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エピローグ.魔法学園<エステリオ>の新任教員

春がやってきた。


エステリオにやってきてから一年半。最初の半年間はひっそりと管理人の仕事をこなしていたのだが、まさかこんな事になるとは思わなかった。


法衣のような礼服に袖を通し、マントを羽織る。これでひとまず“それらしい”出で立ちにはなった。


腰には七連星工房謹製の獅子鋼剣。まあ、ここで働くのには明かにオーバースペックな品だが、俺が常時身につけていることが最大の宣伝効果になるという、工房スポンサーからの依頼もあってのことである。


門をくぐって中に校舎へと続く桜並木を歩いた。


春の風が優しく吹き抜けると、さわさわとピンクの花びらが揺れる。


本日付で、俺は――レオ・グランデはエステリオ理論魔法学科の教員だ。


入学式を控えて、学園内には普段はみない魔法騎士たちの姿があった。


なにせ王女三姉妹が、この場にそろい踏みするのである。


王城並とまではいかないが、蟻の這い出る隙間もない、しっかりとした警護が成されていた。


「レオ先生は、やっとレオ先生になったんじゃのう?」


校舎の建物の入り口で、学園の制服に身を包んだ小柄な少女が俺を待ち構えていた。


「ずいぶん早いなフローディア?」


「入学生筆頭じゃから、一番に来るのは当然であろう! それに本日の警備は我が魔法騎士団じゃからの!」


えへんと第三王女は胸を張った。が、すぐにしょんぼりと肩を落とす。


「しかし、レオ先生に教えてもらえると思っておったのに」


「悪かったな。俺の担当は新二年生なんだ」


「と、飛び級ですぐにおいついてやるのじゃ!」


背伸びをしてフローディアは赤銅色の髪を揺らしながら、俺の顔を下からのぞき込んだ。


「そうしたら、一年早く卒業だな」


「うっ……そ、そうなるとレオ先生と一緒に学べる時間が減ってしまうのじゃ。ううう、悩ましい!」


フローディアは苦悩するように頭を抱えた。さっきからコロコロと表情が変わって、まるで百面相だ。


「まあ、理論魔法は全学年教える予定だから、そんなに残念がるなって。それよりこの一年で、ちゃんと理論魔法の基礎は固めてきたか?」


「そこはアルジェナ姉様にばっちり鍛えてもらったのじゃ!」


自信を含んだ笑みに俺は「まいったな。アルジェナが家庭教師じゃ俺が教えることなんて残ってないかも」と冗談っぽく告げる。


「そ、そんなことはないぞレオ先生! 姉様に教わったのは基礎だけ! 基礎だけじゃから!」


フローディアは両腕をバタバタとさせて大あわてだ。そのまま続ける。


「わがままはもう言わないから、これから三年間よろしく頼むぞレオ先生!」


「おう。王女様だからって特別扱いはしないからな」


「望むところじゃ! と、それはそれとして、レオ先生でなければ誰のクラスが良いかのうぅ」


彼女の適性を考えれば精霊魔法学科のリチャードソンが良いのだが……俺は頷きながら助言する。


「それなら魔法史学科のエミリア・スタンフォード先生がお勧めだぜ」


フローディアは目を丸くさせた。


「おお! オーラム姉様に負けず劣らずな、あの先生か!」


何がどう負けず劣らずなのかは……訊かないでおこう。


フローディアは「では、レオ先生の助言に従うとしよう。そろそろ姉様方が来られる時間じゃ! 騎士団長と迎えの準備をしてまいるぞ!」と、正門の方に向かって彼女は駆けていった。


入学式では主席の挨拶もしなければならないのに、色々と忙しそうだな。


俺はその足で校舎内の教務室へと向かった。



「おはようございますレオさん……じゃないですね、レオ先生」


小さく一礼してから頭を上げると、エミリアの胸元がたわんと踊った。


だめだな。何度見ても慣れないというか……。つい、目のやり場に困ってしまう。


それを隠すように俺も小さく頭を下げた。


「おはようございます。エミリア先生」


「ふふふ……なんだか、不思議な感じですね」


まだ、他の教員たちが来ていない教務室に俺はエミリアと二人きりだ。


エミリアが部屋の窓際に立った。窓を開放すると、朝のすがすがしい空気が部屋の中に舞い込んでくる。


窓際から振り返ると、日差しを背負って彼女は目を細めた。


「レオさんは後輩ですから、困った事や疑問があったら、なんでもわたしに質問してくださいね」


「お手柔らかに頼むよ。エミリア先輩」


エミリアの顔が真っ赤になった。


「な、なんだかレオさんに頼られるって……すごく嬉しいです。これからいっしょに、生徒たちのためにがんばっていきましょうね」


そっと俺に手を差し伸べる彼女に、俺は歩み寄ると握手で返した。



ほどなくして、式典の準備も整い俺はエミリアと並んで、教員席についた。


講壇のある舞台脇には、貴賓席が設けられていた。


正装したオーラムとアルジェナの姿がある。しばらく教員研修で王都を離れていたので、二人の顔を見るのは久しぶりだ。


アルジェナからの要請で王宮に仕官するという誘いもあったのだが、俺がエステリオの教員になるむねを伝えると、彼女は「……そうですね」と、言葉少なげに返したっけ。


そのあと手紙が連日届いて、長文で説得されまくったのも良い思い出だ。全部返すのに手間取ったな。


オーラムはといえば、融合体の一件以来、魔法力の暴走は一度も起こらなかった。


そんな彼女の手首には、常に紫色の光沢を放つ獅子鋼のリングが嵌められている。


もう、つけなくても大丈夫だと、以前に何度か説明はしたのだが、彼女曰く「お守り」なのだとか。


じっとオーラムの方を見ていたら、彼女と目が合った。


ニコリと微笑むオーラムに、ドキッとさせられる。


今日はこのあと、国王の名代としてスピーチをする予定なのだが……最近は公務に精力的とはいえ、文言を間違ってしまったり、噛み噛みにならないないか心配だ。


照明が落とされた。ゆったりとした音楽が、音響魔法装置から奏でられ始めた。


一番後ろの扉が開き、講堂の中心にまっすぐ伸びる光の道ができあがった。


引き連れるように威風堂々とフローディアがその道を歩む。


集められた在校生たちが、次々と入場する新入生を拍手で出迎えた。


式典の主役も揃い、開幕は学園長の挨拶からだ。


わざと長く退屈な話をしているんじゃないかと疑いたくなるような学園長の挨拶が終わると、続いてフローディアが新入生主席として宣誓した。


内容は、この学園で学び、人の役に立てる魔法使いになることを誓うというような内容だ。


幼く見えた彼女の横顔が、壇上では二人の姉たちに劣らず立派に見えた。


そして――


通例であれば三年生が受け持つのだが、今年は教員や生徒たちの推薦もあって在校生代表を務めたのはクリスだった。


フローディアと入れ替わりで壇上に立つ。


「え、ええと……よ、ようこそエステリオへ!」


柄にもなくクリスは緊張していた。ところどころつっかえながらも、用意していたスピーチの内容をカンニングペーパーに頼りつつ、なんとか大役を務めきる。


本人はスピーチの出来に不満なようで、在校生席に戻ると、両隣のプリシラとフランベルから慰められていた。


打って変わって、オーラムが講壇につくと講堂の中の空気が変わった。


誰もがオーラムに視線を注ぐ。


スポットライトを受ける彼女の美しさは際だっていた。


落ち着いた口振りでオーラムは新入生に祝辞を述べる。


そんな彼女の姿を、新入生席の最前列でフローディアは憧れるように見上げた。


普段の優しく柔らかい雰囲気とは一線を画すオーラムの姿に、スピーチが終わると自然と喝采が送られる。


これで式典も終わりだ。入学式に出席するという、教員としての初仕事を終えた……と、俺が安堵した矢先のことだった。


一礼したオーラムが、まだ壇上に残っていたのだ。


その眼差しは……俺を見つめていた。


「それでは、本年度より理論魔法学科の教員として加わる、新任の先生から挨拶を戴きたいと思います。レオ・グランデ先生……こちらに」


い、いやいやいや。聞いてないぞそんな段取り!


不意に教員席にスポットライトが当てられた。


俺に注がれたのは光だけではない。


拍手が巻き起こる。クリスもプリシラもフランベルも、隣の席に座るエミリアも……生徒たちだけでなく、教職員からも。


マーガレットが「ほらほらレオくん。きっちり決めなさい!」と声を上げ、果ては学園長までも「わっはっは。ええぞええぞ」と大喜びしながら、両手を叩き始めた。


こいつはどうやら、逃げられないな。


またしても、引くことを許されない戦いに巻き込まれるとは思わなかった。


壇上でオーラムが俺を誘うように手を差し伸べる。


立ち上がると歩み出た。


仕方ない……頭の中は真っ白だが、オーラムと入れ替わりで講壇に立つ。


去り際オーラムは「レオさまのかっこいいスピーチを期待しています」と、ウインクしながら小声で告げた。


プレッシャーだな。だが、これくらいの窮地、今までの経験からすればどうってことはない。


拡声器を調整し、前を向く。


拍手が止んでシン……と、講堂は静まり返った。


生徒たちがずらっと居並ぶところに向けて、俺は声を放つ。


「本年度から教員として理論魔法学を教えるレオ・グランデだ。やるからには、ここにいる全員を、それぞれが得意とする分野において勇者に比肩する……いや、勇者を越える魔法使いに育て上げるつもりだ。これまでに培った技術や経験に知識のすべてを総動員して、伝えられるすべてを伝えていきたいと思う。一応、新二年生の担任にはなるが、学年も学科も関係なしだ。相談したいことがあればなんでも言ってくれ! 俺だけでなく、学園には良い先生がいっぱいいるから俺に教えられないなら、その分野のスペシャリストを紹介する! 学園を活用して強くなって……大切な誰かを守れる人間になってほしい!」


うまい言葉を探せるほど、俺は大人でも先生でもない。


だから未熟な言葉で、それでも気持ちだけは伝わるよう声にした。


再び、喝采が湧いた。


それだけでなく在校生の一部からは「うおおおおおおお!」だとか「やるぞおおおお!」といった雄叫びまであがる。


生徒たちが席から立ち上がった。


新入生も在校生も、教員席の面々も。


感情魔法も使っていないのに、これだけ多くの人たちから受ける拍手の雨は……勇者として凱旋した過去の自分に向けられたどんなものよりも、温かいものだった。



オーラムとアルジェナは学園長と今後のエステリオの運営について、話合いをするらしい。


式典も終わり、本日は生徒たちも解散だ。クラス決めの方式については相変わらずのシステムで、明日は仮のクラスルームで生徒たちと顔合わせだ。


正直、俺のクラスを希望してくれる生徒はいるんだろうか。定員割れを起こさないか心配になる。


そんなことを考えていると、自然と足が管理人室に向いていた。


先日、教員宿舎に引っ越したため中はもぬけの空……のはずが、中から気配がした。


「誰かいるのか?」


ドアを開けると、そこには二人の少女の姿があった。


「あーん! レオっちの部屋、なんか殺風景なんだけどぉ!」


「師匠の匂いが染みついたベッドが無いなんて……って、師匠!?」


プリシラとフランベルだ。


「いったい、こんなところで何をしてるんだ?」


プリシラがほっぺたを膨らませた。


「べ、別に何もしてないけど……クリっちを捜してただけで」


フランベルにも視線で確認をとると、彼女も長いポニーテールを縦に揺らした。


「なんだ、二人ともクリスとはぐれたくらいで」


フランベルが目を丸く見開いた。


「くらいでなんてとんでもない! ぼくもプリシラも、一年生の学年末試験でぎりぎりでトップ25に入ったんだ」


「レオっちのクラスに入るために、チョーがんばったんだよ? 絶対プラチナシートだし」


ずっとクリスに勉強をみてもらっていた成果だな。


「がんばったのは偉いと思うぞ……この一年間、ずっと二人は努力してきたもんな。だけど、それはそれとしても俺のクラスがプラチナシートってことはないだろ」


プリシラはさらにほっぺたを膨らませた。


「さっきの講堂のスピーチで、レオっちのクラスに二年生全員殺到する勢いだったんだからね!」


「マジかよ……」


プリシラは「マジマジ!」と首をうんうん二回縦に振った。


フランベルも頷く。


「一年休学して師匠のクラスに入ろうとか、そんな嘆願を学園長にする生徒もいたくらいなんだよ?」


「まいったな……ところで、二人はクリスになんの用事なんだ?」


プリシラとフランベルは互いに顔を見合わせた。


「え、えっと、独りだけいなくなるってことは……その……」


「けどけど、師匠がここにいるってことはセーフっていうか……」


二人とも膝をすりあわせるようにモジモジとして、要領を得ない。


「わかった。それじゃあ見かけたら、二人が捜してたってクリスに伝えておくよ。あと、利用者がいないからって管理人室に勝手に入らないようにな」


「「はーい」」


なぜか二人にジトッとした目で睨まれた。


が、ともあれ先生らしくきちんとくぎを刺して、俺は校舎から出ると講堂脇にある庭園に足を向けることにした。



講堂脇の小さなバラ園には、まだ花は無くオールドローズが蕾だけを膨らませて大輪を咲かすのを待っているようだった。


帰ってきてからはこまめに手入れをしているのだが、これまでの仕事と両立というわけにもいかない。


管理人の仕事は、今の所学園長が「良い暇つぶしじゃからのぅ」と受け持ってくれている。


が、良い人員が見つかれば俺の後釜として据えるとのことだった。


「レオ……こんなところにいたのね?」


不意に背後から声をかけられた。


昔は誰かが後ろに立つとすぐに身構えていたのだが、学園内ではすっかり腑抜けた俺である。


ゆっくり振り返ると、そこには明るい栗毛の少女が息を切らしていた。


エメラルド色の瞳がじっと俺を見据える。


「どうしたんだクリス? そんなに慌てて……あっ! そういえばプリシラとフランベルが捜して……」


俺が言い終える前に、クリスは歩み寄ると俺に抱きついてきた。


入学式も終わり、人気の無い講堂の脇で俺は少女に強く強く抱きしめられた。


「今度こそ、ちゃんと教えてよね……レオの全部を吸収して……隣に立って戦えるくらい強くなるから」


俺はそっと彼女の頭を撫でる。


「ああ。そうだな。俺の全部をお前に託すよ」


どうやら行き違いもあったようで、クリスは俺を捜していたみたいだ。


再会した場所がこのバラ園というのも、なんとなく縁を感じた。


まあ、一番最初にクリスと会ったのは、彼女がギリアムに強引に勧誘されていた昇降口の前なんだが……。


あれからもう一年が経ったとは思えないな。


クリスはそっと顔をあげた。


「だから、これからもよろしくね……レオ先生」


「こちらこそ、頼りにしてるぜ」


春の風が頬を撫でる。


また、エステリオでの新しい一年が始まろうとしていた。


■レオ・グランデ エステリオ新任教員


召喚魔法言語学=SS

理論魔法学=SSS

感情魔法学=S

精霊魔法学=SS

魔法史学=B

回復魔法学=SS

戦闘実技学=SSS

魔法芸術学=B

魔法工学=SS

魔法薬学=S


※A以上の等級が無いため、それ以上ということで便宜上Sで表記


元勇者 元エステリオ管理人 銀翼の騎士 ユグドラシア名誉教授(本人は受け取り拒否) 獅子鋼レオニウムの語源 王都魔法武器鍛冶協会顧問(本人は就任拒否) 第一王女の想われ人 勇者の師匠……etcetc

【告知】なろう最新作「勇者になりたかった俺が異世界で魔王の肉体に転生してるんですけどッ!?」

http://book1.adouzi.eu.org/n7113ed/

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