第五章 至高の魔法(5)
僕がトイレから管制室に戻ると、ちょうどコンラッドが戻ってきたところだった。
彼は、苦々しげに目の前のパネルを睨み付けた。
『……殿下』
彼の呼びかけに、セレーナは、微笑みで返した。
『我が国の結論が出ました。殿下は、エミリア王族の誇りにかけて、ファレンへの不逞な試みを撤回すると約束されました。であれば、国運をかけてまで一戦を交える必要もありますまい』
それは、ロックウェル連合から地球新連合国への降伏宣言だった。
同時に僕らの勝利の宣言。
たった五人の子供が、宇宙すべてを相手に戦った戦争の、勝利。
「寛大な処置、感謝いたします、コンラッド閣下。次にお会いするのは、平和的な交渉のテーブルで、ということになりましょう」
『でしょうな。……どうぞお手柔らかに』
最後にコンラッドは苦笑いに似た表情を浮かべ、そして、通信線を強引に切った。
彼の最後の表情の意味は、結局よく分からない。彼なりに思うところがあるのだろうな。
『それでは殿下、私も失礼いたします』
母さんがパネルの中で再び一礼した。
「はい、オオサキ殿、ありがとうございました」
『もったいないお言葉。ただ、一つ』
「何でございましょう」
『殿下の留学先の担任の先生がカンカンに怒っているようです、せめて春の学期末考査を受けていただけますよう』
それだけ言って、母さんのパネルも真っ黒に戻った。
セレーナは、消えたパネルを見つめて、くすっと笑った。
「やっぱりこの宇宙には、教師を黙らせる権力なんて無いらしいわね」
「……だね」
僕も思わず口の端から笑みを漏らした。
前にも、彼女はそんなことを言ったな、なんて。
それからセレーナは、優しい笑みをすぐに厳しい表情に変え、ロッソの映っているパネルに目を向けた。
「……摂政様、私はすぐにでもエミリアに戻ります。その後のことは、そこでお話ししましょう」
『……はい、殿下』
敗北を悟ったロッソの顔も、パネルから消えた。
エミリアの町は、まだ白とオレンジのハンカチであふれかえっていた。
カノン基地の外側を映すモニターパネルの中に、オレンジの筆記体でドルフィンとしたためられた真っ白な宇宙船が近づいてくるのが見えてきたのは、その時だった。




