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150-A.モフモフモフ4 ※AかBか直感でお選びください

草木も眠る夜半過ぎ。旧市街の一角にあるバラックに、俺は独り降り立った。


黒いマントに素顔を隠す鉄仮面。身体にぴたりと吸い付くような黒衣は、いかにも悪役チックな衣装が施されていた。


もちろん自前でこんなものは用意しない。


調達先に関しては“こういうことが大好きで投資をいとわない薬学科の主任教員の協力があった”とだけ言っておこう。


というか、いつか俺に着せるために用意しておいたとか……あいつはなんで生きてるんだ? バカなのか?


まあ、おかげで助かったといえなくもないが。


この衣装を仮面ジャスティスはいたく気に入り、今回の作戦の全面的なバックアップを申し出てくれた。


さてと……始めるか。


短距離の瞬間移動で小屋の中に出る。


酒盛りをしていた男たちの目が点になったところで、俺は告げた。


「不思議な尻尾の柄の白い狐モンスター……親子で引き取りにきたんだが準備はできてるか?」


突然ふってわいた俺に向けて、男たちがおのおの得物を抜くと切っ先を向けてくる。


「なんだてめぇ? どっから入ってきた?」


リーダー格らしき髭の山賊風が吠えた。


「使いの者だ。段取りが代わってな。もちろん親子セットで揃ってるんだろ?」


「いやその……実は子狐の方が……」


「親狐はいるんだな?」


「へ、へい!」


「先に渡してもらおうか」


「じゃあ約束の金と引き換えだ。そういう話だったろ!」


山賊風が声を荒げた。


「契約書を見せてみろ」


俺が聞くと山賊風は口元を緩ませる。


「契約書だぁ? 証拠が残るからそういうもんは作らねぇって話だったよな」


悪徳貴族か商人か。足が着かないように小細工をしていたらしい。


ともあれこいつらは見張り番をしているだけの末端だ。


雇用主の情報がすんなり手に入れば良かったんだが、当てが外れたか。


「魔法使いかもしらねぇが、飛んで火に入るなんとやらだぜ。やっちまえ!」


山賊風の号令一下。五人が一斉に斬りかかってきた。


こちらに詠唱時間を与えず殺しにかかるあたり、ただのゴロツキよりは場数を踏んでいるらしい。


「魔法なんかいるかよ」


同時に放たれた剣檄のすべてを見切ってかわすと、裏拳や掌打で男たちを気絶させていく。


あっという間に残り一人――


「な、なんだ! なんなんだよぉ! 俺ら貴族のぼんぼんに頼まれただけで、こんな目に遭わされるいわれはねぇ!」


命乞いでもするような声色の山賊風に俺は名乗った。


「我が名は……王都の夜に羽ばたく闇色の翼……ナイトファルコンだ」


「な、なんだそりゃ?」


言ってる俺もなんだそりゃという気分だが、クリス……もとい仮面ジャスティスによる捜査協力を得るための、これも交換条件の一つだった。


「ともかく眠ってろ。詳しい話はあとで検事部の連中が聞いてやるから」


山賊風の頸動脈に手刀をたたき込む。男は白目を剥いて気絶した。


すぐさま小屋の床に探査魔法を走らせる。


あった……地下通路への入り口だ。


床板を外して階段を降りていくと、暗く冷たい地下牢が並ぶ通路に出た。


キュンコの言っていた寒い場所のイメージとも一致するな。


いくつかある檻の中で――結界の張られた鉄格子の向こうに、白く美しいケモノの姿を確認した。


「よお。あんたがパパさんだな」


俺の声にケモノは顔をあげた。ゆっくりと身体を起こす。


キュンコと比べて四肢が二回りほど大きい。


尻尾は八本。その先端はキュンコと同じように、筆状になっていた。


「何者だ」


「おっ! 言葉が話せるのか」


「珍妙な姿だ」


「俺の格好は別にいいだろ。それより……お前の子供に救出を依頼されたものだ」


「そうか。無事だったか」


俺に向けられた厳しい眼差しが柔和なものへと変わる。


「ずいぶんあっさりと俺の言葉を信じるんだな」


「お前からは子の匂いを感じる。あれは心を許さねばふれ合わぬからな」


「じゃあさっそく出してやる……と、言いたいところなんだが、ここから出す前に一つだけ約束してほしい」


「なんだ?」


「上にあんたをさらった連中が気絶してるんだが、殺さないでほしいんだ」


「なぜだ?」


狐の眼差しが鋭くなった。


「あいつらには人間の世界の掟で罰を与える。それに殺されちまうと、連中の雇い主についての情報が聞けなくなる……なにより、霊獣としてあがめられるあんたには人を殺してほしくないんだ」


スッ……と殺気が霧散した。


「そうか……これはうかつな我の落ち度だ。それに我だけでなく子の命の恩人の願いであれば、無碍むげにはできん」


交渉成立だな。俺は親狐が閉じ込められている檻の封印を書き換えて無効化した。



無事、キュンコの本当のパパさまを救出して俺は学園に戻ってきた。


親子を連れてすぐに長距離転移魔法を使い、九重山の手前にある銀の平野へと跳ぶ。


雲一つ無い月夜の銀世界に俺たちは降り立った。


「ぱ、パパさま……」


ずっとキュンコは俺とパパさまの間で視線を行き来させていたが、故郷の山が見えた場所に出て、やっと気持ちが落ち着いたらしい。


「我が子よ。すまない。辛い目に遭わせた」


人の姿からケモノ娘に戻ると、キュンコは父親をそっと抱きしめた。


「しかし見違えたな」


「え、ええと……レオパパさまの血をもらったのです」


「そうか。山に戻ればじきにその血の力も薄れよう……だが、もしお前が望むなら……そしてレオが許してくれるのならば……人間の世界で生きることも……」


い、いきなり何を言い出すんだ。俺は全然きいてないぞ。


「パパさま……いいのですか?」


抱きしめていた親狐をキュンコはそっと解放した。


親狐がこちらに向き直る。


「どうだろうレオ。我が子と契ってはくれないか?」


「いやちょっと待ってくれ。契りってなんだよ」


「親子の契りだ」


親狐はじっと俺を見つめ続ける。まったく、親子そろって変な連中だ。


人間には推し量れないこの種族なりの礼儀があるのかもしれない。


命の恩人に子を託せ……みたいな。


相手の流儀を尊重したいところだが、せっかく無事に再会できた二人を引き離すのは気が引ける。


「子供の親権を奪うような趣味はないんでな。お断りだ。それにキュンコは人間の勉強が苦手みたいだしな」


キュンコがうつむいた。


「レオパパさま、キュンコのこと……」


「嫌いになったわけじゃないから心配するなって。短い間だったけど一緒にいられて楽しかったぜ」


キュンコが俺の方に向かってきた。


「レオパパさまだっこしてほしいのです!」


膝を折って視線の高さを合わせると、俺はキュンコを受け止める。


「レオパパさま、いっぱいいっぱいありがとうですから」


俺の頬にキュンコはそっと唇を触れさせた。


「お父さんが見てるぞ。まったく」


親狐は「友愛の証だ」と目を細める。


まあそういうことなら素直に受け取っておこう。


キュンコがそっと俺から離れる。


「さてと……それじゃあそろそろ俺は帰るよ」


キュンコはその場でくるんと前転宙返りをすると、その姿が元の子狐に戻った。


「キューン!」


親子並ぶと尻尾の本数以外はそっくりだ。


俺は長距離転移魔法を展開する。


親狐が俺に告げた。


「この恩はいつか返す。我が死しても我が子が……その子孫がいつか、お前に報いるだろう」


「キューン! キュン!」


その場でくるくると自分の尻尾を追いかけるようにキュンコが走り回った。


「別にそこまで恩に感じることないって」


親狐が溜息を吐いた。


「ああ……我が子が娘ならば嫁入りさせたものを」


「えっ!?」


耳を疑うような発言と同時に、展開させた長距離転移魔法が発動した。


「キューン!」


キュンコが俺にお尻を向けて二本の尻尾を振る。


「もしかしてキュンコ……お前ッ!?」


次の瞬間、俺の身体は光に溶けて銀の平野から忽然と消えた。


ふわっとした浮遊感が解けて目を開くと、俺は見慣れた管理人室に戻っていた。


そういえば……キュンコの種族は尻尾の数が奇数か偶数かで雌雄を見分ける……みたいなことが本に書かれていたような気がする。


親狐のパパさまは立派な尻尾を八本もっていた。


そこから導き出される結論は……。


「寝よう……」


頬に残ったくすぐったい感触に心臓が早鐘を打つ。


ああ。なんだかわからんけど……ともかく早く収まってくれ……。

次回も二週間後くらいに。

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