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16.沈黙する敗者たち

――翌日。


エステリオの一年生は午前中が座学や実験で、午後から戦闘実技を学ぶ。


が、今日は午前中にクラス単位で武器用具室に行き、得物を選択する時間が設けられていた。


入学後から武器用具室はずっと開かれているし「学園から説明があるまで武器を選んではいけない」というルールも無い。


しかし、そんなルールが無いことを知っている人間は、存外少ないのである。


学園の規則についても良く勉強しているエミリアでさえ、昨日、俺に言われて初めて知ったというほどだ。


新任の彼女ならそういうこともあるだろうと思ったのだが、あとで確認したところ、俺よりもエステリオに長くいる魔法薬学科の教員――マーガレットも、エミリア同様に知らなかった。


で、結果どうなったかというと……。


一年エミリアクラスが用具室で武器を選ぶのは、一番最後だった。

扱いやすそうな剣や槍などは残っていない。


エミリアクラスで満足のいく武器を手にできたのは、昨日のうちに選んでいたクリスたちだけだ。


そして“寄せ集め”クラスの生徒は、不人気な鈍器に甘んじるのである。


彼らはますます自信を失った。余り物の武器がお似合いだと、自分に言い聞かせる。挫折に次ぐ挫折だ。


実はエステリオの試合では、安全面を考慮して設定されたレギュレーションにより、刀剣類よりも鈍器の方が同じ魔法力でも威力が高かったりするのだが……それも、あまり知られていない。


なにより魔法武器は使い手の気持ちが大切だ。

最初に「不人気武器」だと思って嫌々使うのと「気に入った武器」を使うのとでは、後者の方が断然、成長しやすかったりするのである。


昨日、エミリアクラスの他の生徒たちが、特訓の見学だけでもしてくれれば、他のクラスに先んじて、もう少しマシな武器が選べたかもしれない。


そう思うと残念で残念で仕方がない。

なーんてな。正直、そこまで残念には思ってない。


今は他の生徒の「やる気」まで面倒をみていられないのだ。


だから――勝った俺たちに着いてこい。という気持ちだった。


エミリアクラスの再生に勝利は絶対条件だ。


ちなみに、余談になるのだが……。


魔法工学専攻の生徒が作った武器の中で、出来が良いものは用具室に「採用」される。

時々見に行って掘り出し物にあたることもしばしばだ。


あとは魔法工学科の先輩とお近づきになって、武器を作ってもらう。

これにはコミュ力の高さが必要だが、工学科の生徒の経験にもなるんで、お互いにとって悪くないんだよな。


あとは、いっそ自分で作るって方法もあった。



用具室とは別に、学園には宝物庫が存在する。


そこに収められているであろう、学園が所有する優秀な魔法武器を参考にして、自分で作れば模造品でもかなり強力な魔法武器になることは、間違い無い。


ま、生徒どころか、教員ですらそうそう宝物庫には入れないので、最後の案は非現実的だ。


そんなことを考えながら、俺は宝物庫前の入り口を掃き清めた。

上空からみると、宝物庫は六角柱型で、塔のような建物の中だ。

入り口以外は窓一つなく、巨大な石柱のようだった。


中にどんな武器があるのか拝んでみたい。

見えてるけど取れない位置にある宝箱みたいで、もどかしいんだよなぁ。


ちなみにエリートクラスの生徒たちは、一人として用具室には世話にならない。

才能のある連中の実家というのは、大概お金持ちだ。

学園で使うためだけの、専用の魔法武器を持参するのである。


クリスの計算尺も、そうして持参されたものだった。



午前中の授業終了のチャイムが鳴った。


手押し車に桜の花びらを積んで運ぶ。秋頃は枯葉で焼き芋なんかもしたのだが、桜の花びらじゃ、ちょっと違うよな。風情が無い。


魔法薬学で堆肥を作っているので、そちらの集積場に花びらを捨てにいった。

ふう。これで午前の作業は一段落だ。


昼休みを挟んで、午後は先日、とある生徒が消滅させた第三闘技場のステージ復元作業だ。

といっても、さすがに俺が石を運んで積むってことはない。


石材の設置作業を請け負う業者を案内して、ステージの復元に立ち会うという感じだった。


石材の運搬と設置には召喚獣のゴーレムを使役することになっている。そちらの準備も業者任せだ。


俺は見ているだけなんで、気楽なものだった。


ああ、腹が減った。パンでも買って宿直室に戻るか。



学園内には、昨年新設されたばかりのカフェテリアがあった。


飯は美味いらしく、評判も上々で生徒はもちろん教職員も利用しているらしい。


雇用契約に「平民の管理人はカフェテリアを利用出来ない」なんて項目は無いのだが、居心地が悪そうなのは容易に想像がついた。


人目を気にして胃薬を飲みながら飯を食うなんて、まっぴらだ。


購買部でパンや総菜的なものを買って、我が城――宿直室で食うのが俺の日課である。


なにげに購買部は充実していて、食品だけでなく日用雑貨なども手広く扱っているので、わざわざ王都に行かなくとも買い物では困らない。


俺がこの職場を好きな理由の一つだ。夜に食べる分の食料も、昼間にまとめて買い置きできる。


簡単な昼食を済ませて、部屋でごろんとしていると……。


悲鳴が聞こえた。

絹を引き裂くような女子生徒の悲鳴だ。


俺は宿直室を出ると、ドアの脇に立てかけておいた箒を手に取った。


昼食後、午後からの戦闘実技訓練を前に、生徒たちが準備を始めようかという時――。



女子生徒の悲鳴とともに「やつ」は現れるのだ。俺の手には、自然と緊張の汗がにじんでいた。

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