった王国内で一般的に流通していない形式の魔法武器も手に入ったわけだが、王都を探しても打刀の魔法武器があるかどうか……。
全力をぶつけてなお、敗北を喫したフランベル。
そんな彼女に、俺ができることはなんだ?
シアンと試合やらせたのは俺の判断ミスでもあるわけだし。
新しい刀について、ここはどーんと任せてもらうぜフランベル。




