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113.ララのお願い

宝剣を鞘にしまうと、晴れ晴れとした表情でフローディアは俺に言う。


「ふう! いい汗を掻いたのう。そうじゃレオ先生。一緒にその……ゆ、湯浴みをせぬか? 王宮自慢の風呂があるのじゃ」


「俺は別に汗は掻いてないぞ?」


ぷくっとフローディアはほっぺたを膨らませる。


「とても広くて大きくて、泳げるくらいなのじゃぞ!」


「宿直室のシャワーで十分だ」


そんなことより腹が減ってきた。


「……むうう、そうか。本日は大儀であった! また明日もご教授たのむぞレオ先生!」


「ああ。あんまり長湯してのぼせるなよ」


俺の言葉に「わかっておる!」と返事をすると、ステージを降りてフローディアは城内に姿を消した。


その背中が消えるまで見送って、俺も反対側からステージを降りる。


すると、城に入ってすぐのところで銀髪の少女と出くわした。


彼女は分厚い辞書のような本を両腕で抱えて、どことなくぼんやりとした視線を俺に向けてくる。


「今日はもう司書の仕事は終わりなのか?」


「……?」


不思議そうに司書は首を傾げてから、小さな口をそっと開いた。


「……今日はこない?」


相変わらず、注意してないと聞き取れないくらいの小さな声だ。


透き通っていてか細い。冬の湖面に張る薄氷のようだった。


静けさに包まれた蔵書庫ならそれほど不便もないんだが、こっちが聞き耳を立てないといけなさそうだ。


「今日は特に調べることもないからな。また、何かあったら調べ物を手伝ってくれると助かる」


少女はコクリと頷いた。


「……うん」


きびすを返すと、少女は軽い足取りで廊下の向こうへと消えてしまった。


「そっちは出口じゃないだろ?」


銀髪を揺らして遠のく彼女に、自然と言葉が漏れる。


もしかしたら住み込みか、正門でなく裏門のような勝手口からでも出入りしているのかもしれないな。


俺は堂々と正門方面に向けて歩みを進めた。


が、自然と引き寄せられるように、今日も気付けば匂いに釣られて、ララの料理研究部屋の前にたどり着いてしまった。


ドアをノックして声をかける。


「ララ……いるか?」


すると、ドアを一枚挟んだ向こうから、駆け足と呼吸音が一目散にこちらに向かってきた。


ドアが開いて金髪の少女が姿を現す。


「お待ちしてました! よかった。来てくださったんですね」


エプロン姿のララは廊下に躍り出た。頬が紅潮して呼吸も荒い。


「ハァ……ハァ……ふぅ」


深呼吸をするように息を整える度、ララのエプロンからこぼれ落ちそうな大きな胸が、ゆっさたゆんと揺れる。


俺は思わず明後日の方向を向いてしまった。


「あの、どうかなさいましたかレオさま?」


「今日も美味しそうな匂いがしたんで、つい……」


ララは優しく笑うと「食いしん坊さんは大歓迎です」と、俺の手を取って部屋の中に招き入れてくれた。



料理が仕上がるまで、俺もテーブルのセッティングを手伝った。


その間にララは手際よく料理を皿にもりつけていく。


エプロン姿の彼女の背中から、なんとも言えない母性的なものがにじみ出ていた。


って、年下のララに俺はなにを感じているんだ。


そうこうしているうちに料理も出来上がり、俺とララはそろって食卓を囲んだ。


今日のメインディッシュは鶏モモ肉のグリルマスタードソースがけだ。


パリッと香ばしい皮と、肉汁をしっかり閉じ込めて焼き上げられた絶妙な仕上がりに、口の中が幸せで満たされる。


ソースの酸味と控えめな辛さがまた、ぴったりとマッチしていた。


「うんまああああああぃ! すごく美味いよララさん! ごめんな。美味いけど、どう美味しいのかきちんと言葉にして伝えられなくて」


「とんでもないです。レオさまの幸せそうな顔が見られただけで、わたしも幸せですから」


恥ずかしそうに彼女は微笑む。その笑みまでも癒やしの天使のようだ。


「こんなに美味しいものをごちそうになりっぱなしっていうのも、気が引けるな。本当になんでも言ってくれよ! ララさんのお願いなら、全力で承るぜ」


ララはうつむくと、伏し目がちになって俺を見つめた。


「あ、あの……それでは一つだけ……」


恥ずかしそうに頬を赤らめるララに、俺は胸を張った。


「ドラゴンの肝でも、巨大蜘蛛の目玉でも、大陸渡りウミツバメの巣だったとってくるぜ!」


幻の素材や食材ならいくつでも当てがある。


「ドラゴンだなんて!? そんな危険なお願いしません!」


少し怒ったような口振りでララは言う。


「俺はちょっとくらいキツイ仕事でもいいんだけどな」


ララは困り顔で告げた。


「お、お願いというのは……あの……わたしのことを……ララとお呼びください」


「え? そんなことでいいのか」


「はい! ぜひ、そのようにお呼びくださいレオさま」


耳の先まで真っ赤になりながらララは瞳を潤ませた。


「じゃあ俺の事もレオでいいよ」


「そ、それは困ります」


美しく整ったしっとり艶のある金髪をフルフルとふるって、ララは焦り出す。


「困るって……普通に呼んでくれればいいのに」


「れ、レオさまと呼ばせてください」


「まあ、そこまで言うならララさん……じゃないな。ララの好きなように呼んでくれよ」


うんと頷いてから、ララは微笑んだ。


「はい。レオさま」


好きに呼んでくれと言った手前、これ以上何か言うのもやぼというものだ。


今日から彼女をララと呼ぶことにした。



それから今日の出来事についてや、フローディアの成長のことを俺はララに話して聞かせた。


彼女は俺の話を聞くばかりで、あまり自分の事は話さない。


「ララはどういう経緯で料理研究家になったんだ?」


「え、ええと……お料理が好きで……他に得意なことがないんです。魔法も全然だめで……」


「じゃあ魔法使いの家系なんだな。苦手があるなら教えるし、得意分野を伸ばしたければ相談にのるぜ?」


何気なく俺が聞くとララは早口でまくしたてた。


「ええとあのその、本当に才能がなくて普通の人と同じなんです」


希に魔法使いの家系に生まれながら、魔法が使えない人間がいたりもする。


ララには魔法の話題はよくなかったか。地雷を踏んだようだ。


困っているようだし話題を変えよう。


「そ、そうだ! 家族は王都にいるのか?」


「あ、あの、離れて暮らしています。わたしだけ出稼ぎです」


「そうなのか。寂しくないか?」


「は、はい! じゃなくて、ええと寂しいときもありますが……あうぅ」


ララは複雑な家庭環境に育ったみたいだ。


家族についてもあまり聞かない方がいいかもしれない。


さっきから俺の質問はどれも失敗続きだな。


食後の紅茶が昨日よりも、少しだけ苦く感じられた。

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