34.小さな成果
放課後の特訓で、俺はクリスとプリシラにつきっきりで指導を続けた。
実戦的な防御の型を教える。そもそも俺自身、我流の部分が多い。
二人の防御動作にもそれぞれクセがあるため、それに沿った動きの最適化をするという感じだ。
そのクセを読まれると防御を崩されるという弱点はあるのだが、交流戦は一戦限り。
動きのクセを悟られる前に終わるだろう。
ほんの数日で二人の防御力――主に、自衛能力は格段に進歩した。
とはいえ、クリスはまだ「気づき」には至らない。
もどかしいが、俺が教えて身につくことじゃないから、今は待つしかなさそうだ。
剣士の気持ちが理解できるようになれば、クリスはもっと強くなれるはずだ。
それはそれとして、計算尺を使わせないようにした成果は着実に出始めている。
剣を扱いながら理論魔法を同時展開。クリスならできるようになるはずだ。
プリシラには召喚魔法を使えるようになってほしいんだが、無理強いできなかった。
前にも懸念したんだが、プリシラの場合、召喚魔法使いと対峙した場合、相手の召喚獣に反撃できない可能性がある。
特に小動物っぽい召喚獣だと、お手上げになりかねない。
優しい性格だからこその悩みだ。
ううむ、時間は無いのにやることは多いな。
俺があまりに二人に集中して教えるため、クリスから「フランベルはみてあげなくていいの?」と心配されてしまった。
フランベルにはエミリアについてもらって、校庭のトラックの周回タイムをとってもらっている。
早いタイムを求めるというより、一定の運動負荷をかけ続けながら身体強化をし続ける訓練だ。
できるだけ、一周を同じタイムになるようにと、フランベルには言ってあった。
「いいんだ。今日はこのあと、フランベルに別メニューを用意してるから」
クリスが少しムッとした顔つきになった。
「彼女だけ追加で特訓させるっていうの?」
「ああ。そうだけど」
「それは不公平ね。私も……その……」
「参加したいのか?」
素振りの手を止めてプリシラも俺に詰め寄った。
「あたしも秘密特訓したいし!」
「悪いな二人とも。そのやる気は明日の朝にとっておいてくれ。明日から持久走の距離を20㎞に増やすぞ。集合は早朝五時半だ!」
身体能力強化を使えば、時速20㎞を維持するくらいはできるだろう。
クリスは「わかったわ」と、すんなり承諾したものの、プリシラがほっぺたを膨らませた。
「えー!? いきなり距離伸びすぎだし! 超鬼! レオっち鬼すぎる」
「時間が足りないからな。それに、こなせるくらいには、二人とも身体強化ができるようになってるぞ。この短期間にめざましい成長だ」
プリシラのほっぺたが赤らんだ。
「そ、そういうこと言われると、あたしとしては、悪い気はしないかなぁ」
クリスはツンと目尻を上げて、そっぽを向いた。
「フランベルの特訓は、ちゃんと成果が出るものなのよね?」
「もちろんだ。必ずフランベルの力を引き出してみせる」
軽く腕組みするとクリスは小さく頷いた。
「わかった。信じるわ。それで、エミリア先生にはなんていうの? まあ、レオが気にしないっていうならいいんだけど、夜に女子生徒と二人きりで特訓というのは……どうなのかしら?」
「あっ……言われてみれば……まずいよな」
プリシラが笑顔を作る。
「そこは、あたしとクリっちで説得してあげるし。貸しにしておくから、ちゃーんと返してよね?」
「いいのか二人とも?」
勝手に話を進めたプリシラに、クリスは何か言いたげだ。
俺は恐る恐る聞く。
「あの、お願いできますでしょうかクリス様?」
「そこまで下手に出なくても頼まれてあげるから!」
逆に少し怒らせてしまったようだ。
◆
すっかり日が暮れ、本日の特訓も終了だ。
クリスとプリシラは、魔法史学の授業内容について少し質問があると、エミリアを先に連れ出してくれた。
「片付けは俺とフランベルでやっておくから、エミリア先生、二人を頼んでいいか」
「は、はい! 今日もお疲れ様でした!」
「お疲れ様。明日もサポートよろしくなエミリア」
急にエミリアの顔が赤くなった。
「わ、わたしにできることなら、なんでもします!」
「お、おう。その意気だぜ!」
「し、ししし、失礼します!」
慌てた素振りでエミリアはクリスとプリシラに合流した。
急にどうしたんだろう? 俺、何か動揺させるようなこと言ったか?
この後のことを考えると確かめるため呼び止めるわけにもいかず、エミリアたちの背中を見送ってから、俺はフランベルと簡単に片付けを済ませた。
それが終わると、フランベルはいつもの子犬のように人なつこい視線で俺を見つめる。
「師匠! ここからが本番だね!?」
「準備運動は十分すぎるくらいできてるな」
二時間近く、彼女は走りっぱなしだ。
「うん! よし、じゃあ早速……」
今日はまだ抜いてすらいなかったロングソードの柄に、フランベルは手を添える。
「ちょっと待て。まだ早い」
「えー! 今日はずっと我慢してたんだよ!」
不満げなフランベルに、俺は不敵な笑みを浮かべて告げる。
「今から武器用具室に行くぞ」
「え!? 用具室って……もうこの時間じゃ閉まってるよ! 鍵がかかってて入れないんじゃないの?」
「おっと、俺を誰だと思ってるんだ? フランベルの師匠にして、このエステリオの管理人様だぞ」
宝物庫ならいざ知らず、用具室の鍵くらい用意するのはお手の物だ。
俺はフランベルを引き連れて、すっかり人気の無くなった校舎に後戻りをした。




