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112.特訓開始!

何事も無く馬車は門を抜け王城内にたどり着いた。


先日世話になったメイドが「王都から学園に続く脇道の先で、火事があったと伺いましたが……」と心配げに俺に聞いてきたくらいで、他に変わった様子はない。


ルートを変えて遅くなったという旨を伝えつつ、襲撃のことを伏せて俺はフローディアとともに闘技場に向かった。


ステージに上がってフローディアが笑う。


「今日から本番じゃな? 先日は油断したが今日こそレオから一本奪ってみせるぞ」


意気込むフローディアに俺は微笑み返す。


「俺に勝とうなんて百年早いぜ」


「む、むぅ。そうハッキリ言われると少し凹むのう。レオの力は先ほどの逃走劇でもしかと見せてもらった。あの燃えさかる炎の森を無事に抜けられたのも、レオの力が本物なればこそじゃ」


「ずいぶん俺を褒めてくれるんだな」


フローディアはちょこんと小さくうなずいた。


「わらわの力では脱することのできない窮地を、レオは軽々と乗り越えたのじゃ。優秀な先生に師事できるのは幸せなことじゃ。か、かっこよかったぞ! 必ず守ると言われた時に、わ、わらわは柄にも無くドキドキしてしまったし……」


「可愛い生徒を守るのは当然のことだろ? それじゃあ始めようか」


「わ、わかったのじゃレオ先生!」


いきなり名前で呼び出したかと思えば、今度は先生か。


少しむずがゆい気もするが、それだけフローディアの信頼が厚くなったのかもしれない。


「では、今日からフローディア向けの短期集中トレーニングを開始する」


そう告げると俺は召喚魔法言語を奏でた。


「なんじゃ? いきなり……そ、それは召喚魔法か?」


頷きながら魔法を完成させると、ステージ中程に召喚の魔法陣が発生した。


そこからせり上がるように、体長五メートルほどのドラゴンが姿を現す。


「ひいっ! ど、どどどドラゴンではないか!? レオ先生は理論魔法使いであろうに!?」


「理論魔法使いが召喚魔法を使っちゃいけないなんてルールはないだろ」


「そ、それはそうじゃが……」


及び腰で半歩下がるフローディア。


初めてドラゴンと対峙すればこうなるのも仕方ない。


俺が呼びだしたのはまだ成竜にもなっていない、若い幼竜だった。


ランクD程度の戦闘力で、飛行能力も未発達。気をつけるべきは尻尾と火炎ブレスくらいだ。


「こいつは幻体だから、遠慮無く全力で倒しにいっていいぞ! 炎のブレスと尻尾の攻撃には気をつけるように!」


「わ、わかったのじゃ! やってみせようぞ!」


フローディアが宝剣を抜いたのを確認したところで、俺も幼竜に指示して迎撃主体の行動を取らせる。


少女は直線的な動きで、まっすぐ幼竜めがけて跳びかかっていった。


「正面から不用意につっこむとブレスが来るぞ!」


幼竜が炎を吐き、王女の身体を焼いた。


「――ッ!?」


寸前の所で俺は理論魔法を発動させる。


幼竜の吐いた火炎はフローディアの前髪を軽く焦がし、その軌道を上空へと偏向された。


「た、助かったのじゃ」


「助かったんじゃなくて、理論魔法で俺が軌道をずらしたんだ。これからはむやみやたらにまっすぐ突っ込むんじゃなく、お前のスピードを活かして左右に揺さぶりをかけてみろ」


「わ、わわわ、わかったぞ!」


ウサギのように俊敏にステージを駆け回り、幼竜の脇に迂回するフローディア。


「横方向の動きに対して尻尾のなぎ払いがくるぞ!」


ビュンッと空気を切り裂いてドラゴンの尻尾がフローディアの身体をなぎ払う。


俺はその衝撃を理論魔法で減算させた。


「くあああああッ!?」


尻尾の一撃を食らいステージを転がって、這いずるような格好になったフローディアが顔を上げた。


「おや、思ったほど痛くないのぅ」


「衝撃をこっちで減算したんだ」


「むむむ……レオ先生のおかげというわけか。これは、いかに世話にならずに戦うかということじゃな!」


そういうことだから、頼むぜフローディア。


幼竜が前足の爪で少女をひっかくようにする。それを宝剣で弾き返すと、フローディアは反撃に出た。


「喰らえ火竜ほ……」


俺はフローディアの身体を斥力場で吹き飛ばす。


「にょああああああああ! 何をするのじゃ先生!」


「目の前で悠長に棒立ちしてたら、頭からがぶりと噛みつかれるぞ」


ドラゴンはガキンガキンと牙をかみ合わせるようにして、フローディアを威嚇した。


「むむぅ。今のでわらわは三回死んでおるな」


ステージの奥に吹き飛ばされながら、深刻な顔つきでフローディアは幼竜を睨みつけた。



それから俺はフローディアに、細かく攻撃タイミングや防御に回避の指示を出しつつ、戦闘を管制を行った。


宝剣による斬撃も竜の鱗に弾かれる。フローディアお得意の雨のような連続突きは、一撃の軽さから幼竜には一切通じなかった。


ランクDとはいえ、竜は竜らしくその強さを遺憾なく発揮した。


「ハァ……ハァ……攻撃がここまで通じぬとは思わなかったぞ」


息の上がり始めたフローディアに俺は聞く。


「もう降参か?」


「まだまだいけるぞ! わらわなりに攻略法を見つけたのじゃ!」


フローディアは再び幼竜に対峙すると、馬鹿正直に正面から突っ込んでいった。


それに合わせて、俺は幼竜のブレスの偏向用に魔法式を構築する。


「てやあああああああああああああああああああ!」


気合いの声とともに宝剣を突きの構えにして、少女は竜めがけ跳ぶ。


迎撃の火炎ブレスが彼女に吐きつけられた……が、寸前のところでフローディアは切り返すように地面を蹴り、真横に避けた。


攻撃を読む見事な予測と判断だ。


だが、そんなフローディアの攻める手を見越していたように、すかさず幼竜の尻尾が少女の身体をなぎ払う。


しかし、これも読み切ってフローディアはかわすと、もう一度幼竜の前面に躍り出た。


炎を吐ききって空いた口を閉じようとする竜……その口内に宝剣の先端を射し込み、少女は覇気のこもった声をあげる。


「くうううらああああえええええッ!! 火竜砲!」


渦巻く炎が幼竜の体内を暴れるように焼き尽くした。


声さえあげることもできず、全身から煙りを吹きながら幼竜の身体がドサリと倒れる。


幻体が消えるのを確認して俺も召喚の魔法陣をとじた。


「ハァ……ハァ……ど、どうじゃ!」


肩で息をしながらドヤ顔のまま胸を張るフローディアに、俺は笑顔で返す。


「序盤は苦戦したが、最終的には満点だ。よくがんばったな」


すると、みるまにフローディアの顔が赤らんだ。その場でプルプル震えながら身もだえる。


「う、うううう! くっはあああああああ! なんじゃなんじゃこれは! すごく気持ち良いではないか!」


「ど、どうしたんだ急に?」


涙混じりの顔でフローディアは俺に向かって駆け込むと、大事な宝剣も投げ捨てて、ジャンプしながらぎゅっと抱きついてきた。


「褒められるとこんなに気持ちが良いのじゃな! わらわは嬉しいぞ!」


「あ、ああ……そうか……褒められ慣れてないんだな」


「わらわは生まれて初めて満点評価をもらったぞ!」


「そうか。ええと……今回良かったところは、幼竜のブレスをわざと誘って一度撃たせたこと。幼竜は連続でブレスは撃てないからな。それから尻尾の攻撃にもきちんと注意ができたこと。寸前まで引きつけてからの、実に良い回避だった。そして竜の鱗に攻撃が弾かれると判断して、内部から攻撃する方法を思いついたこと。この三点だな。最後のは俺も良く使う手だ。教えてないのに自分で気付いたところが満点の決め手だな」


フローディアが目をまん丸くさせながら「おお! おおお!」と無邪気に喜びの声を上げる。


「こ、これでわらわは竜狩りで勝てるのか!?」


俺はにっこり微笑んだ。


「明日は別のドラゴンを用意するから、傷を癒やしてしっかり準備をしておくように」


「な、なんじゃとーッ!?」


「今日は王都への帰り道のトラブルもあったし、少し早いがこれくらいにしておこう」


フローディアはゆっくり息を吐いてから続けた。


「むう……レオ先生は厳しいのう。しかし! 嬉しさのあまり、休む気にはなれん! もう少し素振りをするのじゃ!」


それくらいならクールダウンの運動にちょうどいいか。


「わかった。それじゃあ剣の型をみてやるから、少し振るってみてくれ」



結局――クールダウンのはずが、それから二時間ほどみっちりと、俺はフローディアの剣の振るい方について細かくアドバイスすることになってしまった。


やる気があるのは素晴らしいことだし、実際、剣さばきも少しだけ洗練できたので良かったのだが……。


そのやる気の一部だけでも理論魔法の理解に注いでもらえないものだろうか。


とはいえ、無理強いすれば嫌がりそうだし……今は彼女の長所を伸ばしつつ、その対応力を鍛えていくことにしよう。

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