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15.「D」と「T」

クリスの不思議そうな顔を見て、プリシラは笑いをこらえるように言った。


「ぷぷぷっ……えっとねぇ。説明してあげなよレオ。あんたドーテーなんだし」


「お前なあああ!」


察しの良いクリスが目を丸くさせた。


「わかったわ! 平民でありながら、魔法武器の知識を持つ人間の事をドーテーというのね。武器マスター的な意味と推測したんだけど……違うかしら? それにしてもドーテーって、不思議な響きね。ちょっと可愛いかも。ええと……貴方がドーテーであることを否定したとしても、この中の誰よりも武器に精通しているのはレオなのだから、ドーテーの力を遺憾なく存分に発揮してほしいの。ドーテーだっていいじゃない! 勝つためなら出し惜しみはなしにしましょ? それぞれが持つ力の最後の一滴まで絞り出さないと、ギリアムクラスは倒せないわ」


クリスは大まじめな顔をした。


んなわけあるかあああ!


精通とか絞り出すとか、うっさいわ!


クリスは魔法に関する高度な知識はあっても、一般常識には疎いらしい。


ずっとあくびばかりして、会話に参加するどころか武器にも興味なさげにしていたフランベルが「おお!」と、俺に詰め寄ってきた。


「レオはドーテーか! こじらせるなよ!」


「お前はお前で失礼だな。武器を選んでやらんぞ」


「ぼくは子供の頃から剣を使って来たからね。自分で選べるよ」


「ほほぅ。では選んでみるがいい!」


フランベルは迷い無く、刀身の長いロングソードを手にとった。


「これでいいや」


適当に選んだわりに、俺が見立てた中で一番の業物を持っていったのは偶然か?


「なあフランベル。その剣のどこが気に入ったんだ?」


「うーん、なんとなーく……かな。あえて言うなら、作り手の気が満ちてる武器って、独特の雰囲気があるんだよね」


なるほど。

理屈じゃなくフィーリングで選んでるみたいだが、フランベルは武器に関するセンスを持っているようだ。


プリシラが俺の腕をさらにギュッと抱いた。


「早くあたしのも選んでよー! ドーテーくん?」


「お前、次にその呼び名を使ったら……」


「えー? 事実を言ってるだけじゃん!」


クリスがうなずいた。


「プリシラが言う通りよ。ドーテーならプリシラの要望に、きちんと応えてあげるべきでしょ?」


エミリアが「そ、それはその、ち、違うというか……あうう」と、言いよどんだ。


フランベルが楽しそうに笑う。


「もしかしてレオって、ドーテーのフリをしてるだけなの?」


「ふりもなにも、ドーテーは武器マスターって意味じゃないからな」


クリスが「えっ!?」と、目を丸くさせた。


「じゃあ、きちんとドーテーの意味を教えてちょうだい。間違った知識を持ったままではいられないわ」


プリシラがにんまり口元を緩ませる。


「そうだよちゃんと教えてあげないと! あっ! もしかして素人ドーテーとか? レオっちったら、女の子とまともに手も握ったことがないのに、その道のプロとはそういうことをしてるんだー」


呼び名に「っち」がついて、さらに親しみが増えたな。


って、いや、舐められすぎだ! なんだよ素人ドーテーって! 女の子の手ぐらい握ったことはあるからな!


これ以上遊ばれっぱなしでいられるか。


自然と鼻息が荒くなった俺の肩を、フランベルがぽんぽん叩いた。


「レオは紳士だから女の子を殴れないんだよね。みんなの前で宣言した時は、かっこよかったなぁ」


「うおおおい! どうしてこのタイミングでその話が出るんだ!? というか、クリス……頭の良いお前なら、俺が困っている理由を察して、この場での追及をひとまずやめたりしてくれても、いいんじゃないか? いやむしろそうしろ。そうするべきだ」


クリスはゆっくりと首を左右に振った。


「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というでしょう? 今、知りたいの」


あー。こいつ、知識に関しては意固地になるところがあるんだな。


俺はクリスに手招きした。


「な、なによ?」


「そこまでお前が知りたいというなら、教えるから耳を貸せ」


「普通に言えばいいじゃない」


「なら教えてやらん」


クリスは困ったように眉を八の字にさせると、うつむいた。


「わ、わかったわよ」


プリシラが俺の腕をそっと放して三歩下がる。


代わってクリスがやってきた。


「本当にドーテーの秘密を知りたいんだな?」


「ひ、秘密があるの? そんな言われ方をしたら、気になっていっそう引き下がれないわ」


「わかった……」


俺はクリスにドーテーについて、きちんと正しい意味を耳打ちで説明した。


瞬間――クリスの顔が真っ赤になる。


「この変態ッ!!」


とっさに放たれた彼女の平手打ちが、俺の頬に綺麗な赤い痕をつけた。


あえて避けぬ。受け止めるのが男の務めだ。


涙目になったクリスは、俺が避けなかったのに驚いてから、しゅんと小さくなってしまった。


「ご、ごめんなさい……手を上げてしまうなんて、野蛮すぎるわ……けど……私はそういう言葉だとも知らずに連呼していたのね……は、恥ずかしすぎる」


フランベルが「ドーテーって言葉が可愛いって言ってたよね?」と、クリスの心をチクリと刺した。


「いやあああああああああああああああ! ふ、二人とも……それにエミリア先生も知ってて黙ってたの!?」


エミリアが「す、すみません。わたしも……恥ずかしくて」と、頬を染める。


フランベルとプリシラはハイタッチを交わした。


「イエーイ! クリスってちょっと知識が偏ってるし、あたしらが常識について色々教えてあげなきゃね?」


「ぼくらがばっちり支えてあげるよ! だってぼくらは仲間で同じチームじゃないか!」


「う、うう……ばかぁ」


少しだけ三人の距離が縮まったような気がするけど、だしに使われた俺へのフォローは無しですかそうですか。


ともあれ、俺が心身ともにダメージを受ける一悶着はあったものの、得物選び続行である。



結局、刃物が恐いというプリシラのために、彼女の武器は鈍器から選ぶことにした。


素人でも扱いやすく、防御性能の高いクォータースタッフあたりが妥当だろう。


これで準備も整った。


クリスはショートソード。フランベルはロングソード。プリシラはクォータースタッフである。


得物が決まったところで、校庭に出て俺は三人と軽く手合わせをした。


もちろん、魔法力を最大限まで武器に込めて斬りかかられたら、俺の得物の箒なんてひとたまりも無い。


武器を最低限の魔法力を込めるだけの訓練モードで起動させて、打ち合ってみる。まずはプリシラからだ。


プリシラは自分から攻撃せず、俺の攻撃を弾くのに専念したのだが……正直隙だらけだった。


まずは基本の型の素振りからだな。


クリスは器用にショートソードを振るった。


万が一、理論魔法が使えないタイミングがあっても、自衛できるくらいの剣技が使えている。


で、自称脳筋のフランベルはといえば、剣技だけならなかなかのものだ。


エステリオの一年生の中でも、剣技に関してのみ、エリートクラスと張り合えるレベルじゃなかろうか。


ただし、決め手に欠けた。

剣技一本でいけるほど、魔法使いの道は甘くない。


せめて必殺技の一つもあればよかったのだが、十五歳そこらの彼女に求めるのは酷だった。


まあ、今の段階でも、必殺技のきっかけくらいは教えられるだろうけど……。



二十日とちょっとでこの三人をどこまで仕上げられるか、コーチの腕の見せ所だな。

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