episode 6
Side:美波
私と恵那ちゃんは姿を消したここちゃんを探して、狼神様の社へとやって来た。
「美波ちゃん。あの中を探そう!」
「うん、わかった」
恵那ちゃんに返事をして、辺りを見回しここちゃんを探す。
「ここちゃ〜ん、いたら返事して〜」
どこへ向かってでもなく、ただ必死でここちゃんへ声をかけていた。
「んーーー」
うめき声が確かに社の中から聞こえた。
「ここちゃん! そこにいるの? 今開けるからね。まずはこの閂を外さなきゃ…………駄目だ。重くて持ち上がらない。恵那ちゃん手を貸して」
女性が二人がかりで少しずつ動くようなこの閂を、一体誰がかけたのか。
「あと……少し……」
ガコンという音と共に社を勢いよく開いた。
「ここちゃん!」
「ゔ〜ゔぅ〜、うんうん」
「えっ? なに? あっ、コレね。わかった! 今、外してあげるから待ってて」
そう言って、ここちゃんの口に貼られていたガムテープを一気に剥がした。
「ゔがっ、痛って〜わ! へくしっ!」
「心配したんだからね! それくらい我慢しなさいよ。ほら、上着」
「助かる。恵那が一緒だったろ? どこに行ったんだ?」
「えっ? どこって」
ここちゃんが何を言いたいのか直ぐに理解出来なかった。そんな私をみてここちゃんが。
「よし、恵那ん家に帰るぞ。まずは、こたつに直行だ」
今度はさっきまで一緒だった恵那ちゃんが消えてしまった。
「うわっ。すごい砂埃」
「どうした? ん? そうか……へくしっ! とにかく一旦戻ろう」
Side:九
「ただいま〜」
まるで自分の家に帰ってきたかのように、堂々と玄関を開けて入っていく。
「九くん、朝早くから散歩? 寒かったでしょ。こたつ入ってて、今温かいお茶を準備するわね」
「おばちゃん、ありがとう」
お礼を言いながら速攻でこたつに潜り込む。
「あったけぇ〜、生き返る」
「ここちゃん、潜らないでよみっともないから」
「美波、お前こたつを知らないんだな。こたつは癒しだぞ。暖めてくれて心地よい雰囲気。幸せだぁ」
冷え切った体を温めながら、俺は起き上がった。
「ちょっと、ここちゃん。血っ! 血出てるよ!」
昨夜、何者かに殴られたときに出血したのだろう。
「これくらい大丈夫だ。こたつ入ってみかん食べたら治るだろ」
「聞いたことない治療法なんだけど。とにかく、消毒しないと」
「まず、甘いみかんを食べてからだな。おばちゃ〜ん、甘いの選んでぇ」
お盆に急須と湯呑みを乗せて部屋に入ってきた恵那の母親に話しかけた。
「ねぇ、おばちゃん。狼神様のことなんだけど、少し話聞けるかな」
「恵那に聞いたら良いのに。あの子もこの村の子だから知ってるわよ。また朝から狼神様のところかしらね」
「かもね」
狼神様伝説は、その昔この村を襲った飢饉が発端となったらしい。
作物が育たず、食料が底を突きかけたその時、村に狼の群れがやってきた。
数少ない食料を奪われることを恐れた村人達は、農具を手に取り狼を殺したのだという。
「その狼の肉を食べたんですね」
俺の言葉に、おばさんは静かに頷いた。
「それからよ。この村に祟りのような出来事が起こり始めたのは」
凄惨、いやそれ以上の言葉が、おばさんの口から語られ、美波は目を潤ませながら俺の袖を握った。
「朝から聞かせる話じゃなかったわね。美波ちゃんごめんなさいね」
「いいえ。大変な思いをされて来られたんですね」
「美波。何でもいい。止血してくれ。そしたら行くぞ」
「その棚に救急箱があるから使ってちょうだい」
「おばちゃん、サンキュー」
慣れた手つきで消毒液と綿花を取り出し素早く消毒をする美波に傷口を任せ、推理を始める。
「これでよし。行こう、ここちゃん」
「ああ。始めよう。ここからは俺達の番だ。狼神様伝説になぞらえて事件を起こす犯人は、必ず捕まえてやる。謎が語りかけてくる」




