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17.害獣駆除

エステリオで十分に学んだ三年生ですら、やつの前では無力に等しい。

やつは教員さえも手玉に取る。

おそらく、今この学園で止められるのは俺だけだ。


俺は一直線に女子更衣室を目指した。


悲鳴の元に駆けつけると、俺の足下を高速の何かが通り抜けていった。


間違い無い。やつだ。


うかつにも逃してしまった。すぐに追撃を……。


「ま、待つのだ! それを返せ! おのれええええ!」


やつに遅れて第一更衣室から少女が飛び出して来た。


黒髪を取り乱した少女は、下着姿だ。

純白のパンツのみを着用した状態だ。

胸を腕で押さえるようにして、少女は吠える。


「待たぬというなら、実力をもって排除する!」


その瞳が、一瞬――漆黒から光を帯びた。


「おい。落ち着け!」


俺が声をかけると、少女――シアン・アプサラスは真顔になって、その場で固まった。


ほのかに宿りかけていた瞳の魔法力も雲散霧消する。


「貴様は……誰だ?」


まるで初対面扱いだな。ギリアムクラスの生徒なんだから、そもそも俺の事なんて眼中に入りもしないか。


「管理人のレオだ。一度会ってるだろ。ギリアムクラスのシアンだよな? たしか軍師アプサラス家の……」


「いかにも」


「ところで、その格好で廊下を徘徊するのはまずいんじゃないか?」


「うっ……きゃあああああああああ!」


俺の指摘に悲鳴を上げて、彼女は第一更衣室に引っ込んでしまった。いや、もっと早く気付けよ!


「平民に肌を晒すとは、一生の不覚」


不可抗力で見てしまったとはいえ、そこまで言われると、海のように広い心を持つ俺でもさすがに傷つくぞ。


俺はとじられた第一更衣室のドアの前に立った。


「悪かった。悲鳴が聞こえたんで飛んできたんだが、一足遅かったようだな」


「……………………」


「シアン。何があった?」


「平民のくせに気易いな。だいたい、何がとは何だ?」


「大変言いにくいんだが、下着の……そのだな……ブラを盗まれたんじゃないのか?」


「な、なぜそれを貴様が知っている!?」


あー。やっぱり。悪い予感は的中した。なんとかこれ以上の被害拡大だけは避けなければ。


「たまに学園内に出るんだよ。やっかいなモンスターが。害獣駆除も管理人の仕事だからな」


「なんだと? エステリオには野生のモンスターが入れぬよう、結界魔法が敷かれているのではなかったのか?」


「結界といってもそこまで完璧じゃないんだ」


「なんたることだ」


ドア越しのシアンがどんな顔をしてるのかまではわからないが、最初に会った時の印象と比べれば、それなりに話せる女の子っぽいな。


まあ、ギリアムクラスと対戦する以上、彼女とは敵同士なわけだが……。


シアンが苛立たしげに聞いてきた。


「いったいどのようなモンスターなのだ? 私が直々に成敗してくれる」


不機嫌そうに言いながら、彼女は更衣室の外に姿を現す。


エステリオの制服に身を包んでいた。

そんな彼女の手にする得物は短槍……いや、ちょっと違うな。


柄を握って振るって伸ばし、長槍に戻す。

その時、独特の“しなり”があった。


間合いに合わせて長短を使い分けられる可変槍か。


しかし、長槍モードだと廊下で振り回すには長すぎるな。


詳しく分析するまでもなく、シアンの武器は高級品だとわかった。


柄の素材はミスリル合金製だ。


おそらく学園の武器用具室にあるものの、半分程度の重さだろう。

武器の重量が威力に直結するのは、平民向けの普通の武器の話である。


込める魔法力で威力が決まるのだから、軽いに越したことはない。

軽量高強度で扱いやすく、さらに鉄のような柔軟性まである高級武器か。


ミスリル単体は硬度が高く、衝撃や金属疲労で破断することもあるのだが、魔法工学を駆使して冶金し、素材特性を変更して鉄の性質を合成したってとこだろう。


こうすることで、金属が“しなり”を得て、衝撃に強くなるのだ。


刃にはアダマンタイトコーティングが施されていた。刃付けは無し。

使われている鋼材も良さそうだな。


この槍一つで、下手をすれば小さな城が建ちかねない。


仮にシアンの攻撃を武器で受け止めることができいても、並みの武器ならそのまま叩き折られる可能性が高い。


「良い槍だな」


「今はそのような話に興じている場合ではない」


「おっと、そうだった」


「なにをじろじろ見ている。早く標的の情報を教えるのだ平民」


「わかった。ええと……プリン族は知っているか?」


シアンは頷いた。


「ふむ。半透明のゼリー球のような形状で、跳ね回るくらいしかできない下級モンスターであるな」


「そのプリン族には、ダブリンっていう亜種がいるんだ。プリンを二つくっつけたような形をしている」


「そやつが犯人なのか。許せぬ」


さっそく追撃しようとするシアンを俺は制した。


「待て待て。まだ説明は終わってないぞ……そのダブリンなんだが、ヤドカリのように自分の身体にあった殻のようなものを探す習性があるんだ」


「な、なん……だと」


「しかも、これが結構選り好みをするというか、ぴったりのサイズのものを見つけるまで、殻を集めまくるという奴でな」


俺が説明をしている間に、第二更衣室から複数の悲鳴が上がった。


「ゆ、許せぬ! なんと破廉恥なモンスターなのだ」


ダブリン自体はエロ目的じゃなく、本能に従ってるだけなんだが、被害者にはそんなこと関係ない。


俺だってパンツを盗む魔物に大切な物を奪われて、ノーパンで仕事するとかあり得ないしな。


「というかシアン。お前、今ノーブ……」


「それ以上言ったら殺す」


「はい。なんでもありません」


余計な詮索だった。


エステリオの女子生徒のためにも、ここは俺がなんとかしなきゃならんのである。


「ちなみに、ダブリンは自分の身体のサイズにぴったりの殻を見つけると、満足して他の殻を捨てて退散するんだが……どうやら今回のダブリンは、かなりの大きさらしい」


こうしている間にも、次々と悲鳴が上がっていた。


「逃がしてなるものか。着いてこい平民!」


悲鳴のする方へとシアンが走る。


着いてこいと言われなくても、行くつもりだ。

俺は彼女の背中を追いかけた。


悲鳴が第三更衣室から上がった。どうやら標的は通気口を移動しているらしい。

シアンが扉を開く。


「ここにダブリンがいるはずだ! 隠し立てすればためにならんぞ」


シアンの奴、いきなりその言い方は高圧的すぎるだろ。

俺がシアンの後ろから更衣室内を確認すると……。


「「「きゃあああああああああああああああああ!!」」」



第三更衣室では、エミリアクラスの代表三人が着替えの真っ最中だった。なんでよりにもよってこの三人なんだ! 厄日か今日は!

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