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29.接近する過去

クリスたちが授業を受けている間、俺は管理人の仕事をせっせとこなした。


片付けられそうなところから順次進めていって、放課後までにはほとんどの仕事を終わらせる。


武器用具室の清掃中に、魔法工学専攻の生徒が手がけたであろう“新作”を見つけた。


「ちょっと見てもいいか?」


寡黙な武器用具室の主は無言で頷いた。


無口な男だが、俺を嫌っているわけではないらしい。


まあ、たぶん平民の管理人に興味が無いんだろうな。顔は知っているがお互いに名前も知らない。そんな関係性だ。


お許しが出たのでちょっと見せてもらおう。


採用された新作は――打刀だ。


ずいぶんとマニアックな趣味だな。一般的な両刃の長剣と違って、王国では珍しい。魔法武器となればなおさらだ。


俺も我流だけど、刀剣術を鍛えたっけ。


鞘から抜いてみると刀身は綺麗に透き通っていた。


たぶん、クリスのショートソードを手がけた奴だろうな。確証は無いが雰囲気が似ている。


「こいつを扱えそうな生徒はいるか?」


「…………」


用具室の主は、注意深く見ていないと解らないくらい、かすかに首を左右に振った。


「そっか。せっかく出来が良いのに残念だな」


「…………」


主は頷く。


当分引き取り手は現れないだろう。


打刀を元のラックに戻して、俺は掃除を終えると用具室を出た。



来賓があるというので、続けてお茶汲みだ。


魔法薬学科教員のマーガレットがブレンドした、カモミールのハーブティーを淹れて応接室に運ぶ。


「おや、君か」


応接室にはギリアムと、見慣れない紳士風の男の姿があった。


紳士は白髪交じりのグレーの髪で、立派な髭を蓄えている。


瞳の色は深い紫色だ。魔法使いか。


「お茶をお持ちしました。失礼します」


早々に立ち去ろうとしたところで、ギリアムに呼び止められた。


「いやぁ聞いているよ。エミリア先生のクラスのコーチをがんばっているそうじゃないか。立派なものだ……が、しかし平民が魔法使いに、いったい何を教えるというのかね?」


「失礼します」


「はっはっは。本当に失礼だね君は。礼儀知らずな君には少々もったいないのだが、せっかくだからこちらの紳士を紹介してあげよう。かの名高き四賢人のお一人、名門アプサラス家の当主。軍師ガンダルヴァ・アプサラス殿だ」


俺は軽く会釈をした。


この手の紳士は苦手だ。


さっきから俺を値踏みするような視線が恐い。平民の俺なんかに見るべきものは何も無いだろ。


ガンダルヴァは終始無言で、ギリアムが続けた。


「さすがの君も萎縮して声も出せないようだ。まあそれも仕方ありませんよ。私はエリートという、王国の未来の至宝を預かる責任ある立場ですから、そのご家族である貴人とお会いすることもしばしば……あ! ちょっと待ちたまえ」


「お茶が冷めるので、俺はこれで」


紳士の視線とギリアムの呼び止める声を振り切って、俺は逃げるように応接室を出た。


ブルッと背筋に悪寒が走る。


あれが四賢人ってやつか。


ギリアムクラスのシアンはアプサラス家の養女だと言っていた。


確かに似ても似つかない。

黒髪黒目のシアンと、白髪交じりのグレーの髪に、深い紫色の瞳のガンダルヴァ。


四賢人の一人がわざわざエステリオに足を運ぶ理由は、やっぱり娘の事なんだろうか?


ま、俺が気にすることじゃないな。


あとで応接室の片付けに行かなきゃならんのだが、少し時間をおいてからにしよう。


――三〇分後。


カフェテリアで水漏れがあったというので、そちらの応急処置をした。


どうやら水の精霊が暴走したらしく、きちんとした修理には専門家が必要そうだ。


総務部を通して業者に依頼し、俺は応接室に戻った。


ギリアムもガンダルヴァも部屋におらず、安堵しながらお茶を片付ける。


空になったティーセットをお盆に載せて応接室を出ると、廊下に紳士が待ち受けるように立っていた。


「君……どこかで会ったことはないかね?」


「え? さ、さあ?」


気配隠蔽か透明化の魔法でも使っていたのか。突然出てきて心臓に悪いだろ!


「失礼、いきなり話しかけてしまって。先ほどは口うるさいのがおってな。落ち着いて自己紹介もできなんだ。ガンダルヴァ・アプサラスだ」


紳士はそっと俺に手を差し伸べた。


「すみません。両手がふさがっていて」


「おっと、重ねてすまない。いやしかし……どこかで見たような顔に思えるんだが……」


「レオ・グランデです。管理人をしています」


「そうかそうか。いやはや……お茶、ありがとう。良い香でとても気に入った」


「お褒め頂いて光栄です。ブレンドをした者も喜ぶと思います」


「ああ、よろしく伝えてくれたまえ。それでは失礼」


紳士は満足げに笑うと、長い廊下の奥へと消えていった。


あっぶねえええええ!


あれくらいの年齢なら、十年前はギリギリ現役の軍人だろ?


こっちは覚えてなくても、向こうに知られてる可能性はある。


なんとかうまく、ごまかせたっぽいけど……王都にも近いんだし、ああいう人物が学園にやってくる可能性も考慮すべきだった。


今後は気をつけないとな……。



ともあれ、残りの仕事をちゃっちゃと片付けて、放課後はコーチとして働きますか。

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