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151.禁書1

ある休日の朝――


非番の日は一日自由にしていいのだが、普段より少し早く目が覚めて、朝から特にやることも見当たらず、なにげなく正門前の掃除をしていると……


運動着姿でランニング中のフランベルが通りかかった。彼女はトレーニングの間でも、腰のベルトに愛刀――蒼月を提げている。


彼女のために、一緒に鍛え上げた魔法武器だ。なにもランニングの時まで持ち歩かなくてもいいのに、よっぽど気に入ってるみたいだな。


「あっ! おはよう師匠!」


「今朝も精が出るな」


「今日は夜明け前から100㎞行ってきたよ!」


「あんまり無茶なトレーニングはするなよ」


通り過ぎるかと思いきや、フランベルは俺の前で立ち止まると、前屈みになって呼吸を整えだした。


「ハァ……ハァ……ねえ師匠。最近、ぼくはダメみたいなんだ」


「ダメって何がダメなんだ?」


顔をあげるとフランベルは悲しげな表情を浮かべている。


「いくら走っても走っても、全然強くなれてる気がしないんだ」


それを自覚できるなら、ちゃんと成長してるぞ。


実感は湧かないだろうけど……。


「魔法力で身体機能を強化して走るのは、基礎中の基礎のトレーニングだからな」


強い相手と戦って死線をくぐり抜ける修行法もあるのだが、フランベルが戦ってちょうど死にかけるような相手というのが、なかなか思いつかない。


獅子王やドラゴンを召喚するのも手だが、フローディアの時は特訓期間が短かったから、集中して詰め込んでしまったわけだし……うーむ、どうしたものか。


俺が相手をしてもいいんだが、どうしたって手加減しちまうだろうし……。


瞳を大きく見開いて、フランベルはじっと俺を見つめた。


「ねえ師匠! ぼくにもっとハードなトレーニングを架してよ!」


彼女の場合、得手不得手がハッキリしている。


現状で得意な系統は、魔法武器の扱いと身体能力強化のみ。


他の系統全てが弱点と言ってもいいかもしれない。


長所をさらに伸ばすにも、基礎が大事なのは変わらないんだが……さすがに気持ちの方が折れてきたか。


じっと見つめ続けてくる彼女の瞳が「早く強くなりたい!」と、雄弁に語っていた。


何か気分転換を兼ねたトレーニングを用意してやろう。


「わかった。少し考えさせてくれ」


フランベルは両手を万歳させた。


「わーい! 師匠と修行だ! 楽しみだなぁ……それじゃあ師匠! 約束だからね!」


子犬が跳ねるように、楽しげにフランベルは寮へと帰っていった。


走る背中を見送りつつ、どんな特訓がいいか考えるのだが……あまりコレというものが思い浮かばなかった。



朝の掃除を終えたところで、王城から使者がやってきた。


休日に来るのにも驚いたのだが、使者が用があったのは誰でも無い、この俺だ。


城の衛士は下馬すると、俺に一礼してから書状を差し出した。


「銀翼の騎士殿に招請状をお届けにまいりました」


「招請状って……王様からか?」


「いえ。第二王女アルジェナ様からです。詳しくは書状をご覧ください。これにて失礼いたします!」


再び一礼して、衛士は颯爽と馬に跨がると風のように去っていった。


受け取った書状の封筒には、赤い封蝋がしてある。紋章は王家のものだ。


しかし、アルジェナからとは意外だな。封を開けて、早速中身を確認した。


『突然のお手紙、驚いたことと思います。


先日は私たち三姉妹と父と、なによりもこの国に暮らす多くの人々を、忍び寄る影の魔の手から救ってくださって感謝の言葉もありません。


口べたな私は、対面すると緊張してしまい、きちんとお礼を言うことさえ満足にできません。


このような形で感謝の気持ちをしたためることを、どうかお許しください。


そして、ぶしつけながらもう一つ、ご相談したいことがあって筆を執りました。


詳しくは、私たちが出会ったあの場所でお話させていただければと思います。


本来なら私がうかがうべきなのですが、立場上そうもいかず申し訳ありません。


管理人のお仕事、お忙しいとは思いますが……その合間でかまいませんので、相談に乗っていただければ幸いです。


アルジェナより


追伸、


なお、この手紙は読み終わると同時に塵も残さず燃え上がるよう、魔法をかけてあります』


ボウウウ! と、俺の手の中で手紙と封筒が燃え上がった。


慌てて手放すと、ひらひらと落ちながら地面に着くまでに、手紙も封筒も灰燼と化した。


「熱ッ! 燃え方が容赦ないな! っていうか、塵が残ってるし」


無口というか、必要最低限のことしか喋らないアルジェナだけに、手紙での印象は意外というか別人のように思えた。


追伸に魔法を仕込むあたりは、三姉妹一の使い手らしいというべきかなんというか……。


あいつ、もしかしたらオーラムやフローディアよりもヤバイやつかも……いや、まさかな。


俺は先ほどまで“手紙だった”灰も掃いて集めた。


アルジェナはいつでもいいというけど、早いに越したことはないだろう。


すぐに登城の支度をしてこよう。



作業着でも格好がつかないので、正装というほどかしこまってもいないが、それなりに見映えのする服に着替えて、胸に翼の形の記章をつけた。



学園からの馬車に乗る。


いつも通り、王都の中央広場で貴族街方面行きの路線馬車に乗り継いで、城までやってきた。この道のりも慣れたものだ。


城に通っていたのが、つい先日のことのように思い出された。


衛兵たちとも顔見知りだ。記章を見せてから城門を抜けた。


城内に入ると、入り口付近に見覚えのあるメイドが立っていた。


以前“せき払い”で俺を蔵書庫に誘導してくれた女性だ。


「今日はアルジェナに呼ばれて来たんだ。今の時間は、どこにいるかわかるか? 都合が悪そうなら待たせてもらうけど」


「アルジェナ様でしたら、いつもの場所かと存じ上げます」


「ありがとう。助かったよ」


今日も彼女は読書中……いや、勉強中か。


大臣ネイビスの穴を埋めるべく、いそしんでいるに違い無い。


けど、俺に用件ってなんだろう? まあ、行けばわかるか。

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