episode 5
Side: 九
桜華村の夜は静寂に包まれる。
風が草木を揺する音が、まるで山が叫んでいるようにも聞こえてくる。
「皆寝てるから起こさないようにトイレに起きたけど、やっぱ寒いなぁ」
俺は部屋へと戻る廊下の窓から外に目を向けると、何かが動いていることに気が付いた。
「……人か? でもあのシルエット。まさか!」
部屋着のまま靴を履くと外へと飛び出した。
「だってあれ、どう見たって狼神様だろ!」
寒さのことも忘れ、その正体を探る為に俺は村を駆け抜けた。
「あそこは神社に続く道。真夜中の村に何しに来たのか分からないけど、その仮面、剥がさせてもらうぜ」
数時間前に一度来ているので、ここが一本道であることは分かっている。
そして、神社から奥へ続く道は無いので、この先は行き止まりと言っていい。
つまりこのまま進めば、必ず狼神様に追いつくことになる。
勾配を一気に走って来たこともあり、さすがに息が上がる。
「ん? 社に明かりが灯ってる」
明かりを確認し、社に狼神様を追い詰めた俺は、息と足音を忍ばせながら歩みを進めた。
「……影? しまった!」
社の入り口に集中しすぎるがあまり、自分の影が前に伸びていることに気付くのが遅れてしまった。
振り向く瞬間、頭部への衝撃と共に俺の意識は薄れていった。
「……狼」
Side: 美波
鳥の鳴き声と朝食を作る音で目が覚めた私は着替えると居間へと向かった。
「おばさん。おはようございます」
「美波ちゃん、おはよう。ゆうべは寒かったけど、よく眠れた?」
「温かいお布団でぐっすり眠れました」
辺りを見ても、ここちゃんはまだ起きていないようなので、恵那ちゃんと二人で起こしに行くことにした。
「九君。朝だよ。起きて」
「恵那ちゃん。そんなんじゃここちゃんは起きないよ」
恵那ちゃんが優しく声を掛けるも反応は無く、私は正解を見せることにした。
「ここちゃん! 綺麗なお姉さんが逃げちゃうよ!」
いつもならこれで、飛び上がるように起きるはずなのに。
「あれ? ここちゃんどうかしたの? 開けるよ?」
一言確認をし、私は部屋の戸に手を掛けた。
「ここちゃん。おはよ……えっ?」
「美波ちゃん? どうしたの?」
「ここちゃんがいないの! 起きてないんだよね?」
「外に散歩に行ったとか」
「上着、ここにある」
私は咄嗟に玄関へ行き、ここちゃんの靴を確認した。
「無い……外に行ったの? 上着を着る時間も無いくらい急いでいた? 恵那ちゃん! ここちゃんを探そう!」
「うん、わかった。探そう」
ふたりは外に出られるよう着替えを始める。
「朝は気温がかなり低いから着込んでね」
「わかった。ここちゃんの上着も持って行こう」
いつからいなくなったのか、どこに行ったのか全く分からない中、私と恵那ちゃんは二手に分かれて村中を走り回った。
「ここちゃん。一体どこにいるのよ。土地勘もない場所で、すぐ迷子になっちゃうんだから」
この先は丁字路になっているのだが、右の道から昨日恵那ちゃんをつけていた男の人が走り抜けて行くのが見えた。
彼に話を聞いてみようと思い、私はなりふり構わず駆け出した。
すると、パンっという音の後、恵那ちゃんが勢いよく角から飛び出して来た。
「美波ちゃん! よかった。神社に行こう!」
「今、男の人が……」
「そんなことより九君を助けなきゃ!」
「あっ、うん。そうだね」
朝早い山道は薄暗く、こんなところに怖がりのここちゃんが一人で来るとは思えなかった。
「恵那ちゃん、ここちゃんを見つけたの?」
恵那ちゃんに話し掛けながらしっかり後を追う私。
「村の中はあらかた探したから……あとは、あそこしかないよ」
そして、私達は狼神様の神社へ辿り着いた。




