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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
14/97

例えこれが恋だとしてもⅡ

 私は海が好きだ。波の音、潮の香り、白い砂浜。この果てしなく大きな海には、それらが世界中の至るところにあり、また誰も知らない生物や島があると思うと、私は興奮して仕方がないのだ。私は将来、海に近い場所に家を建てて暮らしたいという願望がある。それは、かつて鈴ちゃんに話したことがある。けれど、今の鈴ちゃんは覚えていないだろう。

  そして、もう一つ伝えていないことがある。これは、今回に限ってはかなりまずいものた。


  そう、私は泳げないのだ。




  八月。雲一つない炎天下。直射日光が痛く、すぐに肌が焼けそうだ。こんな日は、冷房が効いた部屋で趣味に没頭するか、冷房が効いたカフェに行きたいところだが、今日はそうにもいかない。

  海辺の最寄り駅に着いたのは午前十一時になる前だった。現地集合のため、私と鈴ちゃんは一緒にやって来た。みんなと電車で会うと思っていたが、そうも行かなかったみたいだ。

  ちなみに、アリスちゃんはやはり先に出たらしい。まぁ、夏休みに入ったことにより、観光客が増加しているはずだ。アリスちゃんのプライベートタイムはファンからすれば、かなりレアだ。

  アリスちゃん曰く、ある程度ファンを減らしておくために早く行くとか。

  鈴ちゃんの横にいる小さな子供が、電車の窓から景色を眺めている。私もそれに続いて景色を眺める。少し遠いが海が見える。かなり電車に乗り継ぎしてきたので、楽しみである。小さな子供も目を輝かせながら、その横にいる母親と話している。私の母親は休日ですら忙しいため、一緒に過ごすことはあまりない。父親は単身赴任のため、二年に一度帰ってくるかどうかのため、母親よりも過ごした時間は少ない。

  だから、この小さい子どもが羨ましいと、私は心底思っている。

  駅に止まるアナウンスが電車内に鳴り響き、私と鈴ちゃんは出る支度をする。私たち以外にも、家族連れや友達同士、またカップルの人たちも出る支度をしている。さすがは夏休みと言ったところだ。


「ねぇ、この水着可愛くない?」


「今日は一日中泳ぎまくるぞ!」


「夕方、行きたいところがあるんだけど…。」


  四方八方から会話が聞こえ、私は盗み聞きをしようと試みるが、あまりにも多いので聞き取れなかった。

  電車が完全に止まり扉が開くと、多くの人たちが降りていく。いや、電車内にいた大半の人たちがここで降りている。


  私は正直、もう帰りたいと思った。

 

  元々、鈴ちゃんが私の意見を聞き、私が海と言ったため、今日は海になったのだ。私自身が行きたいと欲っしたのに、意見を出した人物がもう帰りたいと願っている。

  少し憂鬱な気持ちで、私と鈴ちゃんは電車から降りた。すると、すぐに電車は駅を後にした。電車内は私たちが乗っていたときの人数の四分の一ほどになっていた。大半がお年寄りである。

  私と鈴ちゃんは階段を降り、改札口に向かった。改札口には、人で溢れていた。田舎の方の為、改札口が一つしかないのが原因だろう。

  私が先程やって来た電車に行こうとすると、鈴ちゃんに手を握られ止められた。人はいっこうに減らない。

  鈴ちゃんは、私の手を握ったまま改札口に突っ込んで行った。他人にとってはかなりの迷惑だろう。私はぶつかる度に、その人に向けて小さく謝っておいた。

  そんなことはお構いなしの鈴ちゃんのおかげもあり、以外にもすんなりと改札口を抜けていった。私たちの後ろからも、たくさんの人たちが一つの改札口に向かって歩いている。

  鈴ちゃんは私の手をまだ握っており、私が離そうとしたが、逃がさないようさらに強く私の手を握った。いつもと立場が逆である。

  駅から出ると、太陽が私たちを照らす。私は太陽の光を手で遮る。指と指の間から太陽が入り込む。

  駅の目の前には、大きな海が広がっている。私が理想としている海とは少し違うが、それでも海は海だ。私は大きく息を吸う。潮の香りが鼻の奥に入っていく。


「来たね、鈴ちゃん。」


  私はそう言い、鈴ちゃんを見る。けれど、鈴ちゃんはかなり疲労困憊のようだ。顔の表情からでもわかる。けれど、握ている手の力は未だに強い。

  私は先ほどとは逆に、鈴ちゃんを引っ張って行った。理由としては、駅から出てくる人がいるからだ。そして、私たちみたいに出てきた先で止まっている人がたくさんいる。ここにいては、集合に間に合わないと思ったからだ。

  私たちが歩いていると、鈴ちゃんではない誰かに肩を叩かれ、私は叩き主の方に振り向いた。

  二葉姉妹と香奈ちゃんだ。二葉姉妹はツインテールとポニーテールの二人の少女の顔があり、「LIFE」と言う文字が書かれてあるお揃いの服を着ている。姉の愛ちゃんは黒色をベースに文字が白色、妹の舞ちゃんは白色をベースに文字が黒色であった。世間で言う双子コーデというものだ。

  一方の香奈ちゃんは、白のダボダボとしたキスマークのティーシャツに黒のハーフパンツといったシンプルコーデだ。いつもの赤めがねもちゃんと着用している。


「ほら、やっぱり琴美じゃん。」


  どうやら叩いたのは愛ちゃんらしい。愛ちゃんの勘はよく当たる。この前も、私が宿題をやって来ていないのを私が登校してきたときに言われた。


  そのせいで、私は久しぶりに先生に怒られた。


「三人とも久しぶり。」


  私が手を振ると、二葉姉妹は振り替えしてくれたが、香奈ちゃんは振り替えしてはくれなかった。まぁ、わかっていたことなのだが…。


「前期補習以来ですね。」


  舞ちゃんが愛ちゃんの後ろに隠れてそう言う。さすがにこの人混みでは、舞ちゃんは辛いだろう。私は、電車のこともあり大分慣れてきたが、まだ少し辛い。


「そうだねぇ、舞ちゃん。」


  鈴ちゃんはいつの間に買っていたのか、ペットボトルのジュースを口にしていた。私がじっとペットボトルを見ていると、鈴ちゃんが私に突き出してきた。どうやら、私が言いたいことが分かったみたいだ。

  私は鈴ちゃんから貰ったジュースを口にする。けれど、ジュースにしては味を感じない。流石の現役女子高生も舌の老化はしていないはずだ。

  私はペットボトルから口を離し、ペットボトルの表記を見る。けれど、確かにサイダーだ。しかし、味を感じない…。


  …ん?


  口の中から少し違和感を感じた私は、口の中で舌を小さくなめ回す。朝御飯は食べていないのに、口の中がざらざらしている。

  そう思ったときだった。まるで海水を飲んだかのように、口の中にしょっぱい何かが広がった。私はそれを吐き出そうと咳き込むが、もう飲んでしまっている。喉の奥からもしょっぱい何かが感じる。


「あ、それ塩サイダーだよ。塩多めの。」


  鈴ちゃんが言った時にはもう遅く、私は大きな声で叫んだ。一体、どこからそんな声がでているのだろう。私自身もわからない。

  私の容態に舞ちゃんは、バックの中から飲み物を私に渡した。ちゃんと「天然水」と書いてあるが、それでも、透明の液体を見ると少し抵抗があった。トラウマになるのではないかと私は思った。

  私は無言で、舞ちゃんの飲み物を受けとり、それを飲みほしていく。それを見ていた舞ちゃんだが、何とも思っておらず、むしろ笑っていた。その笑顔が、さらに私の罪悪感を引き立てる。


  あとで何か奢ってあげないと…。


  私はそう思いながら、ごくごと水を飲んでいると、いつの間にか、ペットボトルの中身が空っぽになっているのに気付いた。


「あ、ご、ごめんね、舞ちゃん。その…全部飲んでしまって…。」


  私は舞ちゃんに謝罪する。それでも、舞ちゃんは笑顔だった。


「大丈夫です。私、ホッとしましたし。」


  舞ちゃんはそう言い、ますます笑顔になった。けれども、舞ちゃんがカタコトで喋っていないことに、私は正直驚いていた。

 

  けど…。


  私は舞ちゃんの顔を見た。その笑顔は正真正銘、二葉舞の笑顔だ。その笑顔に偽りはない。


「ねぇ、舞ちゃん?」


  私が舞ちゃんに尋ねたのだが、舞ちゃんは鈴ちゃんと先に歩いている。私の近くには、愛ちゃんと香奈ちゃんがいた。

  私が舞ちゃんを呼んだことに気付いた愛ちゃんは、舞ちゃんと鈴ちゃんの方を見る。そして、愛ちゃんらしくないため息をついたのだ。


「どうしたの、愛ちゃん。暑さでやられた?」


  香奈ちゃんが愛ちゃんを見てそう言い、バックからタオルを取り出した。そうして、タオルの中から保冷剤を取り出し、愛ちゃんにタオルを渡した。ひんやりとしているのだろう。

  けれど、愛ちゃんは「いらない。」と言い、舞ちゃんたちの方向をボーっと見ていた。その様子を、私と香奈ちゃんは心配そうに見た。そして、私は香奈ちゃんと視線が合うと、香奈ちゃんは心配そうな顔を直ぐ様、いつもの仏頂面に戻した。

  私は香奈ちゃんの方を見て、少し笑った。


「みんなにはさ…。その…言わないといけないことがあるんだ。」


  愛ちゃんが口を開き、私と香奈ちゃんはゆっくりと視線を愛ちゃんの方に移した。


(あいつ)はさ…昔から人見知りでさ。」


  それはこの四ヶ月ほどでよくわかっている。私たちと話している時ですら、いつもオドオドとしている。舞ちゃんがかなりの人見知りであることは、多分、みんなわかっていることだ。


「その人見知りのせいで、よくいじめられててな…よく、私が守ってあげてたっけ。」


  愛ちゃんは少し顔を下げてそう言った。その声は弱々しい声だった。

  愛ちゃんのその言葉に、私はかける言葉がなかった。

 私自身も、中学生の頃はよくいじめられていた。生徒会長になる前までは、今の舞ちゃんとほとんど変わらないオドオドとした性格だった。そのため、私はクラスのいじめの対象となっていた。

  だからと言って、舞ちゃんに同情しているわけではない。多分、舞ちゃん自信もそれは望んでいないことだろう。

  香奈ちゃんも静かにそれを聞く。口を開けようとはしていない。

  愛ちゃんは顔をあげ、再び私たちを見る。私たちを見るその瞳は、少し潤っていた。


「だから、友達と言える人が(あいつ)にはいなくてな…。その、琴美たちに感謝しているんだ。」

「「感謝?」」


  私と香奈ちゃんは首を傾げた。


「別に、私たちは何もしてないし、した覚えも一切ない。舞ちゃん(あの子)の勝手な思い込みよ。」


  ここにきても、香奈ちゃんはツンツンしている。けれど、さすがに言い過ぎだと思い、私は香奈ちゃんを止めに入ろうとした。

  私は香奈ちゃんの方に視線を変える。


「ちょっと香奈ちゃん。さすがにそれは…」

「それはそうかもしれない。」


  私の止めを愛ちゃんが逆に止めた。私と香奈ちゃんは驚き、愛ちゃんに視線を変えた。


「それでも、それでも(あいつ)にとっては、それでも充分なんだ。そらすらも、中学の頃はなかったからよ。」


  その言葉を聞いて、私と香奈ちゃんは黙り込む。「それすらも」という言葉が、私の胸を痛める。多分、香奈ちゃんも同じ心境なのだろう。

  愛ちゃんの瞳からは涙が溢れ、耐えきれずに涙が流れていく。


「だから、もし、もし(あいつ)の思い込みだとしても、それで充分だ。それでも、(あいつ)にとっては嬉しいんだ。だから…。」


  愛ちゃんは涙を流しながら、私たちに頭を下げた。しかし、泣き声は出さなかった。


(あいつ)と仲良くしてくれてありがと。これからも、(あいつ)と仲良くしてくれ。」


  愛ちゃんの瞳からは流れる涙が、アスファルトでできた道路に落ちていく。それでも、愛ちゃんは泣き声一つ出さずに、私たちに頭を下げている。

  私は中学生の頃、一週間に一度は顔を下げられた。それは、私にいじめをした人物が謝罪したり、私に告白するとき(1参照)頭を下げたりしていた。けれど、友達に頭を下げられることはなかった。友達といえる人はそれほどいなかったのも理由だろう。

  だから、愛ちゃんが頭を下げている姿を見て、私はさらに胸が痛くなる。謝られているわけではないのに、何故か心を罪悪感が鎖できつく縛る。

  香奈ちゃんが頭を下げていた愛ちゃんの頭を掴み、無理矢理顔頭をあげさせる。愛ちゃんの泣き声を抑えるかのように唇を噛んでいた。唇からは、少し血が出ている。

  香奈ちゃんはため息をつき、口を開けた。


「言われなくても、舞ちゃん(あの子)とは仲良くしていくつもりだし、裏切るつもりもない。愛ちゃんこそ、私たちが舞ちゃん(あの子)を裏切るとでも?」


  香奈ちゃんはいつもより口調が強くなっている。けれど、愛ちゃんを見ているその目付きは鋭く、まるで獲物を見ている猛獣のような目だった。私の背筋から、汗が流れているのが感じられる。けれど、気温が高いためかいている汗ではない。何かこう、言葉に表せないような変な感じの汗だ。

  愛ちゃんはその鋭い目を涙を流しながら見ている。その目は、香奈ちゃんに何かを尋ねているような目だった。けれど、何を尋ねているかは私にはわからない。

  そのまま数秒ほどがたち、フッと愛ちゃんが笑った。それを見た香奈ちゃんは、愛ちゃんの頭を掴んだ手を離した。

  香奈ちゃんは二歩下がる。


「疑ってごめん。本当、ごめん。」


  涙を拭いながらそう言い、言い切るなり、また頭を下げる。そして、香奈ちゃんが二歩前に出て、また愛ちゃんの頭を掴んみ、頭をあげる。


「頭を下げない。今日は謝りに来たんじゃない、遊びに来たんでしょ。」

 

  香奈ちゃんの言葉に、愛ちゃんは弱々しく頷く。それを見て、香奈ちゃんはホッとしたような顔をしたように私は見えた。気のせいかもしれないが、例え気のせいだとしても私は何となく嬉しかった。


「ほら、早く行くよ。もうみんな集合場所に到着したはずだから。」


  香奈ちゃんは手から愛ちゃんの頭を離し、愛ちゃんの手を握りしめ、愛ちゃんを引っ張った。愛ちゃんは少し躓きそうだったが、すぐに体勢を整えた。それを私は後ろから見ていた。


  …よかった。


  私の心のそこでそう呟く私がいた。そしてそれと同時に、私自身、中学生の頃より優しくなったとつくづく

 思った。けれど…。


  そんな私がただただ怖いと私自身が思っていた。


  私は香奈ちゃんと愛ちゃんの後に続いて歩き出そうとしたとき、メールの着信音が流れた。どうやら、私のからみたいだ。中学時代、吹奏楽部にいたときの一番のお気に入りの曲だったからだ。

  私は鞄から携帯を取りだした。この数ヵ月で携帯の扱い方も慣れ始めてきたのだが、毎回パスワードを間違えるのはまだ治りそうにもなかった。

  私は携帯に挟んでいるパスワードを書いた紙を取りだし、それを見ながら携帯を開けた。今日は大丈夫だったが、紙を見ても間違えることがある。

  メールの主は鈴ちゃんからだ。この時気付いたのだが、鈴ちゃんからのメールが過去に何通もメールを送っていたらしい。私はそのことを一切知らなかった。


  とりあえず私は、一番上にある最新のメールを開く。どうやら、写真も一緒に送っているみたいだ。


 ー件名、いないよ。


  アリスちゃんが集合場所に道具を置いたまま消えてるよ?琴美。どこにいるかわかる?


  追伸。先に舞ちゃんと着替えとくね。


  そして最後に添付してある写真は、鈴ちゃんの水着だろう写真を送ってきてあった。水色や白色などの寒色系を使ったタイダイ柄の少しフリルが付いてあるバンドゥビキニ。鈴ちゃんには失礼だが、胸の小さい鈴ちゃんにはよく似合っていると、私の本心がそう言っていた。


  舞ちゃんがいるのに…。大丈夫かな?


  鈴ちゃんよりも舞ちゃんの方が胸はある、と言うよりも、私たちの中で舞ちゃんが一番胸が大きい。


  正直、暴れそうで心配だった。


「けれど…。」


  私は鈴ちゃんの心配よりも、アリスちゃんの方が心配だった。こうなることはアリスちゃん自身、想定の範囲内だとは思う。けれど、何処にいるのかは連絡をくれてもいいはずだ。

  私は香奈ちゃんたちに先に行くよう言い、アリスちゃんを探しに行った。手伝おうかと香奈ちゃんは言っていたが、愛ちゃんを一人にしておくわけにはいかないので、私が行くと言うと、少し間を置いてから納得してくれた。

  私は反対方向にある海の家に尋ねようと、海の家に向かった。道中で会えば嬉しいと言う考えは、結局叶わぬまま、気がつけば海の家の前にいた。集合場所からは、かなり離れてある。アリスちゃんのこともあるからだ。

  私は海の家の中に入る。すると、朝だと言うのにお酒の香りが私の鼻の中に入ってきた。私はお酒の香りがだめなので、私の両親はお酒を私と琴葉の前では極力お酒を飲んでいない。

  だから、この嫌な香りを吸うのは久しぶりだ。


  …うぉ。


  私は急に頭がボーっとしてきた。これが私がお酒の香りがだめな理由だ。私はアルコールに極端に弱く、一度アルコール度数が高いお酒の香りを嗅いで、その場に倒れ込んでしまったほどだ。

 

  …あ、だめだ。


  私は気分が悪くなり、近くにある席に座り込んでしまった。頭がボーっとしており、思考もおかしくなっているだろう。


「なぁ、そこの嬢ちゃん?俺たちといいことしに行かない?」


  私に声をかける人が私の前にいた。それも一人ではないだろう。

  私は口を開き、その人に何かを言った。けれど、何を言ったかは私ですらわからない。

  そこから、私の記憶は一切なかった。

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