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37.才能の片鱗

俺の放った刹那の斬撃を、フランベルは目を皿のようにして見ていた。


軽く振るうようにして、刀を鞘に納める。


「どうだ? なんとなくわかったか?」


「い、い、今のってまさか……師匠の必殺技ッ!?」


「まあ、そんなところだ」


高位魔族の襲撃に遭うこともしばしばあったので、自然と必殺レベルにまで昇華した自衛のための技だ。


魔法力無しでやると、さすがに威力が拡散しがちだな。


「もう一回! もう一回だけ見せてよ!」


俺はゆっくり息を吐く。


「いやいや、すごく集中力を使うし、あれをやると身体の負担も半端ないんだ。勘弁してくれ」


「そんなぁ……殺生だよ! 生殺しだよ!」


フランベルは紅潮した顔で身もだえた。


「動きのコツはきちんと教えるから……次はお前の番だ」


打刀をフランベルに返却した。


受け取った彼女は、きちんと刃が上に向くよう鞘を差す。


これで少しは様になったな。


フランベルは深々と一礼した。


「ご、ご指導のほど……よろしくお願いします師匠!」


「よし。じゃあ始めるか!」



桜の舞い散る中、特訓は月が南中をまたぐまで続けられた。


フランベルは筋が良い。


みるまにコツを覚えて、剣圧で衝撃波を放てるようになった。


まあ、魔法力をそれなりに込めて振るっていれば、フランベルの戦闘センスなら造作も無いか。


ここからもう一段階ステップアップさせたいところだ。


「なあフランベル。この技の攻撃範囲ってどう思う?」


彼女は技を放ちながら答えた。剣圧で桜の花びらがぶわっと舞い上がる。


「うりゃああッ! っと、ええと、結構広範囲……かな?」


花びらを浮かせているのは魔法力の余波であって、理想は衝撃波をできるだけ起こさずに、力を一点に集約することだ。


「フランベルは刀にそこそこ魔法力を込めてるだろ?」


「うん。そうしないと、師匠が見せてくれたみたいに空を斬れないよ!」


空を斬るのが目的の技じゃない。


「じゃあ、まずは込める魔法力を最低限にしてみてくれ」


「え? でも、それじゃあ技としてはまったく使い物にならないよ?」


「今のお前は、動作の一から十まで魔法力を込め続けて技を出している。いわばずっと力をこめっぱなしな状態だ」


フランベルは不思議そうに俺の顔をのぞき込んだ。


「それの何がいけないんだい師匠?」


「持久走をしてる時だって、ずっと全身に力をいれっぱなしってことはないよな? ガチガチに力むと動きづらいっていうのは、魔法力も同じなんだ」


ふむふむと、フランベルは頷いた。


「師匠は魔法が使えないのに、そんなことまでわかるのか」


「ま、まあ、俺が『そうなんじゃないかなぁ』って思ってるだけなんだが。ジャンプする時も、最初から最後まで力を入れっぱなしじゃなくて、脱力状態から、踏み切る瞬間に力を込めるだろ?」


フランベルは半分口を開いて、ゆっくり頷いた。


「そ、そっかぁ! さすが師匠! 魔法力にも脱力が必要なんだ!」


「その感覚を応用して、攻撃範囲が生まれる一瞬にだけ、魔法力を集中してつぎ込むんだ」


「うーん、いきなり言われても難しいよ!」


「大丈夫大丈夫。出来るようになるって。そもそも、フランベルは一つの事に集中するのが得意だろ?」


フランベルは納刀すると、視線を刀の柄に落とした。


「集中……か。そういえば、そうだよね。ぼくっていろいろなことを同時にはできないから」


俺は人差し指をピンッと立てた。


「一点集中。一点突破だ。他の事には目もくれず。それがフランベルの良さだと思う」


フランベル自身は高い魔法力を持っている。


それを魔法式や精霊魔法に変換するのが苦手なのも、彼女の個性だ。


一途なら一途なりの戦い方がある。


選択肢が多くて迷うことがない分、フランベルの剣は一瞬速く、相手に届くだろう。


「というわけで、抜刀術の一瞬しかない威力の頂点に、自分のすべてを込めて、ぶつけてみてくれ」


「それが必殺技の極意なんだね師匠!」


瞳をキラキラさせてフランベルは興奮気味だ。


「俺が教えたのはあくまできっかけだ。これを必殺技にまで磨き上げられるかどうかは、お前次第だぜフランベル」


アイスブルーの瞳でじっと俺を見つめると、彼女は深くゆっくり頷いた。


「じゃあ、今日は次ので最後の一回にするよ」


「よし。受けてやるから遠慮無く来い!」


再びフランベルは正門側に向き直る。


俺はその対面に立ち、箒を構えた。


シン……と、風の音が止む。


俺は彼女の仕掛けてくるタイミングを静かに待った。


再び風が吹き、桜吹雪舞ったその時――。


「ハッ!」


短い発声とともに、フランベルは“最低限”に抑えた魔法力を、抜刀術の一瞬の威力の頂点にぴたりと合わせて来た。


桜吹雪のほんの十センチほどだけがスパッと剃刀で切ったように分断される。


その刃が生み出した衝撃波は、拡散せずに俺に向かってきた。


一途すぎるほど一途に。まっすぐすぎるほど、まっすぐに。


これは……いなせないな。フランベルの絞り出した最高の一撃だ。


威力を偏向できない。しちゃいけない。


俺は真正面から箒で衝撃波を受け止めた。


が、受けきれず、あえなく数十メートル先の正門近くまで吹き飛ばされた。


受け身をきちんととったので怪我は無いが、ここまで飛ばされたのは久しぶりだ。


「結構気に入ってたんだけどな。ま、仕方ないか」


箒の柄は、ぽっきり折れていた。


俺はよれよれと立ち上がると、遠くに見えるフランベルに手を振った。


目を閉じて月光を浴びながらたたずむ彼女は、まるで女神のようだ。


「いいぞフランベル! 今の感じを忘れるなよー!」


すると、フランベルの身体が……ばたりと前のめりに倒れた。


「お、おい! 大丈夫か?」


慌てて駆け寄ると、彼女は……。


「ZZZ……zzz……」


全てを出し切ったような満足げな表情で寝息を立てていた。



そういえば、今何時だ?


月が西に傾き始めている。


やばい……やばいやばいやばいやばい!


門限破りどころじゃないぞ。


お、落ち着け焦るな俺。


と、ともかく、彼女をこんなところにおいておけない。別にやましいことなんてないけど……そうだ! 宿直室に保護したってことにすればなんとか……。



ならないかもしれない。これってももしかして、バレようものなら失業の危機なんじゃないか?

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