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24.癒やしの手

犬は野良らしく首輪もしていなかった。ぐったりと地面に伏せたまま、呼吸する度に小さくうめく。


プリシラはそっと犬の腹に手を当てた。


「大丈夫だから。しっかり……ね。がんばって……」


プリシラの掌に温かい光が宿る。


彼女が使ったのはランクDの回復魔法だ。

犬くらいの大きさなら、すぐに治るだろう。


治療するという意味で、手当てするという言い方があるが、まさに癒やしの手だった。


慈愛に満ちた魔法力は、プリシラが持つ本来の姿を映しているのかもしれない。


「うっ……こんなに……痛かったんだね……もう大丈夫だから……絶対に治してあげるから」


プリシラは涙を目にためこんでいる。


意図しているのか、無意識なのか。

彼女は回復魔法と同時に、痛みを肩代りする魔法も使っていた。


回復魔法と一口にいっても、その治癒力は様々だ。


ランクD程度だと、肉体の損傷は治せても、痛みはしばらく残ったりするものである。


その痛みを取り除いて癒やせるとなれば、ランクC――一般的には魔法医になれるレベルだった。


プリシラは自分に痛みを移すことで、擬似的にランクCの回復魔法を再現している。


本人は自分を落ちこぼれだと思い込んでるが、これはこれでなかなか高度な魔法技術と言えるだろう。


なにより、足りない力を自分で工夫して補っていることに驚きだ。


苦しげな犬の呼吸がだんだんと落ち着いて来た。

目をぱちりと開いて、犬は立ち上がると元気に尻尾を左右に振る。


「ワンワン!」


まるで、プリシラにお礼を言っているように思えた。

プリシラはしゃがんで目線の高さを合わせると、犬の頭を撫でる。


「もう、あんな連中に捕まるなよ」


「ワン!」


プリシラの周囲をくるんと回って、犬は路地裏へと消えていった。


「よかったな。元気になって」


「べ、別に……っていうか、ありがと……レオっちが助けてくれなきゃ、あの子を助けられなかったし」


おずおずとうつむき気味にプリシラは言う。


恥ずかしそうにもじもじ膝をすりあわせてるけど、立派だったぞ。


「良いって。俺の事は気にするな。生徒の安全を守るのも管理人の仕事のうちだ」


ムッと眉尻を上げてプリシラは俺の顔を指さした。


「へ、平民のくせに生意気だし」


「平民でも役に立つこともあるんだし、いいじゃないか」


急にプリシラが不安げな顔をした。


「けど、大丈夫かな。あいつらレオっちのこと学園に言いつけたりしないかな?」


「それも問題無し。ちゃんと相手に先に殴りかからせたから、立派に正当防衛だ」


それでも過剰防衛だのと文句を言ってくるようなら、今度こそ容赦しないけどな。


「あ、あのさレオっち……ちょっと……疲れちゃった」


プリシラはふらついた。すかさず腕で支える。


「ずいぶん消耗してるみたいだし、おんぶしてやるよ」


俺は彼女の前にかがみ込んで背中を向ける。


「ば、バカ! 超恥ずいじゃん」


「良いから良いから。それとも救急馬車でも呼ぶか?」


「うう……わ、わかったわよ。けど、クリスとフランベルには絶対に秘密だかんね」


もたれかかるようにプリシラが体重を預けてきた。


両手に荷物を持ちつつ、彼女の重さを背中に感じながら、人目を避けるように裏路地をしばらく歩く。


思ったよりも軽いな。

密着していると、花のような甘い香りがした。



裏路地をゆっくりと歩く。人目につかないのはありがたい。


俺の耳元で彼女は呟いた。


「ねぇ……レオっちってさ……強いんだね?」


「まあな。旅をしてると自然と身につくもんだ」


「あたしも旅をしたら、強くなれるかな?」


「お! もしかして強くなりたいのか? 力が欲しいかプリシラ」


俺は低い声で魔王の如くプリシラに聞く。


「もう! 茶化さないでよ。それに、すぐに強くなんてなれないってことくらい、あたしにだってわかるし」


どこか寂しげなプリシラの声に、俺は小さく首を左右に振った。


「プリシラくらいの年齢なら、一日で伸びることなんてザラだぞ。それに、俺はプリシラが弱いなんて思わない」


「弱いよ……今だっておぶってもらってるじゃん」


「それはプリシラが、あのワンコを救おうとがんばった証だ。それに魔法使いだからとか平民だからとか、関係なくお前は弱いモノイジメに立ち向かおうとしたんじゃないか?」


いきなり理論魔法を使おうとして不発させたのはご愛嬌だけどな。


「しょ、勝算があったの! この制服が目に入らぬか! って……けど……」


今回ばかりは、制服=魔法使いってことがバレてしまったわけで、逆効果だったな。


正当防衛でなければ、魔法使いは平民に魔法を行使してはいけない……か。


法ってのはルールやモラルを守る人間だけを守るわけじゃない。


「お前が気にすることは何もないって。まあ、これからは平民保護の法があることを念頭におくべきだけど、それでもあいつらがクズなだけだ」


俺の背中でプリシラは小さく「うん」と頷いた。


再び目抜き通りに出る頃には、プリシラも少しだけ回復した。


「ここで下ろして。もう大丈夫。ちょっと早いけどランチにしよ? この辺りだと……ピザの美味しいお店があるから。ごちそうするね! マジ美味くてぶっ飛ぶよ」


「おっ! そいつは楽しみだ!」


休憩がてら、ここはごちそうになるとしよう。


それにしても、今日は俺の知らないプリシラのいろんな一面が見られるな。



回復魔法が得意というのがわかっただけで、俺としては結構な収穫だった。

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