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164.男の戦い 後編

魔導影街にあるゴーレムファイト専用の闘技場――その控え室に俺とフランツはいた。


会場には観客たちが集められている。その大半はアドルフの息の掛かった連中だとか。


従兄と同じことをする……というか、俺がフランツに手を貸したことへの意趣返しかもしれない。


魔法使いとして決闘を挑んでも俺に勝てないが、ゴーレムファイトなら話は別だ……と、ふんだのだろう。


操縦用グラブに刻んだ魔法式の最終調整を進める俺に、フランツは軽くおさらいをした。


ゴーレムファイトの大まかにして重要なルールは二つ。


一つはグラブを介してゴーレムを操作すること。このグラブには魔法的な制限があって、操作や制御など、ゴーレムに関する以外の魔法を受け付けないようになっている。


同時に、魔法によって外部からゴーレムに干渉することは禁じられていた。


そしてもう一つは試合の決着方法だ。


ゴーレムがミニチュアの闘技場ステージで戦うため、対戦相手を場外に落とせば勝利となる。ほか、ギブアップも認められた。


「けど、レオさん気をつけてくれよ。あんたの腕は信じてるけど、アドルフのやつ……何をしてくるかわかったもんじゃねぇ。あいつは場外に落ちた相手でも、降参した相手でも構わず……確実に魔力結晶を破壊するんだ」


ミニチュアゴーレムの動力源である魔力結晶は、ほとんどの場合機体の内部に格納されていた。


それを破壊して行動不能にしても勝利となる。


負けを認めた相手をいたぶるアドルフのやり方は、ゴーレムファイターたちの間でも忌み嫌われていた。


容赦のなさという点では、俺も魔族や魔物相手にスイッチが入ると、人のことが言えないのだが……。


「降参した相手に追撃するのは、ルール違反にはならないのか?」


「あいつは審判を抱き込んでるからな。アドルフの反則だけは、審判が止めるタイミングが遅いんだよ。あいつが潰したゴーレムファイターは両手の指に収まらないぜ」


「ならなおさら勝たなきゃいけなさそうだ」


アドルフとその一派の専横を許せば、ゴーレムファイトの存続が危ぶまれる。フランツ始め真剣に取り組んでいる人間には看過できない状況だ。


フランツは小型のケースをテーブルに四つほど並べた。


その中にはミニチュアサイズの“武装”が納められている。


「装備の方はレオさんに言われた通りに新造しておいたぜ……けど、本当にこんなんでいいのか? アダマンタイトコーティングの使用面積制限のせいで、槍は先端にしかアダマンタイトコートができなくて……角を外してシャフトまでコーティングしてある槍を使えるよう、予備の準備はしてあるんだけど……」


ミスリルは重量に比して硬いが、それでもアダマンタイトコーティングを施された武器で攻撃を受ければ、損傷は免れない。


角の使用面積分を槍のシャフトにもっていくという考え方は、理にかなっていた。武器の強度が格段に上がるのだ。


が、しかし――


「それをなくしちまったらこいつの登録名が、なにがなんだかわからなくなるだろ……それに角があった方が……」


俺の視線にフランツは頷いた。


「「断然かっこいい!」」


互いに握った拳をコツンと付き合わせる。


この数日、放課後に機体操作の特訓を共にして過ごしたこともあってか、フランツとの息もぴったりだ。


「それじゃ、頼んだぜレオさん」


「任せておけ。お前が調整した機体と武器だ。100%その力を引き出してみせるさ」


レギュレーションにのっとり、刃のある先端部分のみにアダマンタイトコーティングを施した槍と、同様に表面をアダマンタイトコートした大型のラウンドシールドを手にして、フランツの作り上げた機体は戦闘準備を完了した。


登録名は『王鬼オーガ


その雄々しくそそり立つ漆黒の角と、白銀のミスリルフレーム剥きだしの素体は、ゴーレムと呼ぶには洗練された、ある種の潔い美しさを備えていた。



普段は誰かが闘技場に上がるのを、後ろから見守ることも多いのだが……今日ばかりは立場が逆転したな。


ステージを挟んだ向こう側――対戦相手となるアドルフと顔を合わせるのは先日、フランツの工房にやってきて以来だ。


相変わらず陰気な笑い声をあげながら、アドルフが機体をミニチュアの闘技場の上に置く。


フランツの設計した機体……にしては、品が無かった。大きな翼のようなオブジェを背負い、明らかに重心が後ろにかかりすぎている。


しかもその翼は黒かった。


得物は剣で、刀身は黒く、色合いに深みがある。


どうやら相当金の掛かった代物らしい。


「コーティングじゃなくアダマンタイト無垢材とは贅沢だな」


「ヒヒッ! 気付いたんだねえ。おっと違反じゃないよ? アダマンタイトは無垢材でも問題ないんだから! あくまで表面積の問題さ……まあ中味の差は性能に如実に出るだろうけどね」


無垢材ってことはそれだけ重くなるってことに、気付いていないのかこいつは。


フランツの設計思想を無視した重量級の装備だ。おそらく本来の性能は出ていないだろう。


ただ、立ち回りを一つ間違えれば危険なことに変わりない。


無垢材を相手に、盾に施したコーティングがどこまでもつかは未知数だ。


アドルフは前髪を掻き上げた。


「イーッヒッヒッヒ! 今日という日を心底楽しみにしていたよぉ……けど、なんでフランツじゃなくて、キミがそのグラブをしてるんだクソ管理人?」


「そんなもの俺が操縦者だからに決まってるだろ」


「アーッハッハッハ! そういえばそうだねフランツ。キミってば設計や製造は得意でも、操縦はドへたくそだったもんねぇ」


フランツは返さない。ただ無言でアドルフの機体を見つめていた。


「……フレームの組み上げ精度は出てるのに……そんな翼をつけたらバランスが……くそっ……」


アドルフの機体の基本設計はフランツの設計図を元にしたものだ。それを財力に任せてアレンジした結果が、あの背中の巨大な翼というわけか。


「どこかの馬鹿みたいな角と違って、ボクの機体――『黒死天使ザラキエル』の翼は美しいだろうぅ? 今日のために新造させたんだ。もちろん一流の魔法工学技師を雇って、最高の環境と最高の素材でね! お披露目の相手がキミなんて嬉しいなぁ。キミみたいにセンスのない人間には、この良さは一生掛けてもわからないだろうけどね。感動を共有できないのが残念でならないよ」


いちいち芝居がかった口振りでアドルフは告げると、操縦者の演台に戻っていった。


そこにアドルフの従者が控えている。従者と何か二~三言葉をかわして、アドルフは勝ったあとのような笑みを浮かべた。


一方で、フランツの表情は硬い。


「らしくもないな。緊張してるのか?」


「あ、いや……レオさん。アドルフの機体……基本フレームこそ以前のままだけど……あの翼……ただの飾りじゃなさそうなんで。気をつけてくださいマジで」


俺には余計な重しにしか見えないのだが、作り手の勘が働いたのか、フランツは黒死天使の翼を警戒していた。


審判役がミニチュア闘技場のステージにあがった、王鬼と黒死天使の最終確認を終えて宣言する。


「それではみなさんお待ちかね! ゴーレムファイト……レディーゴウッ!」


独特なかけ声とともに、戦いの火ぶたが切って落とされる。


ガシャンガシャンと重い足取りで、黒死天使が剣を構えて向かってきた。


遅い。動きが硬い。フランツの機体設計は人間の動きの再現性に重きを置かれているのだが、その良さが微塵も感じられなかった。やはり装備の重量が機体の積載量を超えているのだ。


振り上げた剣で斬りかかる黒死天使。それを王鬼はラウンドシールドでいなす。


金属音とともに火花が飛びちった。無垢材の重い一撃にシールド表面のアダマンタイトコーティングが、早くも削られる。


が、盾を切り裂くほどの威力はないようだ。


「イーッヒャッヒャヒャ! ぶっ壊れろおおおお!」


アドルフの操縦も乱雑だ。それよりも、隣に控える従者らしき男の方が気に掛かった。


戦況を分析するにしても、やけにこちらの機体を意識しているような雰囲気で、集中を途切れさせない。


アドルフがけたたましく吠えた。


「どうしたどうした!? 守ってばかりじゃ勝てないぞ?」


ラウンドシールドの表面を削り取りながら、加虐的な笑みを浮かべるアドルフ。その攻撃の圧力に、徐々に押されて王鬼はステージの縁までおいこまれた。


隣でフランツが青ざめる。


「レオさん、もう後がねえよ!」


「安心しろって。お前の王鬼を信じるんだ」


だんだんとアドルフの攻撃のリズムがつかめてきた。三回に一回の割合で剣を握り返すような動作が入る。その隙をついて……。


「跳べ! 王鬼!」


王鬼は高く跳躍すると、空中で伸身の宙返りをした。ひねりを入れて着地し一瞬で黒死天使の背後に回る。


「な、なんだ今の動きは!?」


動揺するアドルフの声に耳も方向けず、王鬼の槍が黒死天使の背を穿つ。


ガキイイン!


と、甲高い響きとともに……こちらの槍の先端がそらされた。


黒死天使の翼が開き、マントのようにこちらの攻撃をいなしたのだ。


その機敏な動作に一瞬目を見張ったが、黒死天使の振り返る動きはノッサノッサと緩慢なものだった。


「ハ、ハヒッ!? お、驚かせるなよまったく! というか審判! 今、こいつ外部から魔法を使わなかったか!? でなきゃ、あんな動きをゴーレムができるわけないだろ!」


甲高い声で抗議するアドルフだが、審判は首を左右に振った。


まあ、やろうと思えば隠蔽した理論魔法で気付かれずにやれもするのだが、それで手にした勝利に意味はない。


今のは純粋に機体性能というやつだ。フレームの優れた基本設計と、人間の動作に限り無く近い動きを再現することに注力し実現した、高度な魔法工学技術の賜物である。


つまりはフランツの実力に他ならない。


俺はただ、ほんの少し制御魔法で機体の動きやバランスを調整したにすぎないのだ。


「クソッ! まぐれはそう何度も続かないからな!」


再びアドルフが単調な剣での攻めに転じた。


「レオさん! 今の一撃で槍のシャフトが……」


「ああ、わかってる。翼のアダマンタイト無垢材に当てたら、槍の方がお釈迦になりそうだな」


角に使う分のアダマンタイトコーティングをケチったのが裏目に出た……とは言いたくないが、フランツの心配する気持ちも理解できる。


が、そこまでピンチというわけでもない。


相手の攻撃が剣で斬るだけなら、盾でいなしながら一撃を見舞う隙を探ればいいだけの話だ。


王鬼にはそれが可能だった。自分の身体の一部のように動いた。


思考から操作、そして王鬼がそれを実行するまでの流れはスムーズで淀みない。


ミニチュアのステージ上で俺が戦っているようなものである。


「この! この! このおおおおお!」


再びアドルフの呼吸が乱れた。操作への集中が途切れた瞬間を狙い澄まし――貫く!


王鬼の放った突きが黒死天使の胸元――元の設計図通りであれば、魔力結晶のある心臓部分を打ち抜く……はずだった。


ガキイイイイイイイイイイイイイイン!


またしても黒い翼が槍を弾いたのだ。翼は黒死天使の前に回りこみ、カーテンのようにこちらの攻撃を遮断した。


おかしい。今のタイミングならアドルフに反応はできないはずだ。


「き、効くかよそんな攻撃ぃ!」


焦り顔のアドルフに余計に違和感を覚えた。俺はフランツに確認する。


「なあ……二人で操縦してはいけないってルールは無いのか?」


「えっ!? 何言ってるんだよレオさん! そんなルール……あれ、そういえば考えたことなかったけど……まさか!?」


フランツも異変に気付いたらしい。黒死天使の翼と本体とでは、まるで別の意志が宿っているような動きをするのだ。


フランツが吠えた。


「き、汚ねぇぞ! 二対一なんて!」


アドルフが口元をにやつかせる。


「ハァン? 別に禁じられちゃいないよぉ? タンデムシステムを開発して搭載しただけじゃないか?」


試合開始から、ずっとアドルフの従者が戦闘に参加していたのだ。黒死天使を守る翼として。


アドルフの告白も、会場の半数以上が彼の取り巻きということもあって、試合を止めるような雰囲気にはなり得なかった。


それに開発したというのなら、その技術は正当なものだ。


「いいんだフランツ。お前も作り手なら相手の技術を認めてやれ」


「け、けど……ッ!!」


「それでもお前の技術は負けちゃいないさ。今から証明してやる」


アドルフは口元を緩ませた。


「じゃあそろそろこっちも本気だしちゃおっかなぁ……やれ! オズマ」


「かしこまりました」


従者が魔法力を解放させた。すると、翼が広がり八つの羽根が分離した。それらは自在に空中を舞う。


さながら飛翔剣といったところだ。八つの刃が一斉に王鬼に襲いかかった。


さすがに……これは防ぎきれない。


アドルフが勝利を確信して笑う。


「イーッヒッヒッヒ! 盾で防げるのは正面だけだろぉ?」


アダマンタイトから削り出された飛翔剣は、一発もらえば致命傷になりかねない威力だ。


それが前後左右背後から王鬼に牙を剥く。


俺は――王鬼は盾を目の前の黒死天使に投げつけた。


「無駄な抵抗だねぇ!」


無駄ではない。正面からの飛翔剣が盾に突き刺さり、二本ほどその動きを止めた。


あとは背後からの攻撃を避ければいいだけの話だ。


もともと機体のバランス能力が極めて高い王鬼なら、俺の動きにも追従できるはずである。


黒き刃を避け、かいくぐり、いなし、見切り、死地を切り抜ける。


王鬼は見事に俺の操縦に追従し、かわされた飛翔剣は空を斬りながら黒死天使の翼の鞘へと納まった。


「な、なにやってるんだオズマ!」


「すみません。ですがあんな動きをされるなんて……」


「ふ、フン! マグレで避けきったみたいだけど、もう盾は使わせないよ」


黒死天使は足下に落ちたラウンドシールドから、飛翔剣を抜いて翼の鞘に納めると場外に蹴り出した。


フランツが絶望的な顔になる。


「レオさん今度こそやばいって……もうこれ以上は無理だよ!」


「お前、自分の技術にもっと自信をもった方がいいぞ?」


王鬼は槍を構え直した。フランツが頭を垂れる。


「つっても、あの攻撃の手数……どうやったって防げるわけないじゃねぇか!」


アドルフがふんぞり返るようにして笑った。


「わかってるじゃないかフランツぅ! ボクだってキミの才能の一部は認めてるんだよ。そうだ、敗北を認めるならその機体の設計図で許してあげるよぉ。それにキミ、ゴーレムファイト部を学園に創設したいんだってねぇ? ボクがちょっと声をかければ、部員も顧問もすぐに集まるよ。遊びに付き合ってあげてもいいんだよ? だから……負けを認めなよ。ぼくの靴を舐めるっていうんなら、許してあげるからさ」


「…………ッ!?」


フランツの動揺は火を見るよりも明らかだ。


俺は溜息混じりにアドルフに返した。


「なんだ、そうやって気を引くような真似をして……結局お前はフランツに振り向いてほしかっただけなんじゃないか? 才能のあるフランツに認めて欲しいだけなんだろ」


「ハアアア!? 黙ってなよクソ管理人。これはボクとフランツの問題で、キミの出る幕じゃないんだけど?」


「知るかよ。その条件はのめない。だろ? フランツ」


フランツが奥歯を噛みしめるようにしながら、ゆっくり頷く。


「ああ……おれはレオさんに勝負を託した。そのレオさんが戦うっていうなら、おれのすべてをレオさんにかける! おまえには絶対に屈しない!」


覚悟を決めたなフランツ。なら俺もそれに応えよう。


アドルフが声をあげた。


「ならブッ潰れちゃえよおおおおおお! 串刺しの刑だああああ! やれオズマ!」


再び八振りの飛翔剣が王鬼に襲いかかった。王鬼は腰を落とし溜めをつくると……一気に力を解放して跳ぶ。


「攻撃は最大の防御だからな」


飛び込むと同時に王鬼の肩口や左腕が、迫る飛翔剣と交錯して切り裂かれた。が、構わずその突進の力を槍に込める。


俺の動きに合わせられるなら、できるはずだ。


「くらえ! 真牙螺旋突しんがらせんづき!」


回転する槍の先端から風が渦を巻いた。それに巻き込まれた飛翔剣はあらぬ方向へとそれていく。


放ったのは俺の必殺技だ。当然、魔法力を込めた一撃ではないため威力もそこまでではないが、すっかり油断して棒立ちだった黒死天使の心臓を、槍の切っ先が捉えていた。


アドルフの隣で従者オズマが声を上げる。


「いかん!」


短く叫ぶと同時に、オズマは極小の防壁を黒死天使の胸の前に展開した。ご丁寧に防壁には隠蔽までかけている。


使い慣れているところをみると、どうやらアドルフの危機を不正で救ったのは、一度や二度じゃなさそうだな。


一度は捉えたはずの相手の心臓に槍は届かず、理論魔法によって王鬼の渾身の一撃は阻まれた。


フランツが怒声をあげる。


「てめぇ! 今、外部から直接干渉しやがったな! 審判ッ! 今の見ただろ!」


抗議は審判に……届かない。隠蔽されていたこともあって、気付かなかったという“てい”で、話がついているのだろう。


自らが放った突きの威力に耐えきれず、王鬼の槍のシャフトはへしゃげ、右腕も関節が外れたようにダランと動かなくなってしまった。


先ほどの突撃で支払った左腕も使い物にならない。


両腕があがらないとみるや、アドルフがにんまり笑う。


「おやぁ? どうしたのかなぁ? 安物の武器も壊れて腕も動かないんじゃ万事休すだねぇ? さっきのボクの提案を受け入れていればよかったのに……もう遅いからな! オズマ……手を出すな。ボクが直々にこいつを細切れのくず鉄にしてやる」


剣を片手にぎこちない足取りで、黒死天使が王鬼の前に立ちふさがった。


「いいかフランツ。ボクに逆らったらどうなるか、そこで見てるんだな!」


「……クソッ!! あんなやつに……負けるなんて……」


悔し涙を溜めるフランツだが、それをこぼすには気が早いぞ。


「なあフランツ。やっぱりお前は間違ってなかったよ」


「なに言ってんだよレオさん! もうおしまいじゃねぇか! 俺が……角なんかにこだわって武器の強度を下げなきゃ、あのすげぇ突きが決まってたかもしれないんだ」


「逆だろ。角があって良かったんだ!」


無抵抗な王鬼めがけて、黒死天使が剣を振り上げた。そのがら空きの胸に……王鬼は頭突きをぶちかます。


オズマが防壁を展開する暇さえ与えない、近距離からの一撃だ。


深々と突き刺さった王鬼の角は黒死天使の背中まで貫通し、その心臓部にある魔力結晶を打ち砕いた。


審判もここまで明確な勝敗の決し方に異論の余地を挟めず、ほどなくして「勝者……王鬼!」のコールが会場内に響くのだった。



観客の去った会場に俺たちは取り残された。


尻尾を巻いて逃げたアドルフの「いい気になるなよ! 絶対にぶっ潰してやる!」という負け惜しみが心地よい。


客席の一部からは賞賛の拍手が贈られ、勝利に花を添えてくれた。アドルフの軍門に降るばかりの軟弱なゴーレムファイターばかりではないのだ。


戦いを終えてフランツの手に戻った王鬼は、満身創痍の状態だった。


最後の頭突きの際に、足の踏み込みが強すぎて、脚部の各関節部分が完全にダメになってしまったらしい。


「悪いなフランツ。ちょっと力みすぎた」


「いえ……いえいえいえ、いやいやいや、あ、謝らんでくださいよレオさん! おれ、ここまでしてくれるって思ってなくて……マジ泣きそうです!」


ぐっと涙をこらえつつもフランツは鼻声で俺に告げる。


「角にこだわってよかっただろ。お前は正しかったんだ」


「あんな使い方するなんて想定外ってやつですよ! つうかレオさん……マジでありがとうございます。こいつの次の課題も見えてきたし、もっと足腰をしっかり、みっちりと作り込んでやります! 制御系の魔法も勉強して、ちゃんと一人で完成させてみせますから! 今日のレオさんみたいな動きが、誰にでも引き出せるようにしてみせます!」


「おう! お前ならできるさフランツ。その日を楽しみにしてるぜ」


フランツが差し出した手を俺は硬く握り返した。


今日のこの戦いや活躍の噂を聞きつけて、学園にゴーレムファイト部が創立される日も、きっとそう遠くないだろうな。

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