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11.「対・理論魔法」理論

試合開始の合図と同時に、俺は神速の踏み込みでクリスの懐に入るなり、箒で胴を薙ぐように一閃した。


理論魔法の弱点は発動までの時間だ。


理論魔法潰しの最も有効な手段。

それは「使わせない」ことに尽きる。


戦闘実技を専攻する生徒なら、理論魔法使い相手には、必ずこの手を使ってくるだろう。


俺の一撃で吹き飛んだクリスだが、その身体が空中でゆっくりとスローモーションがかった。


慣性制御か。


攻撃を受けながら魔法式を構築、発動させるなんて、入試トップは伊達じゃない。


着地と同時に、クリスは身構え直した。相対距離は二十メートルほどだ。


これ以上離れれば理論魔法に有利。

距離が縮まれば、間合いは戦闘実技に有利に働くだろう。


「っと……驚いたわ。平民の中には魔法の力を借りずに、肉体の鍛錬のみで魔法使い並みに戦闘実技を高める人間がいるらしいけど、貴方がそうだったなんて」


「そういう連中もいるみたいだな」


計算尺を回しつつ、クリスの視線は俺を捉え続けた。

会話をしながら時間を稼いでいる間に、もう魔法式の構築か。


しかも同時に三つも展開するなんて、魔族かよ。


一つは明らかに防御用だ。クリスを囲むように左右と後方に展開する斥力場だった。


もう一つをクリスは自身の目の前の地面に配置。最後の一つはその上空だ。


俺が突っ込んできたら、正面に設置したトラップで浮かせて、空中に展開中の魔法式で場外にぶっ飛ばすっていう算段だろう。


左右や後方への回り込みには、斥力場で対応する……か。


観覧席の何人が、クリスの魔法を認識できているんだか……。


高度な理論魔法になるほど、並の魔法使いには、それを見ることさえできなくなる。


意味がわからなければ、存在を認識できないってことだ。


斥力場の魔法式はランクC。

正面と上空の魔法式はランクBってとこだろうな。


俺は地面を蹴った。

そして、勢いをつけて箒を投擲する。

手投げ槍のように放たれた箒は、クリスの鼻先に触れる直前でぴたりと静止した。


そのまま箒は重力を反転させたように、空中めがけて“落下”する。

重力反転の魔法式だ。


その落下の頂点で、力の向きを変更する魔法式が発動し、箒はステージ場外に飛ばされ、砂の地面に突き刺さった。


「嘘でしょ……まさか、トラップがあると読んでたの?」


こらこら、驚くふりをして、正面に斥力場の魔法式を構築するなよクリス。


俺は魔法式が完成する前に彼女の眼前に飛び込むと、掌で胸を押すようにした。


ふにょん


と、柔らかい感触が掌に残る。


「きゃああああああああああああああああああああ!」


あっ! やばい。軽い掌打のつもりだったんだが、久しぶりすぎて手加減しすぎた。


しかし……。

片手に収まるくらいの大きさで、なんともさわり心地の良い感触だ。


クリスがバックステップで距離を取ると、計算尺を回転させながら俺を睨みつけた。


「よくも……だ、誰にも触られたことないのに……しかも、みんなが見てる前で……恥ずかしすぎるじゃない!」


「わ、悪い! 今のは事故なんだ!」


「問答無用よ!」


あっ……やばい。

クリスの構築する魔法式には見覚えがあった。


あれは「消滅」系。ランクAの魔法式だ。


いや、おかしいだろ。ちょっと胸に触れたくらいでその魔法を使うなんて!

このままじゃ殺される。

魔法式に干渉する時間が……ッ!?


瞬間、俺の足下から「ふっ」と、あるべきものが消えた。


突然の浮遊感に、俺は崩れ落ちる。まるで下半身が無くなったみたいだった。

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