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23.管理人の仕事として

23.管理人の仕事として


「サッカーやろうぜ。へっへっへ……お前ボールな」


「キャウン!」


ガラの悪い連中が、人通りも無い裏路地で犬を虐待して楽しんでいる真っ最中だった。


人数は六人。二十歳そこいらってところだ。全員例外なく腐ったような目をしていた。


誰かを可哀想だという気持ちは、母親のお腹の中においてきちまったのかな。


「やめなってマジで」


プリシラは六人の男たちに臆せず、ずかずかと歩み寄っていった。


「んだてめぇ? ここは俺らの縄張りだぞッ!? つうか……見ねぇ顔だな」


「こ、こいつエステリオの生徒だぜ! やべぇよ」


男の一人が悲鳴のような声を上げた。


「慌てんなって。知ってんだぜ? 魔法使いってのはよぉ、正当防衛は認められるが、基本的には平民に危害を加えちゃいけないんだよなぁ? 俺らがこの犬をどうしようが、お前には関係ない。なのに俺らに魔法なんか使ったら、最悪……退学になるんじゃねぇの?」


考え方はゲスだが、見かけによらず冷静な奴がまざってるな。


王都では魔法による犯罪は厳しく取り締まられる。


プリシラが悔しそうに下唇を噛んだ。


「それは……そうだけど……っていうか、なんで犬をいじめるわけ?」


「理由なんかねぇよ。蹴りやすいところに、たまたまいたからだ……ろッ!」


「キャイーン!」


男の一人が犬の腹を蹴り上げた。瞬間、プリシラが理論魔法式を構築……できてないぞ。

それじゃあ何も起こらない。


初歩的な魔法式も使えないのか。けど、良かった。不発でほっとした。


プリシラが下手に手出しをして、退学騒動になる方がまずい。


「どうしたよ魔法使い様? あ! そうだこの犬、売ってやんよ。百万ギルカでどうだ? 魔法使いってのは金持ちなんだろ? それくらいサクッと払ってくださいよぉ魔法使い様ぁ」


両手に服屋の紙袋を持ったまま、俺はプリシラと男たちの間に割って入った。


「んだテメェコラァッ! 俺らが用事があんのは、そこの魔法使い様だっての。邪魔だから死ねよ」


突然、殴りかかってきた男の拳を避けつつ、カウンター気味に男のみぞおちめがけて膝蹴りを放つ。


動作はあくまで軽く。死なない程度に手加減はしたつもりだ。


ゴスッ! と、男の急所を俺の膝が一突きした。


「えぐうううううううううう!」


うめき声とともに胃液をはき出し悶絶しながら、男は地面に這いつくばる。


「野郎ぶっ殺す!」


別の一人がナイフを抜いた。そのナイフを握った手に、俺は狙いを定めると弾くように蹴りを見舞う。


正確に得物のナイフだけを蹴り落とされて唖然とした男の顔面に、追撃の前蹴りを放つ。


パキッと鼻の骨が折れる手応えがあった。


「ぐえっ!」


鼻を折られた屈辱と後悔を、しばらく味わってもらおう。


相手がゲスだと遠慮がいらなくていい。気が楽だ。


俺の削ぐような前蹴りを受けて、男はよろよろと数歩下がる。


蹴り飛ばされて落ちたナイフが、ちょうど男の足下にあった。


「チクショー! クソがああ!」


ナイフを拾おうと前屈みになったところへ、俺は飛び膝蹴りを食らわせた。

顎が九十度の角度になる勢いで、ナイフ男はのけぞりながら意識を失った。


対ナイフ格闘術を使って、そのナイフの切れ味をお前自身で試さずに済んだことに感謝しておけよクズ野郎。


残り四人か。

全員KOしちまうと、後始末が面倒だ。


二人の負傷者をきちんと持ち帰ってもらうためにも、これくらいにしておこう。


怯えた瞳で男の一人が俺の顔を指さし、吠え掛かってきた。


「な、なんなんだよテメェは!」


「俺は学園の管理人だ。生徒の快適な生活を守る義務がある」


「は、はああ!? 管理人って雑用係か? おっさんそのガキの荷物持ちなんてさせられて、男としてのプライドねぇのかよ!」


お前が言うか? それ。


「弱いものイジメをしてる連中に、プライドの話なんてされたくないんだが……」


俺は連中の後方に控える、リーダー格らしき男を睨みつけた。


「管理人の仕事にはゴミ掃除も含まれる。あんまり俺の仕事を増やさないでくれよ」


俺が朗らかに口元を緩ませると、リーダー格の男はブルッと身震いした。


「お、覚えてやがれよ! 行くぞテメェら」


行動不能になった二人に肩を貸して、ガラの悪い連中はけたたましく去っていった。


しかし、地方ならともかく王都でもあんな連中がいるのか。


いや、人が多いからああいう輩も増えるのかもな。


「無事かプリシラ?」



俺が振り返ると、そこには――しばらく平和で俺が感じることも無かった「じとっ」とまとわりつくような、死の臭いが漂っていた。

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