14.魔法武器入門
翌日、交流戦の日程と対戦クラスが発表された。
予想通りエミリアクラスは、ギリアムクラスとのマッチングだ。
あれだけ煽ってきたギリアムが、みすみす俺たちを見過ごすわけがない。
対戦クラスの決定について、なんらかの調整が入ったのだろうが、確たる証拠もなく学園に抗議をしたところでどうにもならない。
今さら悪い方に考えるよりも、前向きになろう。
春の交流戦はトーナメント形式や総当たり戦ではなく、一戦限り。
連戦を考慮しなくて良いのは、選手層が薄い俺たちにはありがたい。
そんな交流戦は四月末から五月初頭にかけて行われる。
訓練期間は二十日間ほどか。時間はそう多くない。
特訓にはエミリアにも付き添ってもらうことにした。
というかエミリアが特訓をして、俺が補佐するという“てい”にしないと、何かとまずいのだ。
発表のあった日の放課後から、さっそく俺はエミリアクラスのコーチについた。
まず、最初にすることは得物選びだ。
授業でやるよりも早く決めてしまおう。
俺はエミリアと代表三名を引き連れて、エステリオが誇る武器用具室に向かった。
武器の管理は魔法工学の教員がしているのだが、時々、頼まれて用具室の整理や清掃をするので、用具室の勝手は心得ている。
用具室に入ると、手入れをされた武器がずらっと並んで俺たちを出迎えた。
剣や槍、斧に弓、銃なんてものまで用意されている。
剣一つとっても、片手剣や両手剣。曲刀や短刀など種類は様々だった。
これらの武器は、平民が扱う武器とは根本的に違うものである。
すべて魔法の杖なのだ。
たとえば剣の場合「剣の心得のある生徒が剣技を生かすために、魔法の杖を剣の形に模したもの」といった感じになるだろう。
クリスの計算尺も魔法の杖の一種だが、魔法式の演算機能の拡張に特化した「形」が計算尺だった。
剣にせよ槍にせよ、その形状によって魔法力に指向性を与えることができる「形」。
それが魔法武器である。
道具としての形状を明確に与えることで、汎用性を失う代わりにその特性を伸ばし、より強力であったり、少ない魔法力の消費で魔法的な力を行使できるのだ。
例えば、剣であれば理論魔法で切断の式を構築しなくても、魔法力を込めて振るえば対象を「斬る」ことができる。
当然、平民が振るっても鈍器にしかならない。
魔法使いが手にして初めて、これらの武器はその性能を発揮できるのである。
さらに付け加えると、武器を手にして魔法力を込めるだけで身体能力が向上し、ダメージを軽減する「目に見えない鎧」のような魔法的効果が得られた。
戦闘実技Fクラスの魔法使いでも、魔法武器を装備していれば、良く訓練された平民の戦士を圧倒するのは簡単だ。
「あ、あたし……武器なんて使ったことないし。つうか危ないじゃん」
用具室に入った途端、プリシラの顔が青ざめた。うーん、女の子にはわからないのかなぁ。
このずらっと並んだ武器に興奮を覚えないなんて。
もったいない!
「私に武器は必要ないわ。使えないこともないけど、特技を生かすべきでしょ?」
クリスの言い分には一理ある。
彼女の長所を生かすなら余計なことはしない方がいい。
と、誰もが考えるだろう。
「そうは言うけど、扱いやすいショートソードくらいは持っておいてもいいんじゃないか?」
俺は軽くて取り回しの良さそうなショートソードを見繕った。
実は用具室にある武器には、品質にばらつきがある。
大半は学園が要求する性能を満たしているのだが、時々「当たり」が紛れ込んでいるのだ。
「ほら。これなんてぴったりだ。持ってみろって」
「か、勝手に決めないでよ!」
俺は鞘から抜いて刀身を確認する。
一見すると普通のショートソードだが、刃が付けられていないのも魔法武器の特徴だった。
刀身は鏡のように磨き上げられ、曇り一つ無い。
「気に入らないのか? 鞘も落ち着いた雰囲気の色だし、装飾だってシンプルでお前に似合うと思ったんだけどな」
クリスの頬が少しだけ赤らむ。
「え、ええと……レオがそういうなら、考えてあげないこともないわ」
鞘に納めたショートソードを手渡すと、クリスは抜き払って刀身をまじまじと見つめた。
「武器らしい武器って、野蛮で好きじゃないんだけど……この子の刀身は綺麗ね。いいわ。使ってあげる」
気に入ったようでなによりだ。
「ちょっとー! あたしにも選んでよ! クリスばっかりずるいし」
俺の右腕に抱きつくようにして、プリシラが密着してきた。
ちょっとくっつきすぎだろ。
その……俺の二の腕に当たってるんだが……胸が。
エミリアが慌てて声をあげる。
「ぷ、プリシラさん! レオさんが困ってますから」
「えー。困らせるようなことなんてしてないけどー?」
白々しく棒読みな口振りで、プリシラは小悪魔のように笑う。
「っていうかー。女の子の胸を触っておいて、これくらいで恥ずかしがるとか、レオってドーテーなんじゃない?」
瞬間――エミリアの顔が真っ赤になった。おいおい先生しっかりしてくれ。
クリスがショートソードを制服の腰のベルトに固定してから、首を傾げさせる。
「ドーテーというのはなにかしら?」
よりにもよってそこに食いつくのかよクリス!?




