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99.ランチミーティング

普段は解放されていないということもあって、屋上にやってくる生徒は他にいなかった。


俺たちの貸し切りだ。フェンス際の段差を椅子代わりにして、一列に並んでパンを食べた。


「レオっちあーんして! 食べさせてあげるし」


「師匠のお世話は弟子の仕事だよ!」


騒がしい二人に挟まれるような格好だ。


俺はプリシラの奥に座るクリスに視線で助けを求めた。


「もしかして私に食べさせてほしいのかしら?」


「いや、違うから! プリシラもフランベルも、もう少しクリスの落ち着きを見習ってくれ」


俺の隣でプリシラがニコリと笑顔を作る。


「クリスはさっきじゃんけんで負けたから、我慢してるんだよ?」


フランベルもうんうん頷いた。


「だから明日はクリスの番なのさ師匠!」


「なのさ……って」


クリスが恥ずかしそうにそっぽをむいた。


「べ、別に私はレオが迷惑というなら、そういうことはしないけど」


「迷惑じゃない! けど……わかった……一口ずつな」


俺はプリシラとフランベルの差し出したパンを一口ずつ食べた。


「どうどう? レオっち美味しい?」


「ぼくのパンも美味しいよね?」


「いつも通り美味しいぞ」


二人は少し不満げだ。


どちらも購買で俺が良く買う、おなじみの総菜パンだからな。


突然味が変わるわけもない。


「それじゃあ、あたしもいただきまーす!」


「ぼくもいっただっきまーす!」


二人は俺がかじったパンを食べ始めた。


男兄弟がいて、そういうのはあまり気にしないんだろうか。


クリスの顔が真っ赤になる。


「それって……間接的な……」


プリシラがパンを食べきって首を傾げた。


「うーん? どうしたのかにゃー? クリっち顔が赤いね?」


フランベルは二個目のパンに取りかかっていた。


「レオ師匠が好きなものを食べる幸せ! ぼくは噛みしめてるよ! 特にレオ師匠が食べたところを噛みしめたよ!」


お前はもう少し女の子らしさを磨こうなフランベル。素材はいいんだから。


へたをするとマーガレットみたいな路線の人生になっちまいかねないぞ。


俺はクリスにお茶を注いでもらうことにした。


「クリス、お茶を頼む」


「え、ええ! みんなの分も用意するわね」


クリスはカップにお茶を注いで全員に渡していく。


最後に俺にカップを手渡しながら、クリスは眉尻を下げた。


「そういえば、試験の結果を聞いてなかったんだけど……」


「ああ、そのことなんだが……」


プリシラとフランベルもカップを手にじっと俺を見る。


俺は学園長に話したようなことを、三人にも報告した。


プリシラが一番に声を上げる。


「じゃあじゃあ、レオっち今日このあと王都に行っちゃうわけ?」


「ああ。そこで姫様の家庭教師をすることになったんだ」


「えぇー! 寂しいよぉ」


しゅんと落ちこむプリシラに、フランベルが一緒になってうなずいた。


「ぼくも同じ気持ちだけど、今は師匠を応援しようよ。師匠にはばっちり教員免許をとってもらいたいからね」


クリスが細いあごを人差し指と親指でつまむようにして物憂げな表情だ。


「公式を外しているからといって、筆記で0点というのはいくらなんでもやりすぎね。フォルネウスの名前は聞いたことがあるけど、まさかギリアム・スレイマンの兄とは思わなかったわ」


クリスが知ってるくらいにはフォルネウスも有名人なのか。


「なあクリス。フォルネウスってどういう奴なんだ?」


「国務大臣ネイビスの懐刀とも言われているわね。フォルネウスが教育委員会入りできた裏にはネイビスの影があると言われているわ。ギリアムの件は本来なら大きなスキャンダルなのだけど、フォルネウスやスレイマン家に批判の矛先が向かないのも、おそらく大臣の影響力によるものね」


プリシラもフランベルも、ちんぷんかんぷんと言った顔をしていた。


「じゃあ、守られたフォルネウスにはネイビスの息が掛かってるとみていいわけだ」


「先日の一件の以前から、元々繋がりはあったと思うわ。そのネイビスも王国の主治医なんて言っているけど、あれは四賢人の排斥を目的としてネイビス自身が流させた噂という疑惑があるのよ」


って、クリスよ、お前はいったい何者なんだ?


「ずいぶんと詳しいみたいだが、クリスはいったいどこでそんな情報を聞いたんだ?」


「学園に入学する前は、検事部の父からよく仕事の話を聞かされていたから」


焦った口振りでクリスは早口気味にまくし立てた。


「そうか。四賢人といえば、クリスの家もそうだもんな」


「え、ええ。確証はないけど、ネイビスには色々と黒い噂も多くて……それでも国政においての実務処理能力は一流で、検事部に尻尾を踏ませない周到さもあって……ごめんなさい。変な話をしてしまったわ」


「いや。参考になるよ。俺って、そういう事情はからっきしだしな」


クリスは小さく頷いた。


「レオがこれから王城に出入りをするなら、知っておいて損はないかもしれないわね。私の父が検事部のトップから降りることは、前々から決まっていたことだけど……軍閥をまとめていた軍師アプサラス家の不祥事をきっかけに、ネイビスの動きが早まりそうなの」


なにやら状況は複雑で、四賢人にとっては芳しくないようだ。


「そうか。四賢人の残り二人はどうしてるんだ?」


「一人はレオも知ってるでしょ?」


「いや、知らないぞ」


「学園長よ。リングウッド・アッシャーも四賢人の一人ね。そしてもう一人は魔法技術体系を確立したサザラーン家。三番街を技術街に育てた魔法技術者になるわ」


モノを知らない俺にもクリスは丁寧に教えてくれた。


フェアチャイルド家が司法。軍務の統括はアプサラス家。教育全般をアッシャー家。そして、魔法技術のサザラーン家か。


それらをまとめて王政から排除しようとしてるのが、ネイビス大臣ってことだな。


「なるほどな。今はネイビスが有利ってわけか」


「国政が安定して、四賢人は役目を終えたというのが正しかったの。エステリオの運営も軌道に乗って、あとはフェードアウトしていくはずだったのだけれど、そこをネイビス大臣に利用された格好になるわね」


放って置いても国政を壟断どころか、四賢人は自分たちから消えるつもりでいたらしい。


プリシラもフランベルもクリスの話についてこられなくて、完全に固まってるな。


「ますます真っ黒だな。あの大臣」


「証拠はないわ。ただ、これはあくまで私見なんだけど……」


クリスは言いよどんだ。


「どうしたんだクリス? なんでも言ってくれよ」


「ええ……あくまで私の個人的な考えと思って聞いてちょうだい。アプサラス家がシアンを養子に迎えたのには、ネイビスに対抗するためという見方があるのよ」


「シアンを魔族だと見抜けなかったのも、ガンダルヴァ・アプサラスが焦っていたからか?」


「さすがに魔族と知っていればあんなことにはならなかったでしょうし、シアンがそれだけ人間に化けるのが上手かったということなのだけど……ネイビスの圧力の影響がゼロだったとは言えない……と、私個人は思うの」


国務大臣ネイビス・メディケルス。


タヌキみたいな親父だったが、注意しておいた方がよさそうだな。

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