第七章 真実の向こう
■第七章 真実の向こう
再び操縦室に戻った僕は、目的のものは見つけたから、行こう、と、みんなに伝えた。
彼らはそれぞれに僕に質問を送ってきた。
それはもちろん、ジーニーが持つ不思議な機能の正体について。
ジーニーが、見えないものを見る機能を持っていること。
何かの拍子でそれが目覚めてしまったこと。
僕は、どの質問も、たぶん、と前置きして肯定した。
僕にもまだ確信が持てないことだけど。
でも、たぶん、この力で当分戦っていくことが出来る。
ただ、いつか、もしかすると、これを絶対の確信に変えなければならないときがくるかもしれない。
それを確信に変える方法は、すでに頭の中にある。
それが必要になったとき。
僕は、もしかすると、残酷な真実を突きつけられなければならないかもしれない。
そして、一つ、大切なオーダーをしなければならないかもしれない。
僕にとってもっとも大切なものを守るためのオーダーを。
……彼らにまだ話せない僕だけの真実があることが、後ろめたく感じられる。
彼らを裏切るつもりなんて無い。
ただ、僕の中でまだ整理がつかないから、怖くて話せないだけ。
話してしまうと、それが真実になってしまいそうで。
ドルフィン号は、アルカスの地表に永遠の別れを告げた。また長い宇宙の旅が始まるのだ。長い一日だったからゆっくり休もう、と誰かが言って、みんながそれぞれのキャビンに戻っていった。
再び、操縦席に、僕とセレーナだけが残った。
「……結局、教えてくれないのね」
セレーナは、暗い表情のまま、つぶやく。
「……君が、特異点だってこと?」
「そうよ。別に、秘密にするようなことじゃないわ。私はこんな身分に生まれついて、いろんな『特別』に祭り上げられてきて。あなたが心配するほど、こんなことで気負ったり恐れたりしないわよ」
「……そうか。でもね」
宇宙船の窓の外に広がる真空の闇を見つめる。
「たぶん、はずれ」
「私が、特異点ってことが?」
「そう。もしそうだとすると、君はもっと早くから、僕がやるようなことを易々とできたはずなんだ。ただ『知る』ことに関しては、ね」
「……なるほどね。道理だわ」
ジーニー・ルカが特別なのは、もちろん、その主がセレーナだったからだ。
けれど、それは、彼女が特異点だという意味じゃない、と思う。
実のところ、ジーニー・ルカに限った話じゃないはずなんだ。
「ジーニー・ルカは……いや、たぶん、すべてのジーニーが」
なんと表現すればいいだろうか。
「……いや、ちょっとこれ以上は憶測に過ぎるから」
セレーナはしばらく僕を見つめていたようだが、頭を操縦席のヘッドレストに落とした。
「言いたくないんなら、いいわ。どうやら、あなたとアンドリューさんの間にも、私に話せない秘密があるようだし」
それから、ふふっ、と笑った。
「せいぜい、私を楽しませることね」
セレーナが笑ったことに安堵した僕も、笑みを漏らした。
「……ありがとう、真実がはっきりしたら、必ず話す」
「そんなことだろうと思った。あなたが言いよどむなんて、きっと、まだ答えが分からないんだろうって。あなたは、とても正直な人だから」
「僕は、嘘が下手なだけだよ」
「それでもよ」
彼女は、両手をいっぱいに伸ばして、掌を広げ、その甲をじっと、微笑みながら見つめる。
「すっきりした。良い気持ち。あなたの魔法の正体が分かって。遠慮せずに、あなたに頼れるもの」
「それは、ジーニー・ルカに言ってやってよ」
「あら、ジーニー・ルカに言ったつもりよ? まさか自分に言われたとでも? この私が頼りにしてるなんて?」
僕は顔が真っ赤になるのを感じた。
「……ひどいな」
彼女は、口を押えてくすくすと笑った。
「ま、ジュンイチにも、多少はね」
「半端なフォローは結構です!」
「怒らない怒らない」
いつも僕はこうやってセレーナにおもちゃにされている気がする。
ちょっと腹が立つんだけど、それもなんだか楽しい。
「で、これで晴れて、私の騎士は、宇宙最強の究極兵器を手に入れた、ってわけかしら」
「そう……いや」
ジーニー・ポリティクスを、思い出す。あれは、ジーニー・ルカと同じ力を持っていたはずだ。
そして、ジーニー・ポリティクスと同じ時代に作られ、その力をまだ隠し持っている奴らが。
「たぶん、宇宙のあちこちに、まだジーニー・ポリティクスのようなやつらがいる。ジーニー・ルカの真の機能だけでは勝てない相手。次に、こんな幸運な勝利を得られるとは限らない。ジーニー・ルカが持っている力は、たぶん、幻の力なんだ」
「それでも、あなたに勝てる相手なんて、そうはいないわ」
「僕じゃない、ジーニー・ルカさ」
「はいはい、そうでした。でも、これからも、あなたがオーダーしてね。やっぱり、彼の力を引き出すのは、あなたの言葉しかないような気がするの。いいえ、きっとそう」
セレーナは、不思議と確信に満ちた顔でそう言った。
そう、アンドリューのところで、アルカスこそ行くべき場所だと宣言した時と同じように。
その表情が、僕の別の確信を深めていく。
「そうするよ。ただ……相手のジーニーに学習の機会を与えないためにも、やっぱり出し惜しみはしていくべきだろうけどね」
「心配性ね」
「もちろんさ。この秘密がもし宇宙に広まったら」
「ジーニーに、全知の力があるなんて知れたら、ね」
セレーナは、指を一本、ピンクの唇の前に立てて、ウィンクした。
多分、これは、僕だけに与えられたもっとも重要な知恵であり武器。
僕らの武器は、知ることと考えること。
そのうち、『知る』ための究極の神器を手に入れたのだから。
けれど、僕には心の中に、あと二つ、温め続けている大切な知恵がある。
マジック、そして、カノン。
惑星をも四散させる反重力兵器と、地球のこめかみに突き付けられた人類史上最大の銃口。
まだ、会うべき人がたくさんいる、と予感する。
●●● 魔法と魔人と王女様 第四部 魔法と魔人と量子の巨神 完 ●●●
★第四部あとがき★
そんなわけで、浦野のファインプレーで復活したジュンイチとセレーナ。
そして、さらに二人のクラスメイト達を仲間に加え、ジーニー・ポリティクスとの対決を経て、ついに、ジーニー・ルカの秘密を解き明かしました。
秘密の国、惑星アルカスを背に、五人は戦いの旅に出発です。
そう、ここからが本当の闘い。
陰謀に溺れるエミリア。
その過誤を虎視眈々と狙うロックウェル。
捨ててきた故郷、地球。
この三者を相手に、たった五人の高校生が戦いを始めます。
第五部は、そのための最後の武器を探す旅。それはいずれ、人類の宇宙千年紀の秘された歴史を暴く旅へとつながります。
第四部はこれまで。お付き合いいただきありがとうございました。




