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110.続・ランチミーティング

昼食時になったのは良いのだが、困ったことに購買部には大行列ができていた。


前を通りかかるのもためらわれる状態だ。


「なんじゃあの人混みは」


スカートも乾いてすっかり元の服装に戻ったフローディアが、遠目に人だかりを見つめて呟く。


「困ったな。昼は学園で食べていくつもりだったんだが……」


「臣民にパンも行き渡らぬとは、由々しき事態じゃ」


「ちょっと前までは、もう少し買いやすかったんだけどな」


そもそも王女であるフローディアに総菜パンを食べさせるのも、どうなんだろう。


迷っていると後ろから聞き覚えのある声がした。


「あの様子だと購買は無理そうね」


振り返るとクリスがプリシラとフランベルを連れて立っている。


「午前中の授業お疲れ。三人もこれから昼飯か?」


プリシラがうんと頷いた。


「そうだよ! えっと、お姫様もいるし今日はカフェテリアにしない? っていうか、誘いに来たんだけど……」


どことなくプリシラはばつが悪そうだ。


フランベルが困ったように眉尻を落としながら笑う。


「レオ師匠にあやかりたい生徒が購買部に集中してて、最近はカフェテリアの方が空いてるみたいなんだよね」


それは盲点だったな。


フローディアが首を傾げた。


「なんじゃ……その、かふぇてりあとは?」


見上げるように上目遣いになるフローディアに、俺は返答した。


「学園の生徒が利用する食堂みたいなもんだ」


頷くとフローディアは前を向く。視線の先にはプリシラの顔があった。


「ふむ。興味があるぞ。案内せいプリシラ」


「え、あっ……えっと」


しどろもどろになるプリシラにフローディアは真面目な顔で告げた。


「わらわへの罪悪感があるなら、案内して帳消しにするのじゃ」


「う、うん! じゃあこれでチャラだかんね。ついてきて!」


元気を取り戻したプリシラに、フローディアは満足そうに「チャラであるぞ」と、笑った。


フローディアの「堅苦しいのが苦手」という口癖は、自分が抑圧されることを嫌うだけじゃなく、相手にプレッシャーを与えたくないっていう気持ちの表れだろう。


そういう気持ちを持っていても、つい抑圧的な言い方や態度になりがちなところはあるけれど、こうして様々な人間とふれ合う機会が増えれば自然とバランスが取れるようになるかもしれない。


「なにをボーッとしておる。行くぞ専属家庭教師!」


諸々決まったところで、俺たちは場所をカフェテリアに移すのだった。



空いたといっても十分にお昼時のカフェテリアは賑わっていた。


集まる視線と生徒たちのざわめきに「フローディア王女殿下」という単語がちらほら混ざっている。


知っている人間は知っているらしく、窓際の角の席に俺たちが陣取ると、その周囲の席が自然と空席になった。


その空席を挟んで囲むように生徒たちがこちらに注目している。


居づらいって! 俺たちの周囲だけがらんとしていて、溶け込むどころか隔離されてるみたいだ。


「ふむ、料理の味付けはなかかなか良いのう」


気にせずフローディアは美しい姿勢と振る舞いで、食事を続けた。


本日のAランチはチキンピカタのトマトソースとサラダにプリンという、カフェテリアでも人気のあるメニューになる。


念のため、調理風景や盛りつけの様子はつぶさに確認し、料理に触れた人間が奇妙な行動をしていないかもチェック済みだ。


加えて彼女が食べる前にこっそりと、魔法的な細工がされていないかも調べたのだが……どうやら杞憂に終わったらしい。


「ふむ。このプリンも悪くない。しかし解せぬのは、生徒たちがなぜパンに群がりカフェテリアを利用しないのかということじゃ。料理の価格が高いのか?」


「まあパンよりは……な」


俺がフローディアとそんな話をしている間も、プリシラはどことなく落ち着かない様子だった。


「これってさ……めっちゃうちら浮いてるよね?」


周囲を見渡してきょろきょろするプリシラとは対照的に、フランベルは気にせずパンをかじる。


「んー! おいしい! 別に気にすることないって。みんなちょっとびっくりしてるだけだよ。ぼくなんか、フローディア様と一緒に食事ができてうれしいし」


驚いたのも最初だけという雰囲気だな。マイペースなフランベルらしいと言えばらしかった。


「なんでフラっちそんなに普通でいられるわけ?」


「気付いたんだ。ぼくの世界では、師匠が一人頂点にいて、他の人間はぼくも含めてみんな平等だからね。フローディア様もそこはいっしょかな。だからたとえ王女様を前にしていても、ぼくはいつものぼくを崩さなくていいと思ったってわけさ」


考え方は人それぞれだが、俺を頂点にすえるのはいかがなものか。


そのままフランベルは視線をフローディアに向けて、目を細めつつ首を傾げた。


「フローディア様も大きくなったら学園で学ぶの?」


「失礼な! わらわは十五じゃぞ! お主らとそうかわらん」


「なーんだ、いっこ下か。もっとちっちゃいのかと思った。じゃあ来年入試かな?」


クリスとプリシラがどん引いているのも気にも留めず、フランベルは質問を続けた。


王女の懐が深いというべきか、フランベルが物怖じしなさすぎるというべきか。


まあ、俺も怖い物知らずっぷりではフランベルと同類だから、彼女に言えた口でもない。


フローディアは不機嫌そうに口を尖らせた。


「入学などするわけなかろう。王族がいてはみな、このように気が気でないようだしな。わらわには家庭教師で十分じゃ」


「けど、それじゃあ友達もできないし、寂しいんじゃ無いかな?」


一瞬、フローディアの瞳の奥が揺らいだ。


「そ、そんなものいらぬ」


まるで妹でも見るような優しい眼差しでフランベルは微笑む。


「強がっちゃって。来年入学したら、ぼくらが先輩だからいっぱい頼って、甘えてくれていいからね! その頃にはレオ師匠も教員になってると思うし、きっと楽しいよ」


王女が顔を赤く染めると、困ったように眉尻を下げる。


「へ、変なやつじゃのぅ。いかぬといったらいかぬ。無用な気遣いはするでない」


俺もクリスもプリシラも、なんと声を掛けていいのか悩んでしまった。


会話が途切れて奇妙で微妙な空気だ。


こらえきれずクリスが声をあげた。


「フローディア様、レオがなにか失礼なことをしていませんか?」


「おいおい、そんな言い方はないだろ?」


俺に追い打ちをかけるように、フローディアは確信をもった表情で「うん」としっかり頷く。


「それはもう出会った時からずっとじゃ。本当に失礼なやつじゃな。昨日などわらわに決闘を申し込んできたので、その……か、返り討ちにしてやったわ!」


フローディアの言葉にクリスは目を細めて俺に向き直った。


「私の時といっしょね」


いや、そんな風に言われて俺はどう応えたらいいんだよ。


そうだ! 話を変えつつ思い切って提案しよう。


「え、ええと……実はクリスに頼みたいことがあったんだ。俺の方式で理論魔法を教えると、ちょっとまずいらしくてな。せっかくだからクリスも王城に一緒に来てくれないか? 家庭教師の助手ってことで」


「え、えええ!?」


今度はクリスが目を白黒とさせる。


実際、フローディアに理論魔法を習得とまではいかなくとも、理解させるならその方が捗るだろう。


クリスの式は美しくて淀みない。公式から逸脱もせず、かといって無駄のないお手本にするにはぴったりのものだ。


すかさずプリシラとフランベルが挙手をした。


「じゃああたし召喚魔法の助手やる!」


「ぼくは戦闘実技の助手を受け持つよ師匠!」


フローディアがムッとした顔になる。


「わらわには理論魔法などいらぬ。召喚も不要じゃ。戦闘実技も間に合っておる! 余計なことはするでない! お、お節介は家庭教師のこやつ一人で十分じゃ!」


それきりフローディアはすっかり機嫌を損ねてしまうのだった。

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