嘘に決意を添えてⅡ
追試が三時間ほどで終わり私は教室に戻っていた。昨年の同時期に行われたテストだっため少し動揺したのだが、一教科三十分ほどで終わり、残りの二十分は見直しに使ったため、多分完璧だと私は思う。
ただ心残りなのは、監督に来ていた小坂先生を起こさずに出ていってしまったことだ。起こそうと考えた私であったが、嬉しそうな顔で寝る先生を起こすことは出来なかった。
明日絶対に何か言われるよね…。何かお菓子でも持っていった方が良いのかな…。
私は苦笑いを浮かべつつ悶々と考えているうちに、いつの間にか教室の扉を開いていた。
教室では、一人鈴ちゃんが外を眺めていた。外を眺めるその表情は、遠い遠い景色を眺めているように眉間にシワをよせているが、どう考えても怒っているようにしか見えなかった。
私は鈴ちゃんに帰ろうと声をかけたが、鈴ちゃんはその言葉に返事をすることなく口を尖らせて私をほって教室を出る。
やっぱり、まだ文化祭の出し物のこと拗ねているんだ。
鈴ちゃんが私を本当にほって行くことに気づいた私は、鈴ちゃんを慰める方法を考えつつ急ぎ足で帰宅準備をしようと机に向かった。
「鈴ちゃん、いい加減諦めたら?私たちのクラスでは文化祭の出し物はない。」
「でも、何かしたいの!だから一緒にステージで何かしようよぉ。」
「私以外に頼めばいいじゃない。醜態をはらすに決まってる。」
「でも…。」
帰り道の電車内で、私と鈴ちゃんは文化祭のことについて言い争っていた。五時限目が始まる二分前に小坂先生から貰った、一人では絶対に食べきれない量のお菓子を机に置いたとき、謝って紙を落とさなければこんなことは起こらなかったはずだ。
「だいたい、先生が悪いんだよ。何でプロレス喫茶やゾンビカフェなんてしようと言ってたのさ。そんなの、変な連中ばかりしか来ないじゃん。」
つり革を二つ使って体を浮かそうとする鈴ちゃんだが、背中に背負ってあるリュックの重さでなかなか足が上がっていない。小さめなリュックに一体何を詰めればそんなに重たくなるのかを、私は知りたかった。
「私に言ったって変わらないよ。鈴ちゃんが直接交渉すれば別だと思うけど。」
私は鈴ちゃんの目の前にある空いている席にソッと座る。すぐ横に座ってある他校の男子生徒の目線が私にあることに気づくと、私は横を振り向くことなく鈴ちゃんを見続けた。
「まぁ、小坂先生も悪いけどね。先生、絶対に自分が楽しみたいだけだと思うし。」
私はスカートのポケットから、昼休みに貰った大量のお菓子の中にあった飴をぽこんと口に入れる。赤い色の袋に入っていたためイチゴかと思いきやまさかのメロンだったので、私は驚きのあまり飴を吐き出しそうになった。
「先生ももうちょっと普通のにしてくれたらいいのに…。」
鈴ちゃんは口を尖らせながら、私のスカートのポケットに手を突っ込み飴を取り出す。取り出すのはいいのだが、無駄にポケットを探らないでほしい。恋人になった今、私に触れる鈴ちゃんの全ての動作に、私の胸はドキドキしている。
「な、なら、鈴ちゃんは何がしたいの?」
私は胸の高まりを隠しながら、鈴ちゃんに尋ねる。
「んー…。候補はたくさんあるんだけど、どれもやりたい!って感じじゃなくてさ。」
そう言って私のポケットから手を出すと、「あ、リンゴだ」と笑顔で口のなかで飴を転がす。私はそんな鈴ちゃんの笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「候補って、例えば?」
私は鈴ちゃんに気づかれないよう、先程鈴ちゃんの手が突っ込まれていたポケットに手を入れた。まだ残る温もりが、私の胸の鼓動を再び高める。
「例えばって…、一般的にだったらメイド喫茶とかお化け屋敷とかかな?それで、個人的にだったら焼きそばとか唐揚げとか作りたいなぁ。それにそれに…。」
鈴ちゃんはポンポンと食品を言っているのだが…。
「それ、全て私が作れるやつだよね。」
「だから、琴美が食事係で私が味見係ってこと。」
「それ、食べたいだけじゃない。」
私は少し怒り気味に言ってしまい、あっとポケットに入れていないもう片方の手で口をおさえる。鈴ちゃんは小さく口を開けて私を見るが、「うん、食べたい。」とすぐににっこりと笑う。私は口から手を離し、呆れてため息をつく。
「でもまぁ、出来ないんだもんね。」
鈴ちゃんは笑顔からまたすぐにシュンとした表情になる。そんな表情を見せつけれられると、やはり何かしたいという気持ちが私の心にも現れ始める。
私はポケットに入れていた手をギュッと握りしめる。
「…私がさ、話だけでも聞いてもらうよ。まだ一ヶ月以上もあるし、もしかしたら了承してもらえるかもだよ。」
そう言って、私は鞄から携帯を取りだしメールを開ける。そして、「小坂唯先生」と書かれたアドレスをタップしメールを打つ。
「琴美、誰にメールしてるの?」
鈴ちゃんが覗き込むようにして私の携帯に視線を動かす。
「小坂先生だよ。とりあえず、鈴ちゃんが出してくれた案を送ってみてるの。もしかしたら、校長先生に話を通してくれるかもしれないし。」
よしっと私はメールを打ち終え、すぐさま送信ボタンを押した。
「どう?返答あった?」
「ついさっき送ったんだよ。返信なんて来るはずないよ。」
私はそう言って、携帯を鞄に仕舞う。
「まぁ、それもそうだよね。」
鈴ちゃんはそう言って、また体を浮かそうとつり革を持ってピョンピョンはね始める。その可愛らしい姿に、私はクスリと指を口に当てて笑う。
「琴美ぃ。前から思うんだけど、私を見てクスッと笑うの止めてよ。何かその…は、恥ずかしいからさ…。」
鈴ちゃんの声を聞いて私は目を開けると、私の目の前にはリュックの肩紐を小さな手でギュッと握り、照れた顔でそっぽ向いている鈴ちゃんがいた。そんな表情をされると、ポケットに手を入れた時の感情が甦る。
「あ…。ごめん…。」
私も鈴ちゃんから目線を逸らし、指で髪をいじる。ゴールデンウィーク以降切っていない髪の毛はかなり伸びきっており、前髪は眉にかかり鬱陶しく、また後ろ髪ももう少しすれば腰の辺りまである。セミロングぐらいまで切りたいのは山々だが、鈴ちゃんはきっと許してくれない。
そんな恥ずかしい気持ちを抑えるようとすると、私の膝の上が急激に重たくなり、私は声を出すことなく驚く。
私は膝の上に乗っているものを確認すると、そっぽ向いている鈴ちゃんが乗っていた。床にはリュックが置いてあるが、もしリュックも一緒に乗っけていれば、私の膝辺りの骨はほとんど骨折しているはずだ。
「り、鈴ちゃん。急に乗っかってどうしたの?」
私は動揺を隠しつつ鈴ちゃんに尋ねると、鈴ちゃんは頬を膨らましながら鈴ちゃんの目線の先に指を指した。
「さっきからこの人、琴美のこと見てる。」
そう嫌そうな目付きで言われ、私は鈴ちゃんの指の先にいる男子生徒を見る。座ったときにこちらを見ていた生徒だ。あの時からずっとこちらを見ていると思うと背筋が寒くなる。
「お、おい。俺がストーカーみたいなこと言うなよ。」
男子生徒は慌てふためくようにして疑惑を晴らそうとする。けれど、そんなの何処に証拠があるのよと鈴ちゃんは眉間によったシワをさらに寄せる。
「ストーカーじゃなければ何なの?痴漢でもするつもり?」
「だから、そんなんじゃ…。」
「いい?琴美の胸のサイズがシーカップだから触りたい気持ちはよくわかる。けどね、琴美の身体は私のものなの。琴美に痴漢するなら、私にしてからにして。」
「いや、だから…。」
「鈴ちゃん!何で私の胸のサイズを知ってるのよ!?」
二人の揉め事の間に急に入ってきた私情に、私は大きな声が口からポロっと出る。気づいたときにはもう遅く、周りの視線は私の胸にいっていたが、私は気にすることなくポケットから手を抜き出し鈴ちゃんの両頬をつねる。
「ほとみぃ。みたぃみたゃい。」
「痛いなんて知らない。ねぇ何でなの?何で私の胸のサイズを知ってるのよ!ねぇ答えて。」
「でぃやぁから、うぃたいってひってるの!」
鈴ちゃんは頭を左右に振り、鈴ちゃんの頬から私の手を離させる。そして膝の上から跳び跳ねるようにして離れると、鞄の中からオレンジ色の薄い冊子を取り出した。その冊子は、「柊琴美」と書かれてある健康手帳だった。
「何で私の健康手帳を持ってるの!誰かに見られないように鍵付きの引き出しに厳重に保管していたはずなのに!」
私は鈴ちゃんが持っている私の健康手帳を取り上げると、急いで鞄の中に入れる。
「そんなの、針金でこじ開けた。」
鈴ちゃんはどや顔でポケットから針金を出し見せつける。その針金を見るなり、かなり久しぶり私の怒りが頂点に達し、私は立ち上がり鈴ちゃんを睨み付ける。
「何でそんな芸当を身に付けてるの?将来、窃盗犯になりたいの!?」
私はかなり感情的に怒鳴りつけた結果、私自身何を言ってるかが分からなくなっていた。
「だいたい、何でそんなものが必要なのよ。私の体を知って何をしれかすつもりなのよ!セクハラぁ!変態!」
「ねぇ琴美、落ち着い…。」
「私、現役女子高生なのよ!そういうお年頃なんだから知ろうとしないでよ!中学生時代、周りの子達より胸が大きいことがコンプレックスだったんだよ!」
「ねぇ、だから…。」
「落ち着いてなんかいられ…痛っ!」
私が感情的に怒鳴っているのを止めるかのように、先程私を見ていた男子生徒が私の頭にチョップをする。男の子に触れられる(痴漢される)ことは多々あったが、チョップされることはほとんどなかった。
男子生徒のチョップは案外痛く、私は頭を抱えるようにしてその場にしゃがみこむ。
「ちょっと琴美、大丈夫?」
鈴ちゃんが寄り添うようにして私と同じ体勢になると、頭を擦っている私の手にソッと鈴ちゃんの手を重ねた。
「うぅ…。頭、割れてないよね。」
「割れてたら、今ごろ悶絶してるよ、琴美。」
鈴ちゃんは軽く二度私の手の甲を叩くと、再び立ち上がりまた男子生徒と口喧嘩していた。
「何で琴美を叩くのさ。女の子に手を出すなんて、男の子としてどうなの。」
「叩くって言い方はないだろ。もう少しオブラートに言えよ。」
「オブラートに言えも何も、手を出したことには間違いないでしょうが!」
「…まぁ、手を出したと言えば出したけどよ…。けれど…。」
「けれどじゃ…。」
「さっきからごちゃごちゃとうるせぇんだよ!」
二人の間に入ってくるように、どこから女の人の怒鳴り声が電車内に響く。その声に、少しざわついていた車内が静まり返る。
「寝てたんじゃないのかよ。」
「お前がうるさいから目が覚めたんだよ、馬鹿が。男ならもっとしゃきとしろよ。」
「お前は俺の何なんだよ。保護者か。」
「教育係。」
「それはこっちの台詞だっつの。」
どうやら男子生徒と女の人は知り合いらしく、鈴ちゃんをほって二人で喧嘩をし始める。女の人の声からしてかなり性格が悪そうなのだが、その性格とは合っていない透き通った声に、私は何処と無く懐かしさを感じる。
「あぁもういい。ほら、降りるぞ徹」
「おい、ワイシャツ引っ張んなよ。お前のせいで何枚買い替えたんだと思ってんだよ。」
「うるさい。さっさと降りるぞ。」
え、徹?
その懐かしさを感じさせる声から出る名前に、私は頭を擦りながら顔を上げる。けれどその時には、男子生徒が電車から降りている様子しか見えなかった。
「何よあの人たち。琴美を見るなり勝手に喧嘩はじめて。迷惑だっていうのに。琴美もそう思わない?」
「え!?あぁ、そうだね。鈴ちゃんの言うとおりだよ。」
私は鈴ちゃんに笑顔でそう告げると、彼が連れていかれる姿を見守るようにして眺めた。
「本当、迷惑だよ。」
私のその呟きが発車の合図となり、また電車が動き始める。私は彼が見えなくなるまで、ずっと駅の方を眺めていた。
八時を少し回り、私たちは家の最寄り駅に到着した。あれから僅か数分で、死んだように鈴ちゃんは眠ったが、最寄り駅につく二分ほど前に起きてくれたことに私は感謝する。
けれど、さすがに八時となると空は暗く、待たせてしまったこともありタクシーで帰宅することにした。もちろん、タクシー代は私が出す。
「さすがに夜になると肌寒いね。」
私は鞄から折り畳んでいたライトグレーのカーディガンを羽織る。中学生時代から使っているものだが、今でもすんなりと入る。
「もう夏も終わったしね。やり残したことはいっぱいあるけど…。」
少し寂しそうに鈴ちゃんは言い、道路に転がっている石ころを蹴りつける。
「でも、秋にだって色々あるじゃん。文化祭とかハロウィーンとか。」
私は鞄を閉じると、タクシーに乗り込む。少し煙草臭い車内だが、私はそのことに何も触れず奥に乗り込む。
「そうだよねぇ。おいしい果物とかお菓子とかいっぱい食べれるもんねぇ。」
「やっぱり食べ物なんだ。」
ははっと苦笑する私は鈴ちゃんが乗り込むのを確認すると、運転手さんに住所を伝える。車で行くには近い距離なのだが、歩けばかなりの時間になる。鈴ちゃんはまだ余裕かもしれないが、私は何かと疲れていたので歩く気力がない。そのため、タクシーで帰宅することにしたと言っても過言ではない。
私はシートに深く座り込むと、携帯を取りだしメールを開ける。そこには、小坂先生とのやり取りが数分おきに行われていた記録が残ってあった。 鈴ちゃんが電車内で寝ている間に小坂先生から返信のメールがやって来たのだ。そこから、私たちのやり取りが行われた。
「あのね、鈴ちゃん。」
私が外をじっと眺めている鈴ちゃんの肩を軽く叩きながら名前を呼ぶと、鈴ちゃんは「どうしたの。」と笑顔でこちらに振り返ってくる。
「鈴ちゃんが寝ている間にね、先生から返信が来たの。」
私がそう口すると、鈴ちゃんは期待の眼差しで私をじっと見つめる。けれど決まったことなので、私は勇気を振り絞って声にした。
「駄目、だって。出し物。」
私が勇気を振り絞ってそう言うと、「何でなの?」と鈴ちゃんは詰め寄ってきたので、私はやり取りをしたメールを見せながら、簡単に説明し始める。
「私たちのクラスだけが出し物がないんじゃないの。一年生は規則で出せないの。食品喫茶だろうがお化け屋敷だろうが。」
私は次のメールをタップし、また鈴ちゃんに説明する。
「去年、今の二年生が食品を扱ってたクラスがあって、そこでボヤが出たの。怪我人はいなかったらしいんだけど、そのせいで今年から駄目になったって。」
「そんなの、去年のことじゃん。それじゃぁ納得いかないよ。」
鈴ちゃんはムスッと頬を膨らませ私を見る。私にそんなことされてもと思いつつ、「なら納得させてあげる。」と告げ次のメールを開いた。
「私も去年のことだからって反論したけど、ガスコンロに数があるみたいで、もし食品を扱うことができてもガスコンロ無しで出来るものじゃなければ駄目。それに、お化け屋敷は他のクラスが出しているみたいで…。」
「じゃぁ、焼きそばとか唐揚げとか食べれないの?」
目を潤わせながら、鈴ちゃんはぷるぷると震えていた。その愛らしい子犬ような姿に、私は意識を持っていかれそうになるが何とか持ちこたえる。
「で、でも、鈴ちゃんが行っていた食べ物のお店はほとんどあるって先生言ってたから、みんなと回りながらいっぱい食べようよ。だから、ね?」
私は何とかして鈴ちゃんの機嫌を良くさせようと試みるが、鈴ちゃんはいっこうに良くならない。むしろ悪化しているように見える。
「…そうだよね。やっぱり出し物がしたいんだよね。私、実行委員会だっていうのに何もできてないよね。」
私はシュンと肩を下ろし携帯をしまうと、ごめんねと頭を下げる。
「べ、別に琴美に怒ってなんていないよ。出来ないから残念だなって思ってるだけで…。」
鈴ちゃんは慌てて私の顔を上げさせようと試みるが、私は顔を下げっぱなしでいる。
鈴ちゃんはしばらく私を説得していると、急に黙りこんでしまう。そして小さく深呼吸をした。
「…そ、そんなに謝られたら私が困るからさ…。私の言うことを聞いてくれるなら、ゆ、許してあげるからさ。」
つまり詰まりで鈴ちゃんはそう言い、私の頭を両手でがっしり掴む。そして「えいっ」と私の顔を持ち上げるようにして無理矢理顔を上げさせた。
「…鈴ちゃん!ここタクシー。運転手さんがバックミラーで見てたらど…。」
「文化祭、私と二人っきりで行動して。」
運転手に聞こえないように告げた私の声は、意図も簡単に鈴ちゃんの声に消され、鈴ちゃんが告げた一言に「ふぇ?」とらしくない声が出てしまう。
「だから、私とデートしてってこと、文化祭で。いいの?嫌なの?どっち?」
鈴ちゃんは私の頭から手を離し、私の肩に手を置いて前後左右に揺らす。まるで、私が考えていたことを脳から消し飛ばすように。
「わかった。わかったから揺らすの止めて。吐くから。」
私は片手で口を抑えると、吐く寸前で鈴ちゃんはパッと手を離した。間一髪であった。
私はしばらく口を抑えたまま静止し、落ち着きを取り戻した。喉の奥にあった熱いものは、もう引っ込んでいる。
「…鈴ちゃん。本当にそんなものでいいの?二人っきりで文化祭楽しむってので。それに…デートならいつでも行けるよ?」
喉の奥にあった熱いものは引っ込んだのだが、微かに異物が残っているような違和感を感じ、私は鞄の中からのど飴を取りだし口にする。喉がスーっとなる感覚に、私は小さく身震いをする。
「私がやりたいって言ってるんだから、琴美はただ私に従えばいいの!」
何故か怒ったように鈴ちゃんの様子は、照れていることを隠そうとしているのだろう。耳が微かに赤く染まっているのがその証拠だ。鈴ちゃんはバレていないと思っているだろうが、カーナビから放たれる光が丁度耳に当たっている。その無理に隠そうとする姿に、私は思わず微笑む。
「またそうやって琴美は笑って。真剣に言ってるんだよ、私は!」
「ふふっ、そうだね。鈴ちゃんは真剣に言っているんだよね。」
「何それ。分かったようなふりなんてしないでよね。」
「ふりなんてしてないよ。」
そんな、一見仲の良い友達同士の会話だが、お互いがお互いを意識して会話していることに運転手さんは知るはずもなく、ラジオから出る途切れ途切れの音を運転手はソッと下げた。




