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133.用意された解決

騎士たちの葬儀に参列した翌朝も、俺は普段通り学園の正門前で掃除をしていた。


事件からすでに三日が過ぎ、俺は今、途方も無く宙ぶらりんな状態にある。


登校する生徒たちの中に、クリスとプリシラとフランベルの姿を見つけた。


俺はそっと手をあげる。


「おはようプリシラ」


「レオっち、大丈夫?」


心配げなプリシラに俺はハイタッチを促した。


パンっと軽快な音が鳴る。続けてフランベルとクリスもハイタッチをしてくれた。


「おっはよう師匠! ちゃんと眠れてる?」


「おはようレオ。これからしばらくは学園にいるのよね?」


俺は頷いた。竜狩りが無期限延期になったことで、教員免許の今後もどうなるかという感じだ。


フローディアへの家庭教師も終了した。


ただ、この数日のごたごたもあって、騎士の称号を返上する機会を逸しったままである。


今や王都はそれどころではない。


クリスがじっと俺を見据えた。


「国務大臣ネイビス・メディケルスが逮捕されたわ。容疑を否認しているどころか、竜狩りは自分をおとしめる罠だと言っているみたい」


「そうか……あいつにとって俺の強さは誤算だったんだろうな」


クリスは頷くと経過の説明を続ける。


検事部の調べでネイビスが違法薬物の蔓延にも関係しているということが、明らかになりつつあるということだ。


エミリアがまとめた資料が逮捕に大いに貢献した。


竜狩りの失態でネイビスの影響力が弱まった瞬間、一気に斬り込み本丸を落としたのはクリスの父親で検事部長のロアである。


さすが四賢人というべきか、大失態が無ければ逮捕に至れないほど、国務大臣の力が強大だったというべきなのか。


今後の取り調べが苛烈を極めることだけは確かだろう。


クリスが真剣な面持ちのまま、桜色の唇を開く。


「ネイビスは竜狩りでアルジェナ様だけを助ける算段でいたみたいね。召喚魔法の暴走の責任は術者に背負わせて口封じし、自分は尽力したが救えたのはアルジェナ様だけだった……と、すれば体面も保てると考えていたみたい。その後は大人しいアルジェナ様を影から操り、オーラム様にメディケルス家から婿を出して……主治医どころか王国の寄生虫ね」


辛辣な言葉をサラリと告げるクリス。


一方で、プリシラとフランベルは話についてこられずに、目を白黒させていた。


「じゃあ、大臣が黒幕ってことで事件は幕引きなのか?」


クリスは白魚のような指で顎を軽く挟む。


「それに関しては疑問が残るのよ。そもそも、レオが倒した黒竜は召喚されたものでしょう? それを操っていたのは誰? ……ってことになるの」


「あの戦場に大臣の息の掛かった連中が潜んでいたのかもな」


「それも追々、調べていけば判明すると思うわ」


どこか釈然としないところもあるようだが、クリスはひとまず頷いた。


魔族のことを俺はあえて伏せている。


まだ黒竜を呼びだしたのが魔族と決まったわけではないので、軽はずみなことは言えない……というのが正確なところだ。


とはいえ、あの黒竜を呼び出すには相当な力を持つ魔族か、それなりの代償が必要だったには違い無い。


プリシラがいつの間にか俺の顔をのぞき込んでいた。


「ねえねえレオっち! 放課後暇なら、今日はレオっちを励ます会にしようよ!」


「は、励ますってお前なぁ。別に落ちこんだりしてないぞ」


フランベルがプリシラの案に乗っかった。


「ぼくも賛成だよ師匠! 師匠の教員免許の試験は捕まった大臣が仕切ってたんだよね? 免許を発行してくれる人がいないんじゃ、お手上げだよ!」


そうハッキリ言ってくれるなフランベル。


「ま、まだ俺は教員免許を諦めてないからな! 残念会だの励ます会だのは絶対にさせん。祝勝会なら喜んで参加するから。百人規模の晩餐会の準備を覚悟してもらうぜ。ほらほら、三人とも行った行った! 今日も授業に励めよ生徒諸君!」


三人を送り出して俺は心の中で溜息を吐く。


やはり、大臣が捕まったくらいでは何も終わった気がしない。


竜狩りの日以来、沈黙を続けるフォルネウス・スレイマンの存在も不気味だった。



午前中の庶務をこなしているうちに、ふと仮面ジャスティスのことが思い浮かんだ。


竜狩りの前夜、城の塔の上……高所の窓の外に姿を現した白い影も、結局何者なのかわからずじまいだ。


無難に仕事を片付けると、昼食をクリスたちと屋上で食べて、俺は薬学科の依頼で午後一番にマーガレットの元を訪れた。


エミリアといつものテラスで合流する。彼女にも心配されたが、俺は努めて普段通りを演じ続けた。


「おまたせーレオ君エミリア先生! 今日は依頼っていうよりかは、成果の発表よ! 協力してくれた二人に一番に見せたかったの」


白衣の裾を翻し、薬学科の研究棟から姿を現すなり、マーガレットは声高に宣言した。


テーブルの天板に小瓶を置く。


瓶に詰められた液体は、光の差す加減によって色を変える、まるで虹を液化したような不思議な色合いをしていた。


どうやら完成にこぎ着けたみたいだな。


「じゃじゃーん! レオ君もお待ちかねの“英雄の秘薬”βテスターよ」


「なんだその不穏な名称は」


「しょうがないじゃない! 手に入らない希少な素材が、世界中にいくつあると思ってるの? この子は今、王都と薬学科の栽培施設で手に入る、精一杯最高の素材で生まれたものなんだから」


再び小瓶を手に取ると、うっとりした表情でマーガレットは頬ずりまでしてみせた。


「さすがにレオ君も飲んだら死ぬから、治験は無理ね。今後はこの純度を保ったまま、結晶化に挑戦する予定よ。というわけで二人には、いくらお礼を言っても足りないから、あたしの魔法薬学技術に頼ってちょうだい。今ならなんでも調合してあげるわ!」


するとエミリア先生は席を立って、マーガレットに耳打ちした。


「もにょもにょ……で……もにょもにょな……できますか?」


マーガレットは力強く頷いた。


「ええ! 任せてちょうだい。ギュッと抱きしメールDXね!」


瞬間、エミリアの顔が真っ赤になった。


おいおい、エミリアの耳打ちの意味がないだろ。


「あ、あばばばばばば」


感情魔法を受けたわけでもないのに、すっかりエミリアは錯乱モードになってしまった。


「レオ君は、このあたしに何を望んじゃうのかしら? エッチなのはいけないわよ」


ウインクする男性教員に俺は小瓶を指さした。


「前に記念でくれるって言ってたよな? 差し支え無ければそいつをもらおう。大丈夫だ。毒だってのはわかってるし、悪用もしないから」


マーガレットは小瓶にキスをすると、そっと俺に手渡した。


「本来なら王様に頼まれてもお断りするところだけど、レオ君だから特別に進呈するわ。あたしだと思ってずっと大切にしてちょうだいね」


小瓶を受け取ると、俺は中の薬液を太陽に透かしてみる。


七色の魔法薬は宝石のように、光を乱反射してキラキラと美しかった。



大臣ネイビス・メディケルスが死体となって発見されたのは、この翌日のことだった。

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