13.目覚めしは、蒼き狼
「はーい! 質問!」
沈黙に包まれた観覧席から、妙にあっけらかんとした女子の声があがった。
「ええと、お前は……」
声の主を探すと、彼女は立ち上がり前に出て、観覧席から颯爽とステージ脇に降り立った。
青髪ポニーテールの昼寝少女だ。
彼女はアイスブルーの瞳をキラキラとさせていた。
「ぼくはフランベル・スワロウテイル。得意なのは戦闘実技。ほかは全滅のランクF! 人呼んで脳筋フランベルだよ」
びしっとVサインをしてみせる。って、自虐なのか? それとも気に入ってるのか脳筋って言葉!?
堂々と昼寝をしてた時から、妙な存在感を醸し出してた変な子だったけど、専攻が戦闘実技なら是非代表メンバーに加えたい。
それにしても、背が結構高い。男子の平均と変わらないんじゃないか?
合わせて手足も長かった。顔も小さくスタイルが良い。
ぱっと見た感じ、筋肉の付き方も強さとしなやかさを併せ持った、猫科の大型肉食獣的な感じがした。
「質問はなんだフランベル?」
「えーと、きみって平民なの?」
「あ、ああ……そうだけど」
「ふーん。平民が戦技を鍛えるとか、すっごく効率悪くない? なんで強くなったの? 魔法使いじゃないのに、強くなる意味ってあるの?」
矢継ぎ早にフランベルは質問を乱射してきた。
「そりゃあるだろ。この学校で管理人をする前、俺は一人旅をしてたんだ。旅先でトラブルに巻き込まれた時に、自分の身は自分で守らないといけないからな。まあ、旅をして、いろんな状況を経験したから、強くなれたとも言えるんだが」
例えば魔族四人を同時に相手にしたり、魔族が召喚したドラゴンと戦ったり。
そういう経験の積み重ねが、強さの秘訣だ。
「えー!? 一人旅って楽しいの? 友達いないの? ぼっちなの?」
「なんだお前は。俺の心をえぐりたいのか?」
「そんなことないよ。それより質問に答えてよ。ねえねえ、きみはぼっちなの?」
無邪気に聞いてくるフランベルに、俺の心は張り裂けそうだ。
「違うぞ! エミリア先生とも出会ったばかりだけど、まあ、その……し、知り合い的な関係だし。それに他の先生にも友達がいるし」
「じゃあじゃあ、なんで友達を誘わずに一人旅してたの? 自分探し?」
ぐああああああ! こいつマジでなんなんだ! 俺の急所を知ってるのか? 心を読む感情魔法が使われた兆候は無いが、油断ならないやつだ。
というか、俺とは人間的相性が最悪かもしれない。
「そ、そうそう。自分探し」
「見つかった? 自分らしさとか自分が何者なのかとか、わかったの?」
「お、おう! 自分ならきっちり見つけたぞ。おかげで友達が出来るようになったんだ」
「そっかー。よかったね。じゃあ、なんでクリスのおっぱい揉んだの?」
「うおおおおおい! 蒸し返すなよ!」
一瞬、フランベルの瞳が鷹の目のように鋭くなった。
「だってぼくには、あれはおっぱいを揉みにいったようには見えなかったんだ。ほんの少しの風にも飛ばされる羽毛をつまむくらいの優しさで、恐る恐る触れたように見えたんだよね。思いっきり殴ればクリスをぶっとばして、きみの勝ちじゃん!」
確信したようにフランベルは声を大にした。
クリスがしょんぼりとうつむく。
「なんでクリスをぶっとばさなかったの? ねえ、なんでなんで?」
「女の子を殴るのに抵抗があったんだよ! 悪いか!」
俺は正直に答えた。顔から火が出そうだ。
ふと見れば、クリスまで顔を赤くさせている。
俺に情けをかけられたとでも思ったんだろうか。
怒りと羞恥の二重奏だ。
観覧席ではプリシラが、腹を抱えて大爆笑していた。
あいつ……めちゃくちゃハードに特訓してやるからな。覚えておけよ!
そして、エミリアはというと、彼女は少し不安そうな顔だ。
こうして出てきてくれたとはいえ、フランベルが代表入りしてくれるかはわからない。
観覧席の他の生徒たちはざわついている。
この調子だと、他に前に出てくれる人間はいなさそうだ。
フランベルが手を上げた。
「じゃあじゃあ、ぼくのことは女の子とは思わないで、全力でぶっとばしてもいいからね!」
「いきなりお前は何を言い出すんだ? 俺を暴行犯にでもしたいのか?」
「違うよ。ぼくも代表に立候補するから、訓練の時は手を抜かないでって言ってるんだ」
「え? ほ、本当か!? 立候補してくれるのか!?」
マジでか!? これは嬉しいぞ!
「うん! レオが使う平民の技にも興味があるし。エミリア先生。ぼくを代表に加えてよ!」
まあ、ちょっと俺の心をポキポキ折りすぎなところはあるけど、なんであれやる気があって、戦闘実技を専攻してるなら心強い。
エミリアが「ほ、他に立候補したい人はいますか?」と、観覧席に問いかけた。
やりたい奴がやればいい。観覧席はそんな空気だ。
むしろ、三人決まってほっとしたという感じさえする。
「そ、それでは、交流戦のクラス代表はクリス・フェアチャイルドさん。プリシラ・ホーリーナイトさん。フランベル・スワロウテイルさんに。コーチはその……管理人のお仕事の合間でもかまいませんので、レオさんにお願いできればと思います」
エミリアがぺこりとお辞儀をする。
「おう! 任せてくれ!」
魔法史学の先生なら兵法には通じてるかもしれないけど、実戦的なトレーニング方法なんかは教えられないだろうしな。
頼ってくれてかまわないぜ。
それにしても……。
入試トップの理論魔法使いに、入試最下位の落ちこぼれ。
それに、謎のテンションと、意外な観察眼を光らせる自称脳筋……か。
「というわけで、さっそく明日の放課後から訓練を実施する。えーと、それから……ちょっと勇気を振り絞れなかった諸君の中で、もし訓練に参加したいものや、少しでも興味があるものがいれば申し出てくれ。訓練の見学だけでもかまわないぞ」
うーむ、みんな引っ込み思案なのか、平民の教えなんて眼中にないのか。
反応は皆無だった。
「見学に来てくれれば、ちょっとした良いこともあるぞ!」
だめだ。
お前に何ができるんだと、生徒たちの視線が訴えている。
あのこと……教えてやるべきか。
いや、言うまい。
大人の管理人さんも、こいつらの態度には少々ムカついたのだ。
とりあえず、今は立候補してくれた三人に全精力を傾けよう。
結果がともなえば、そのうち風向きも変わるはずだ。
■フランベル・スワロウテイル エステリオ一年 自称脳筋
召喚魔法言語学=F
理論魔法学=F
感情魔法学=F
精霊魔法学=F
魔法史学=F
回復魔法学=F
戦闘実技学=C
魔法芸術学=F
魔法工学=F
魔法薬学=F
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