episode 1
Side:美波
車窓を滑るように景色が流れ行き、私の目に映る全てが、秋を深めた紅の世界。と、ここちゃん。
「ねぇねぇ、ここちゃん。紅葉すっごく綺麗だね……って、食欲の秋の真っ最中じゃないのよ」
「この駅弁、めちゃ美味いぞ」
ここちゃんは、紅葉よりもお弁当らしく。少しくらい窓から見える景色に興味持っても良いと思うんだけどなぁ。
「なぁ美波。それにしても急だよな? あいつから手紙なんて」
「そうだよねぇ」
返事をしながらお弁当の蓋を外す私に、ここちゃんからつっこみが入った。
「なんだよ。美波も弁当に興味あるんじゃん」
「そ、そんなこと、ない……こともないけど。それにしても恵那ちゃん、元気にしてるかな?」
雨宮恵那ちゃんは、私とここちゃんが小学生の頃のクラスメイトで、卒業と同時に引っ越してしまった。
先日、その恵那ちゃんから5年振りに手紙が届き、私とここちゃん2人分の列車のチケットが同封されていた。
ここちゃんの「会いに行くか」の一言で今、こうして列車に揺られ、恵那ちゃんの待つ村へと向かっている。
「美波のそれおいしそうだな。いっただき〜」
「ちょっと、ここちゃん! それあとで食べようと思ってたのに。もうっ!」
「要らないのかと思って。美波、食べたいものは始めに食べておけよ。お前、昔っからそうだったよな。変らねぇなぁ」
ここちゃんは私のお弁当のおかずを、咀嚼しながら窓の外を眺めた。
「しっかし凄いな。もうすっかり山火事だな」
「他に例え無いの?」
「他に例えって。わかりやすいだろ」
「はいはい。とってもわかりやすいです!」
「だろ。俺ってやっぱ凄いな。誰にでもわかりやすく例えるセンスが冴えてるよなぁ」
こうなってしまったここちゃんは誰にも止められないので、しばらく放っておこう。その間に、お弁当を堪能しよう。
「ここちゃん。少し前から気になってることがあるんだけど」
「ん? 何だよ。弁当のことか?」
「まぁ、お弁当と言えばお弁当かな。そのほっぺに付いたお弁当。消費期限切れちゃうよ」
「そういう時は優しく、ここちゃん、ほっぺについてるよって言ってそっと取ってくれるもんだろ」
文句言いながら、ご飯がついた反対側のほっぺたを拭いていた、ここちゃん。
「もう、こっち!」
「おぉ、ありがとう。そのご飯粒……」
「食べません!」
私は食い気味で否定した。
「そんな、キツイ言い方しなくても。俺の繊細なハートが傷つくわ」
と、両手で心臓の辺りを押さえて大袈裟な演技をするここちゃんに呆れた。
「そろそろ着くよ。恵那ちゃん、駅まで来てくれるって手紙に書いてたから、降りる準備しよう」
「そうだな。へくしょん!」
この時はまだ、これから起こる悲しい事件に巻き込まれていくなんて思いもしていなかった──




