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49.プリシラの戦い

プリシラは獅子王を見上げながら、クォータースタッフを構えた。


防御の姿勢だ。俺を守ろうとしてくれている。


「こ、殺すならあたしだけでいいじゃん! 二人は関係ないんだから!」


牙を剥いて獅子王は吠えた。


「小娘ッ! 交渉できる立場と思うなッ!! 我が殺すと決めた以上、説得など通じぬぞ」


クリスの顔つきが豹変した。


感情を失ったような表情をすると、計算尺を回転させる。


彼女は……破壊の魔法式を構築した。


先日王都で襲撃に遭った際に、敵の魔法式を読み解いて、もう自分のモノにしてたのか。


計算尺を使っても構築に手間取っていたのだが……それが完成する。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


発動寸前で、獅子王が吠えた。


その吠え声には魔法力が込められている。


バインドボイスだ。


その性質は魔法歌に近い。


身体を震わせ内臓に響くほどの大音響によって、聞いた者に強烈な束縛の暗示を与えた。


俺は瞬時に風の精霊魔法で空気の壁を生みだし、バインドボイスを防ぐ。


クリスは破壊魔法を放つ寸前で、その身動きを封じられてしまった。


「――ッ!?」


何をされたのか、クリスは解らず混乱したようだ。


獅子王が放ったバインドボイスは、洗練された理論魔法からほど遠い。


それは原初的な本能に訴えかける。


恐怖の感情によって引き起こされる感情魔法に近かった。


理論魔法で“考えて”いるうちは、拘束を打ち破るのは難しい。


こうしてみると、クリスも感情魔法に対しては、やや弱い部分があるみたいだな。


「クリっち……レオっち……ううっ」


プリシラにはバインドボイスが効いていなかった。


わざと獅子王が対象から外したようだ。


うつむくプリシラに獅子王が告げる。


「小娘よ。この二人の命を我に捧げよ。さすれば貴様だけは、その命を救ってやろう」


こいつ、性格悪いな。


自分が圧倒的強者であり、約束を守る必要がないことをわかっていて、あえてプリシラに持ちかけていやがる。


何が王だ。呆れるぜ。こんな奴に王という呼び名はもったいない。


“獣人”は続けた。


「さあ、その手で殺すのだ。そうだ……もし成し遂げたなら、特別に我を呼び出す権利をやろう」


プリシラは深くうつむくと、肩を震えさせた。


「……いらない。そんな権利いらない……あたしは二人を裏切らない……どうせ、あたしがそうしたって、あんたに約束を守る義理なんてないじゃない!!」


涙を袖で振り払うようにして、プリシラは断言した。


これに獣人が「ほぅ」と、愉快そうに声をあげる。


「なんだ、解っていたか。もう少し楽しめるかと思ったのだが……余興にもならぬとは残念だ。では望み通り、まずは貴様から殺してやろう!」


鋭い爪をむき出しにした、丸太のような右腕を獣人は振り上げる。


俺は瓦礫の中から立ち上がった。


獣人の動きがぴたりと止まり、俺に視線が注がれる。


まあ、驚くだろうな。バインドボイスが効いていないのだから。


「なあプリシラ。自分が犠牲になるなんて言うなよ。クリスとフランベルとチームを組んだ時も、自分は捨て駒なんて言ってたよな。ああいうのはもう止めだ」


獣人は俺にめがけて、再び吠え掛かった。


「馬鹿な!? 虫の息だったはずだ! それに我が呪縛の声から、どうやって逃れたというのだ!?」


「そんなことはどうでもいいだろ」


ぶっきらぼうに言いながら、俺は首をポキポキと鳴らすようにひねりつつ、祭壇の中央へと歩みを進める。


視線をプリシラに向けて、静かに告げた。


「よく立ち向かったな。プリシラ。かっこよかったぜ」


プリシラが俺の顔を見上げた。


「レオっち……無事だったの!?」


「ああ。俺は不死身のコーチだからな」


「ば、ばかぁ……うう……無理しないでよ……あたしなんかのために」


くしゅっとプリシラの顔が、崩れたような泣き顔になる。


「かっこつけさせてくれよ。お前のためにさ」


そう言うと、プリシラは小さく頷いた。


俺は感情魔法を込めてクリスに告げる。


「束縛されてるなんて気のせいだ。というか、クリスもかかったフリをしてたんだよな?」


すぐにクリスの身体から、スッと邪気のような獣人の魔法力が抜けていった。


「え、ええ。そうよ! レオが無事だったのも、全部私の斥力場が守ったから! 不死身じゃないでしょ!」


今、あえて言う必要もないだろうに。ちょっと怪しく聞こえるぞ。


とはいえ、俺が無事なのはクリスのおかげだと、言い訳が立った。


無視されるような格好になった獅子王が、怒りの声を上げる。


「ふざけるな人間どもおおおおおおおおおおおぉ!」


俺は振り返らず獣人に背を向けたまま、感情魔法を奏でる。


「少し黙ってろよ」


再びバインドボイスで吠え掛かろうとした獣人が、声を出せずに喉をかきむしった。


黒い毛並みで顔色なんてわからないが、人間なら顔面蒼白ってとこだろう。


俺は涙をぽろぽろ落とすプリシラに告げる。


「プリシラ……お前は少しわがままなくらいが魅力的だぜ。もう、誰かのためなんて考えるな。自分のために、思うままにやってみろ。俺やクリス、それにフランベルやエミリア先生がついてる」


小さくフルフルとプリシラは首を左右に振った。


「レオっち……いきなりそんなこと言われてもわかんないよ……」


「わからないなら、わからないままでいいから、ともかく俺の後ろにいるデカブツに、きついのを一発をお見舞いしてやれ! クリス! サポートを頼む!」


ずっと獣人を牽制するように注視していたクリスが「任せてちょうだい!」と声をあげた。


俺はゆっくり振り返る。


「じゃあやろうか獅子王?」


声を出せない獅子王の瞳には、疑念と恐怖が宿っている。


俺を見る目が怯えだした。ああ、動物って素直で可愛いな。


徒手空拳で身構える。


「――ッ!?」


声にならない怒声を上げて、獣人は俺を潰すような勢いで殴りかかってきた。


豪腕から繰り出される連撃をかわし、いなし、翻弄するような足捌きで獣人の目の前を、あえてゆっくりと俺は横切ってみせる。


奴の攻撃はすべて空を切った。


「行ってプリシラ! 移動と防御を支援するわ!」


半透明な板が無数に、獣人を取り囲むように発生した。


可視化した足場だ。斥力場の応用技術だが、強度は低い。警戒した獣人が腕を振るい、足場を破壊していく。


だが、壊されようと次々と、クリスは足場を作り続けた。


プリシラがクォータースタッフを構える。


「レオっち……クリス……うん。わかった。あたしもう……逃げない!」



決意の眼差しで、プリシラはクリスが生み出した足場を駆け上がった。

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