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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
志抱くコンフェッション
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けれど、それでも、だから Ⅳ

 お昼を食べ終えた鈴ちゃん率いる三馬鹿たちは、食べ終えたばかりであるというのに「テトラポッドまで競争だ」とはしゃぎながら泳いでいった。三人の監視役として名乗り出た香奈ちゃんと保険にと謎の言葉を残した千夏ちゃんも泳ぎに向かったのだが、その数分後、香奈ちゃんは千夏ちゃんに抱えられて戻ってきた。何しろ途中で足をつったらしく、溺れていたとか。香奈ちゃん曰く、「今日が命日になりそうだった」だとか。

 余談ではあるがテトラポッドとは、海岸や海に転がってある放射状に四本の足が伸びたアレである。正式名称は「消波ブロック」で、テトラポッドは株式会社テトラが販売する「消波ブロック」の登録商標である。とはいえ、テトラポッドに比べて可愛げの無い正式名称を言われピンとくる人は建築業関係者ぐらいだろう。ちなみによく言われる「テトラポット」は誤表記なのは覚えておいた方がよいだろう。

 さて、香奈ちゃんと千夏ちゃんが戻ってきてまもなく、生徒会のお仕事で集合が遅れた咲ちゃんと三馬鹿を除くメンバーは合流することが出来た。終わったと連絡が入ってからここに来るまで時間がかかったのは、一度帰宅した証。制服のまま行きたいという本人の希望もあったのだが、私と香奈ちゃんの反論に渋々帰宅したのだろう。

 そんな咲ちゃんは勿論今日という日を楽しみにしており、私たちと合流して早々水着姿になり三馬鹿の後を追いかけていった。楽しみにしてくれていたことは嬉しい限りだが、急に公共の面前で脱ぎ始めるのだけは私たちも周囲の人たちも心臓に悪いので控えてほしい。…もうすでに泳ぎに行ってしまったが。

 残ったメンバーも何だかんだ言いながら浜辺で水浴び程度に遊んでいたが、やはり「冷たい」やら「疲れた」やらで遊んでは休憩してのループが永遠と続いていた。しかし、三馬鹿と咲ちゃんほど体力の無い私たち(千夏ちゃんを除く)には充分遊んだと言い張れるものであった。

 そんな中、非力な三人の輪に入っていた体力のある千夏ちゃんはさぞつまらないだろうと「泳いできても大丈夫だよ」と声をかけたが、「私はいいや」とお断りを受けた。そのおかげもあって、昨年のように気安く声をかけてくる人は全くおらず、気楽に海での休日を堪能できた。そんな千夏ちゃんに後日お礼として一緒にお出かけすることになったのだが、お出かけをした後日、鈴ちゃんから冷たい眼を向けられることになる。

 そのことを知らない私は、心の底から今日という日を満喫していた。しかしそれはあくまでも()()でだけで、いつもなら気付くはずの()()()()()に、私は終始気付いてやることが出来なかった。二葉姉妹の、異様な距離感に…。


 ******


 お姉ちゃんへの想いに嘘を付けば付くほど、お姉ちゃんからの愛に私はどんどんと蝕われる。夢を夢のまま終わらせようとした私にとってそれは生き地獄のようなもので、苦しくなるぐらいならと私はお姉ちゃんのに想いをぶつける決心をした。

 とはいえただ決意しただけであり、「このままではいけない」「しっかりしなければ」といくら私自身を励ましても、最初の一歩が踏み込めないまま時間だけが過ぎていた。有言実行ならぬ有言不実行とは、まさにこのことである。

 チャンスはいくらでもあった。むしろ貰っていたと思えるぐらい、お姉ちゃんに告白する瞬間は今までにあった。けれど、どれだけ玉砕する方がマシだと自身に言い聞かせても、心のどこかでお姉ちゃんにフラれてしまうのが辛いと思ってしまっていた。もう今までの姉妹ではいられない、そう考えてしまうだけで胸がきゅっと締め付けられるような感覚に陥ってしまっていた。

 現状を打破したいにもかかわらずできるだけ安全策をとろうとする、矛盾ばかりの私は夏期休暇に入る前「もう一生告白できないだろう」と本気で感じていた。しかし同時に「これが最後のチャンス」だと私は悟っていた。

 そんな私は今、琴美さんたちと海に遊びに来ている。正直なところ、こんな心境でお姉ちゃんのそばにいるだけで何をしれかすか予測できないので参加しない予定で当初はいたのだが、お姉ちゃんの土下座を見た後、参加することを決めた。むしろそこまでさせておいて参加しないのは、お姉ちゃんに申し訳ないというものである。

 とはいえ、運動能力皆無の私が長時間泳げるわけがなく、お姉ちゃんたちが泳いでいる間、荷物番を言い訳に泳がないでのんびりと海を眺めていた。本当はお姉ちゃんたちと泳ぎたい私ではあるが、泳げない私がいても足手まといになるだけである。それに、今はお姉ちゃんと顔を合わせたくない…。


「よ、舞ちゃん。どうしたんだ、浮かない顔して。」


 無理矢理肩を組んできた黒ビキニ姿の千夏さんはそう言うと、私の顔をじっと見つめてきた。今年の春編入学してきた小坂千夏ちゃんは所謂不良のような見た目であり、私が苦手とする人種に当てはまる。琴美ちゃん曰く「私の幼なじみ」らしいが、それでも私は彼女に心を開ける気にはならなかった。それはきっと彼女も、あの人たちのように私を傷つけると、私が勝手に思い込んでいるからだろう。


「その、あまり感情豊かでは、ない、というか…。」


 去年に比べ琴美さんたちに対してはハキハキと話せるようになった私ではあるが、二年生に進級してから関わりを持つようになった千夏さんや一年生の後輩たちは別である。ちなみに咲さんとはお姉ちゃんを通して一年生の頃から多少関係を持っていたため、琴美さんたちに対してほどではないが話せたりはする。


「双子なのに姉貴とは随分真逆の性格だな。というか、アレが大人しいわけないだろ。」


 よく双子は性格や好み、考え方は似ていると言われているが、遺伝で決まるのはその「基礎」だけであり、心や体の成長と共にそういったものは少しずつ変化していく。顔が似ている、歳が同じである、二人で一つの「双子」だが、所詮は個性を持った一人の人間であり、そういった意味でお姉ちゃんとは他人である。

 明るく誰にでも親しいお姉ちゃんと、根暗で隠れているばかりの私。どれだけ私たちが一番近い存在であっても、私とお姉ちゃんの住む世界はまるで違う。だからこそ私は、そんな私とは真逆のお姉ちゃんに惹かれたのかもしれない。


「です、ね…。」


 気弱な私の返事に対してだろう、千夏さんは少しだけ眉間にしわを寄せると私に()()を飛ばしてきた。こんな、今にも殴りかかりに来そうな表情を見て「仲良くして」と頼まれても無理がある。よく琴美さんはこんな人と長年付き合っていられるな、と呑気に関心している余裕など私にはない。


「…あのさ、舞ちゃん。そんなにオドオドしなくてもいいんだぞ。まぁ私の外見やらでそうなっていることは分かっているけどさ。」


 子鹿のようにビクビクと警戒する私に千夏さんはポンっと優しく頭を撫ででくれると、組んでいた肩をほどいてくれた。


「そのさ、無理矢理肩組んでごめんな。こうした方が、舞ちゃんの気が安らぐかもって思ってたんだけど、逆効果だってよな。」

「い、いえ、そんなことは…。」

「それに私が舞ちゃんの立場なら、何こいつめんどくさって思うし。」


 苦笑いを浮かべる千夏ちゃん。悪気があったのであれば何故行動に移したのか、という普通すぎる問いを口にすることなく「そうですか」とこちらも苦笑い。言ってしまえばそれこそ殴られるかもだが、今の千夏さんからは殺気は感じ取れない。


「…あの、千夏さん。」

「ん、どうした?」


 私のペースに合わせてくれているのか、先ほどよりも少し発声スピードを遅らしてくれた千夏さん。優しさなのかたまたまなのかは分からないが、どちらにせよ私自身のペースで話せることはありがたい。


「そ、その、気になっていたことが、ありまして…。…どうして、編入学しようと、その、決めたのですか?」


 触れてはいけない千夏さんの禁忌なのかもしれない、殴られる覚悟の私は喉に詰まっていた言葉を吐くと、安心のあまり身体から力が抜けるのを感じた。

 しかし感じただけでなく、実際に力が抜けてしまった私はそのまま千夏さんの肩にもたれかかってしまい、すぐに事の重大さに気付いき大慌てで千夏さんから離れようとした。

 そんな私を止めた千夏さんは、「別にいいよ」と千夏さんの肩を私の肩にピタりと引っつけてきた。もう既に乾いてしまった千夏さんの肌の温もりは優しく、一瞬であるがお姉ちゃんかと思ったほど心地が良かった。きっと周囲の騒音が耳に入らなければ、目を閉じて数分後には夢の世界に入ってしまうだろう。


「…あまり他人には口にしたくないから伏せさせてもらうけど、私はあることに決着、なのか分からないけど、まぁ終わらせなければならないことがあったんだ。けど私はさ、ずっとそのことに逃げてきたんだ。」

「逃げて…きたんですか。」


 意外であった。見た目だけで決めつけてきたこともあり、私は千夏さんの「逃げる」といった発言に驚いていた。こんなにも強そうな人でも、逃げてしまうことがあるのかと。


「そりゃ私でも逃げることはあるよ。無理して突っ走っても、結果は上手くいかないことを身に染みて経験しているしな。」


 海を眺めながら寂しそうに口にした千夏さん。私は千夏さんについては、先ほど話したとおり「私の幼なじみ」ぐらいしか琴美さんから教えてもらっていない。故に私は、千夏さんの今も過去も当然知らない。


「…けどよ、もう逃げたら駄目だって私は教えられたんだ。もう背けてばかりの私を卒業しろって。」

「千夏…さん。」

「知ってたんだよ。逃げたらいけないことぐらい。けれどそれでも、私は背けたかったんだ、自身の過去に。」


 私はこのとき、きっと気付いてはいけないことに気付いてしまった。千夏さんが話したくないのはきっと千夏さん自身の過去で、それは琴美さんと同じ。そして千夏さんと琴美さんは幼なじみであることから、私は何となくだが、彼女たちの過去は彼女たちのなかで回っているのではないかと私は考えてしまった。後にこれが余計な詮索ということに私は気付くのであるが、それに気付くにはかなり後の話である。


「そんな私を見捨てなかったんだよ、あの人は。舞ちゃんにもさ、舞ちゃんを決して見捨てない存在がいるだろ?」


 千夏さんに尋ねられ、私は数秒の間の後コクリと頷いた。私がそう思っているだけかもしれないが、私にとって私を見捨てない存在は間違いなくお姉ちゃんである。


「だから私は、あの人の期待に応えるためにも逃げることをやめたんだ。その決意表明、になるのかは分からないけど、とにかく逃げずに向き合うために、私はこの高校に編入してきたんだよ。」

「…やっぱり、千夏さんは、強いですね。」


 私は千夏さんのように強くない。現状を打破したいと考えているだけで、実際には何も出来ていない口だけの人間だ。私自身、この選択がいけないことぐらいは理解しているが、どうしても数歩前に出ることをどこかで拒んでしまっている。


「…私は強くなんかねぇよ。強いのは、私を見捨てないで支えてくれる人たちだ。そんな人たちから影響を受けてきたから、舞ちゃんは私が強く見えるんだ。」

「…そんなこと…。」

「私たちは平等に弱ぇよ。だから恥ずかしがらず、堂々と他人に頼るべきなんだよ。誰だって、一人は嫌だからな。」


 笑顔で話す千夏さんの言葉に胸を刺された私は、思わず千夏さんに私の現状を漏らしてしまいそうになった。きっと千夏さんは私が何か隠し事をしていることを知っていて、相談に乗ってあげようと心を開いているのだろう。その心遣いは確かに私にとって嬉しいのだが、彼女の容姿が昔の記憶を蘇らせてしまい、その記憶が私の本心を邪魔している。

 口を開けたり閉じたりと繰り返す私を、千夏さんがどう感じているか分からない。けれどきっと、呆れているに違いないだろう。あれだけ私に助言をしてくれて寄り添ってくれたにも関わらず、その善意を踏み躙るように心を開けようとしない私を、むしろ許してくれるはずなどないだろう。


「…ごめんなさい。私、やっぱりまだ…。」


「話せません」と言い切る前に、千夏さんは私の頭に手を回すとそのまま顔を胸に押しつけるように抱き締めてきた。お姉ちゃんにもアリスさんにもされたことのない抱きしめ方に困惑だらけの私だが、二人よりも力強く且つ優しい抱擁は二人に比べ落ち着きを私に与えてくれる。…あの二人はかなり強引というか、無理矢理というか…。良く言えば欲望に忠実、だろうか。

 …と、今はそんなこと考えている暇など私にはない。

 すぐに離れようと力を振り絞るも、見た目に反しない力の前に非力な私が勝すべなど無く、弱った私にトドメを刺すかのように千夏さんは更にぎゅっと力を入れる。それでも私のことを気にしているのか、手加減してくれているのが力量で感じられた。


「どうだ、さっきに比べれば落ち着いたんじゃないか?」


 顔を胸に押しつけられているため千夏さんの表情を確認できないが、確認できなくとも、千夏さんは今笑顔を浮かべているだろう。


「琴ちゃんたちに比べれば、関係の薄い私に話しやすいと思ったけど、やっぱり無理なもんは無理だよな。」

「その…すみません…。」

「別に謝る必要なんてねぇよ。それに、謝るのはむしろ私だ。無理言ってごめんな。」


 千夏さんの胸に顔を埋めたまま頭を横に振る私。そんな私を千夏さんは頭を撫でてくれる。


「…代わりにはなれないけどよ、しばらく私に甘えていてもいいぞ。私も琴ちゃんたちが帰って来るまでは休憩するつもりだし、その間だけでもどうだ?」


 千夏さんかの胸から顔を上げ、「なら…少しだけ」と自身でも思ってみなかった発言をしてしまった私はすぐさま「ごめんなさいっ」と勢いよく頭を下げた。きっと私の本心なのだろうが、そうだとすれば更に恥ずかしいさが増すというもの。

 耳の辺りまで赤くなっているのが体温の熱さで伝わってくる。そんな目に見えて恥ずかしいのが分かる私を、千夏さんは笑うこともからかうこともなく再び私を抱き寄せた。


「別に構わねぇよ。ほら、お姉ちゃんだと思ってさ。」

「…千夏さんでは、お姉ちゃんの代行は、できません…。」

「知ってることをハッキリ言われると、何か心に刺さるんだよなぁ…。」


 謝ろうと口を開こうとしたが、千夏さんが聞こえないような声で何かを呟いていることに気付き、思わずぐっと声を抑えた。

 大人しく千夏さんに抱きしめられたまま、高ぶっていた感情を沈めようと千夏さんの迷惑にならないよう深呼吸を繰り返した。落ち着くまでに数分の時間を費やしたが、その間千夏さんは私に話しかけることなく海の景色を見ながら私のことを待っていてくれた。

 そして落ち着きを取り戻した私は、しばらく抱きしめられた状態で過去の私を思い返していた。

 覚悟を決めても実行に動けない弱い私、そしてそんな自身を変えたくても変えられない私。矛盾に矛盾を重ねてばかりで逃げている私は、きっとこの先も何かと理由を付けて逃げていくだろう。一番頼りたい存在であるはずなのに、頼れない現状は心細く不安ばかりだ。

 だから私は、一度だけ頼ることを決めた。また口だけになる可能性もあるが、それでも私はもう一度だけ覚悟を決めた私を信じてみようかと思う。そしてそれで、何もかも終わらせよう。お姉ちゃんに対する想いも、弱い私にも。


「おい千夏ぁ!!私の舞に何手出してんだよ。舞はやらねぇぞ。」


 千夏さんに負けない大きな声で千夏さんに喧嘩を売りに来たお姉ちゃんは、濡れた手で私と千夏さんを引き離すと千夏さんの首を容赦なく絞めた。しかし千夏さんは苦しそうな様子は見せず、それどころか子どものわんぱくに付き合っているかのような笑顔に、こちらは何かと不安である。


「愛ちゃん!?千夏ちゃんを殺さないでっ!!」

「殺しはしないから。最悪の場合を除いて。」

「それ殺してるじゃん!?ほら、はーやーくーはーなーれーてっ!!」


 そんな二人を無理矢理引き剥がそうとする琴美さんを、誰も手を貸そうとはせず微笑ましく眺めていた。


「…で、まいたんはちっちに何吹き込まれてたの?お酒?タバコ?」

「だからなんで私がそんなもん舞ちゃんに教えねぇといけねぇんだ。」


 ニヤニヤとした表情で私に尋ねるアリスさん。ちなみに「ちっち」というのは、アリスさんが命名した千夏さんのあだ名である。


「…まぁ、そんな感じです。」


 と笑顔でアリスさんに冗談を口にすると、それを耳にしたお姉ちゃんと言葉遣いに気をつけろとお説教中の琴美さんは「はっ?」と同時に反応し、どういうことかと千夏さんに問い詰め始めた。少し冗談が過ぎただろうか…。

「あはは」と苦笑いを浮かべる私に、「冗談だよね」と耳打ちしてきたアリスさん。「当然ですよ」と悪戯っぽく私はちょっぴり舌を出してみた。

 そんな私にぽかんと口を開け静止したアリスさんは、その数秒後、「可愛ぃっ、抱いてっ!」とぎゅっと抱きついてきた。「何事!?」と千夏さんをお説教していた琴美さんでさえこちらに振り返り、今度はアリスさんを問いただす。

 アリスさんは「だってまいたんが」と言い逃れしようとしていたが、私はいつものようにオドオドと何事もないかのように演じて見せた。たまにはこういうのも悪くない、そう思ったときにはすでに私の中で小悪魔が誕生していた。

 けれど私を見るお姉ちゃんの目は、どこか寂しそうであった。それが何を意味するのか、私が気付くはずなどなかった。

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