三話
あれだね、女の子って思ってた以上におしっこ我慢出来ないんだね。
もうちょっとどうにかできるかなと思ってたけど、ぜんぜん駄目でしたわ。
忘れてたのが一気に来たのもあるけど、一度出たら凄まじい勢いであっという間だわ。ホント。
恥ずかしさの方が強かったけど、ちょっと気持ちも良かった。全裸で放尿するのが癖になったらどうしよう。
その後慌ててメイド達にお風呂に連れてかれ、ほっかほっかのウォッシュッシュされました。
「申し訳ありませんでしたお嬢様……」
湯船の中で全身ほっかほかしていると、先ほどのハプニングをメイドがしきりに謝罪してくる。
「あー、もう謝るのいいって……私も感覚がこんなに違うっていうのがよく解ってなかったし」
「ですが……年甲斐も無く気分が浮かれてしまい確認を怠った私どもの不注意で、お嬢様を辱める結果に……」
「だからもういいって、身体で覚えたし今後こういうことが起きないように気をつければ良いだけだし」
今後、気をつければ良い。お湯に浸かっている自分の身体をまじまじ見ながらそう答える。
ちっちゃくてつるんぺたんなボディがもろ出しである。体勢を変えるフリをしながら足を広げると思わずカードをスラッシュしたくなりため息が出た。
自分の身体の問題が目の前にある訳だけど、何か今日は変態観測してもう疲れたのでさっさとお布団に包まれてゴロゴロしたい。
どうせやるなら女体の勉強の方がしたいっす、聖女の勉強とかぶっちゃけどうでもいいっす。
ニート、疲れた、もう寝たい。
「さあお嬢様、いかがです? 新しいお部屋は」
「なにこれ」
風呂から出て、昨日と同じようにあれこれされて部屋に戻ると模様替えしていた。
質素で何も無かった部屋が見違える程にファンシーな感じに仕上がってる。
でっかいクローゼットはあるし、自分より大きい熊だかなんだかよくわからないぬいぐるみが置いてあるし、ベッドも装飾が増してるし一体短時間でどうやってやったのか疑問だった。
「あのドレスいっぱいのクローゼットは何?」
「先ほど着せられなかった衣装の内、何点かこちらで選ばせていただきました」
「あの大きなぬいぐるみは何?」
「部屋の飾り付けにご用意しました。防犯機能も備えており非常時には作動し暴漢を退治します」
「えらく物騒じゃない?」
「体調管理の効率化も兼ねて、以前より結界魔法でこの部屋一帯を守らせておりましたが、これからは内側も守れるようにと旦那様が」
「初耳なんですけど……あのベッドが飾り付けられてるのは?」
「部屋の雰囲気に合わせた結果です」
「そうなんだ、これってどうやってやったの?」
「はい、魔法の力を使いまして。私どもは名門ブルムライト家に仕える従者ですので、多少なりには」
「はえー、すごいんだねぇ」
ここにいるメイド達って魔法使えたんだ。知らなかったよ。
この部屋、空気清浄機的な感覚で結界張ってあったんだ。知らなかったよ。
その後、メイドが本日はこれから如何致しましょうと訪ねて来たので、とりあえずゴネてみた。
といっても、馬鹿正直にまた二度寝したいと言ったらどうせ拒否されるだろうと思い、まだ精神的に色々馴れないとか、体力が持たないとか、勉強以前にまず身体の違いを完全に把握しておきたいとかいう風に言ってみたら、渋々了承してくれた。
それで三日は寝間着姿のままベッドの上でぐうたら出来た。
◇◇◇
何もしないこと、それは人類が得られる最高の贅沢。
その上、今は金髪の幼女。
自ら望んでなった訳じゃなく、否応無しに変えられてしまった金髪幼女の身体で、ただひたすらにベッドの上で惰眠を貪るという、奇跡を手に入れた私。
それだけでとても楽しかった。幼女最高。
だがその奇跡の様な最高の贅沢も長くは続かなかった。
流石に三日もぐうたらしていたら、そろそろもう良いだろう的な感じで父様がやって来た。
寝間着姿のままベッドの上でうつ伏せになってあー、うー、言ってた所に電撃訪問である。
びびってちょびっとチビリそうになった。というかチビッたかもしれない。これは絶対チビッてるだろう。うん、チビリました。ちょっと悲しい。
「アリス、もう大分その身体の方にも馴れて来た頃ではないか」
「と、父しゃま!? は、はいっ! アリスなれました!」
ベッドの上で慌てて起き上がり、振り向きながら答える。
思わず噛んでしまった。父様の後ろにいるメイドがちょっと笑いかけてた。
「そうか馴れたのか、なら良い。所でアリスよ、今後の人生についてお前自身、なにか計画というかそういったことを考えたことはあるか?」
「はい? 計画ですか……?」
突然計画って言われてもなあー。こんな質問してくるなら三日前に宿題として出しといて下さいよ、お願いします。
地球にいた頃から何もしてなくて死んで、こっちに産まれてからもずっと病弱で、十年も部屋の中にいた前世も今世もニートだった奴にそんな物なんてある訳が無いだろ。
あったらニートなんてやってなかったし、何も考えたことがないよ。
ただ、いかにどうやって何もしないで生きていられるかを考えていたわ。色即是空、空即是色。
どうしよう、困ったな。なんか適当にそれっぽく言っといたらそれなりな点数貰えないかな。
抜き打ちテストみたいなもんだし、赤点じゃなきゃセーフでしょ、うん。
「計画と言われましても……私はずっと病弱だった訳ですし、正直この先あまり長く無いと思ってましたから、そんなこと考えたこともありませんでした……」
「そうか……」
おう、どうした。父様。
おっかない顔が更におっかなくなって、何やら真剣に考え込んでるぞ。
どうしよう答え間違えたかな、赤点出して更に追試とか嫌すぎるんだけど。
「いや、すまないアリス……そうか、そんな思いをさせていたか……当事者であるお前が一番不安を感じていたというのは当たり前なことであるか」
「え?」
「うむ、ではアリス質問を変えよう。お前は部屋でよく本を読んでいただろう」
「はい」
よく本を読んでいたというか、食う寝る以外でできたことが本を読むことぐらいしか無かった訳だが。
初めは何が書いてあるのかわからないので、メイドに読み聞かせて貰っていたのを元に文字を解読していった。
わからない所を質問していったり、本の上から文字を指でなぞったりなんかしていたなあ。
他にすることが無かったので良い暇つぶしになった。パズル感覚でそれなりに楽しかったよ。
前世の英語の成績はそんなによろしくはなかったけども、この世界の言語で自分の名前を書けるようにはなった。
「本を読むのは楽しかったか?」
「はい、色々なおとぎ話とか読んでました」
「そうか、魔法関連の書物も読んでいたとも聞いたが」
「ええ、それも読んでました。と言っても自分の属性を把握出来た程度で、それ以上のことをしようとすると気分が悪くなってしまいましたが」
その時読んだ本で把握出来たのが、水属性と光属性だったっけ。
火、水、土、風、光、闇の六つの属性を象徴するといわれている存在に手をかざして、自分の身体に多少なりに流れ込んでくる感覚があればそれが該当する属性だとか。
色々やった結果、薬を飲む時に使った水の入った飲みかけのコップと、外で庭の手入れしていた庭師の頭にそれぞれ反応してた。
聖女の素質があるって知った今だと理由がわかるが、当時は魔法を使おうとすると気分が悪くなって相当ショックだったなあ。
忌々しい思い出がよみがえってきた、今なら出来ないだろうか。
そう思い、胸元近くに両手を置いて、軽く念じてみると、いきなりぶわっと子どもの頭程の大きさの水の球が出て来た。
「うわっ! なにこれっ!」
「アリスっ!?」
突然出て来た水の球にびっくりしたら、ぱちんと球が弾けてベッドの上で座っていた足に水がバシャッと降り注ぐ。冷たい。
「ええー……、なんなのこれ……」
「ああ、お嬢様! いけませんそのままでは風邪を!」
この間のお漏らし騒動を思い出したのか、メイドが大慌てでタオルやら着替えやらを持って来る。
確かに今の私は、寝間着の下腹部辺りからびしょ濡れで股間やら、ふとももやらがぐっしょりして気持ちが悪い。
だがこれでさっきおしっこチビッたのが誤魔化せる。マジ怪我の功名。大怪我負ってないから。
チビッたのは事実だけど、これはただの水。だから大丈夫、希釈されて今は水になりました。よっておしっこじゃないからはずかしくないもん。
「ふふ……! はははっ! わはははっ!」
心の中でそう自分に言い聞かせてると、なんか突然父様が笑い出した。
この人マジで見た目怖いから、いきなりそんなことされるとまたチビッてしまいそうだから止めて欲しいんだけど。
女の子になってからなんか尿道ユルガバなんですけど、これも水属性の素質なんだろうか。
「凄い! 素晴らしい! アリスが持っている聖女の素質がこれほどとは……!」
「だ、旦那様……?」
「ああ……すまない、だがどうしてここまで初代の聖女が持て囃されていたのかがようやく理解出来た。成る程これは、世界各地に聖女の素質を持つ者が出てくる訳だ……」
一体どうしたのだろうかこのオッサン。
一人で馬鹿笑いして一人で納得して自己解決しちゃった。
しかも聖女の素質が何なのさ。まさか尿道緩いのが聖女の素質とか言いださないよね。
「大丈夫だアリス、お前はお前らしくあればそれで良い。どうやら私の考えは全て杞憂に過ぎなかった」
「父様?」
「アリス、まずは着替えをした方が良いな、魔法の方も試すのは良いがまだ練習が必要のようだ。これから本格的に学びたいと思うのであれば、一週間後に答えを聞かせてくれ。その際、水魔法については私が軽く指南出来るが光魔法については教官を用意させる」
この反応を見るに、どういう訳か魔法に関しては好印象の様に思える。
なんでなんだろう? よくわからない。
しかし、前は出来なかったのに、今回はあっさり上手くいっちゃったっぽい。素質あるなら魔法勉強しちゃおうかな。
ニート、魔法、覚えたい。
「魔法を教えて貰えるんですか」
「その反応だと学びたいようだな。良いだろう、一週間後に答えを聞くつもりだったがその日から教えて上げよう。教官の方も今から準備しておこう、それまでもう一度今まで読んで来た魔法関連の書物を読み直しておきなさい」
「本当ですか!」
「ああそれと、教官の方はこの家の人間ではないかもしれない可能性もあるので、必要最低限の社交性と振る舞いを覚えておいた方が良いかもしれない」
「そ、それは努力します」
「大変正直でよろしい。では私はこれで」
そう言って、おっかない顔に微笑みを浮かべて怖さ三割増になった父様が部屋を出る。
部屋には濡れたベッドの布団を取り替えるメイドたちと、私の身体を拭いているメイドと、私の着替えを用意しているメイドと、ぱんつから水もしたたるいい女になった私だけになった。
どんな魔法を教えて貰えるんだろう。せっかくの剣と魔法のファンタジー世界なのにおあずけ喰らったこの十年。
メイドも魔法が使えるこの世界で、私だけ使えないってのはどうも納得がいかない。
金髪幼女ニートに魔法が加わり、今まさに最強不敗神話が産まれようとしている。
これからはニートも魔法幼女になれる時代。そんな時代って夢があって素敵じゃないか。
その為ならある程度自分を可愛く着飾り、おほほうふふな振る舞いなんてやってやろうじゃないの。
ニートは可愛く着飾るのが嫌なんじゃない。対価も無いのに面倒くさいことをするのが嫌なだけなんだ。
魔法を覚えられるのなら、精一杯の可愛い幼女を演じてやろうじゃん。
私は怠惰なニートの皮を脱ぎ捨てる様に、失敗した魔法で濡れたぱんつを脱ぎ捨てた。
そしてメイドが用意した新しいぱんつを手に取った。
ああ、このくまさんがプリントされたぱんつかわいい。
なんか目から水魔法が発動したような気がした。




