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154.禁書4

ひとまず王城から学園に戻ると、俺はそのまま女子寮に向かった。


受付でフランベルを呼びだしてもらうと、程なくして彼女が姿を現した。


寮にいる間も運動着姿だ。相変わらず腰には愛刀――蒼月を提げている。


「師匠! ボクだけなの?」


クリスとプリシラがいないことにフランベルは驚いていた。


「お前にしか頼めないことがあるんだ。今からちょっと出られるか?」


「も、もしかして、ででで……デート!? そして大人の階段を、ボクは一段飛ばしで駆け上がってしまうの?」


寮のロビーで他の生徒もいる中、何を言い出すんだお前というやつは。


「ともかく準備を済ませてすぐに正門まで来てくれ。修行だから蒼月はちゃんと持ってくるように。それと制服着用な?」


「うん! わかったよ。それに蒼月だけど、いつも師匠の代わりと思って、寝る時だって添い寝してるんだよ」


一緒に鍛錬した魔法武器とはいえ、ちょっとお前の将来が心配だぞフランベル。


彼女が去ったあと、俺は寮の担当者に書状を渡した。


王宮からの依頼で、生徒に協力をしてほしいという旨のものだ。


場合によっては一晩かかるという内容になっている。


差出人の名を知って担当者は目を丸くしたが、きちんと受諾してくれた。


これでフランベルが門限破りになることもないだろう。


ちなみに、今度の書状には燃えるような魔法はかかっていないので、一安心だ。



女子寮に長居するのも問題があるので、俺は用件を済ませて学園の正門に戻った。


懐中時計を開くと、時刻は午後四時を回っている。


しばらくして、フランベルが制服姿でやってきた。


「師匠お待たせ~! けど、こんな時間からだと、そんなに修行できないよね」


合流して早々、彼女は残念そうに眉尻を下げた。


「実は門限の方はきちんと許可をとってあるんだ」


「え? ど、どうやったの?」


「今回はちょっと王宮のお手伝いも兼ねてるんでな。依頼主は聴いて驚け……第二王女のアルジェナだぞ」


俺の言葉を聞いた瞬間、フランベルの顔が真っ赤になった。


「えええええええええ!? 師匠とアルジェナ様と、さ、三人で……」


「コラコラ。何か奇妙な想像をしてないか?」


「し、ししし、してないよ! けど、アルジェナ様って……師匠って本当にすごいんだね。ああ、三人で汗を流せるなんてボクは幸せだよぉ!」


俺に抱きつくとフランベルは泣き出しそうになった。


「誤解するな! というか、何をやるかはっきり言わないと、お前の妄想が止まらなくなるからな」


正門脇で定期運行の馬車を待ちながら、俺は続けた。


「これからお前には、ある相手と全力で戦ってもらう」


「相手って……アルジェナ様!?」


「いや、もっとヤバイのだ。そこで……蒼月を貸してくれ」


学園で使えるように、蒼月には制御用のリミッターを装着していた。その封印を解除する。


「わああああ! ダメだよ師匠! そんなことをしたら……」


「別に問題無いだろ」


リミッター付きで、高位魔族を真っ二つにしたこともある蒼月の、本当の力を解放させた。


一対一で禁書の情報体と戦うなら、今回は最初からフルパワーでいいだろう。


「持って魔法力を込めてみてくれ」


「けど……本当にいいの師匠?」


「お前がコツコツとしてきた努力の成果が、きっと出てるはずだ」


フランベルは蒼月の刀身を鞘に納めたまま、静かに魔法力を込めた。


「うっ……重たい……けど、なんとか行けそうだよ師匠」


「毎朝の基礎訓練の成果だな」


制御リングで威力を抑えていた分、フランベルへの負荷も軽くなっていた。


今までの彼女だったら、高負荷に耐えきれなかっただろう。


「ここまでして、いったい何と戦うの?」


「平たく言えば魔族みたいなものだな。まあ、自分を試すつもりで全力で挑戦してみてくれ。怖じ気づいたっていうなら、無理強いはしないけど……」


蒼月をベルトに提げ直して、フランベルは俺の手をとった。


「ボク、わくわくしてきたよ! 師匠のためなら死ぬ気でがんばるから!」


勘が良いというか、死ぬ危険があるってのを嗅覚で感じたのかもしれないな。


「基本的には一対一の試合形式だ。勝てないと思ったら退くことも勇気……だが、まずはやれるだけやってみてくれ」


ケツはしっかり俺が持つから。と、独りごちている間に、王都行きの馬車が到着した。



すでに城の衛士には通達があったらしく、フランベルと俺は城内に通された。


「お城に来るのは二回目だけど、迎賓館じゃなくて城内なんてうわあああ! ボク、感動してるよ!」


キョロキョロとフランベルは落ち着きがない。


「こっちだ。着いてきてくれ」


蔵書庫にフランベルを案内すると、円卓のそばに軽鎧に身を包んだアルジェナの姿があった。


腰に提げた魔法剣も特注品だ。


「……こんにちは」


フランベルと目が合うなり、アルジェナはちょこんとお辞儀をした。


「こ、ここここんにちは! アルジェナ姫様! う、うわあああ。ドキドキしちゃうよ」


第三王女フローディアの時はわりと大丈夫というか、他のメンツとの間を掛け持つような感じだったのに、フランベルは緊張しているみたいだ。


俺はアルジェナにフランベルを紹介した。


「一度、顔は合わせてるんだが改めて紹介するよ。彼女はフランベル。俺の教え子だ。理論魔法や精霊魔法は苦手なんだが、得意分野の近接戦はピカイチだ」


フランベルがアルジェナに頭を下げた。


「ほ、本日はご指導、ご鞭撻のほどよろしくおね、お願いします!」


声が裏返ってるぞ。まったく。


「……よろしく」


アルジェナが手を差し出した。それを両手で包むようにしてフランベルは上下に振る。


「よ、よよよよろしくお願いします! 足を引っ張らないようにがんばります!」


ちょっと心配だったが、臆したわけでもなく気合い十分か。フランベルに良い経験を積ませてやれそうだ。


「……これ。言われた通りに用意したから」


アルジェナが円卓を指さした。そこには王国魔法騎士団で正式採用されている、魔法剣が鞘に納められて置かれている。


その数、三本。俺は左右の腰に一本ずつと、背中に背負うように一本をベルトで固定した。


「師匠!? なんで三本も剣を?」


最悪、二人が戦闘不能に追い込まれても、一体につき一本あれば十分だろ。


「まあ念のためってやつだ。それじゃあ、行くとするか」


アルジェナが頷いて、俺とフランベルを蔵書庫の奥へと誘った。

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