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九話



 

 そうこう考えながら家の外に出る。

 

 外では外出用の格好に着替えた妙齢のお姉さんメイドと使用人のオッサンとジョンがいた。

 

 野外での仕事が多いオッサンとジョンは、作業用の服を小奇麗に整えた感じで、メイドに至っては流石に家で働く時のエプロンドレスという訳にはいかず、この日の為に用意したであろう私服を着ている。


 そんでもって私も、この前のような派手なドレスとかではなく、装飾を控えたシンプルな服に、変装用の眼鏡をかけて、髪も三つ編みでお下げと地味に控えめでとても落ち着いた感じになっている。

 

 

 

「おっ、やっと来たな。お嬢!」


「お嬢様だろ、全くこのボウズは……これだけは何度言っても聞きやしねぇ」


「へへ、いいじゃねえですかおやっさん、お嬢のお許しは頂いてるんですし。それに、学園の入学試験が始まる時から、なんでも身分を偽るんっていうんでしたよね? 何のためにそんなことするのか俺にはわからないんですけれども、そうなったらお嬢に敬語とかで話しかけると変に思われますって」


「おうおう、早速もう合格した気になってやがる。お嬢様はこんな試験楽勝で合格だろうけど、お前は落ちる可能性は大いにあるぞ、仮に合格出来ても入る寮は男女で違うし、それに属性も違うから教科が分かれて会話する機会はそう無いだろうが。そういう心配はまず合格して会話する機会が多そうか確認してからするんだな」


「そ、そいつはひでえっすよ! おやっさん! 大丈夫ですって、俺だってちゃんと合格しますってば!」


 呑気にジョンと会話しながら私にプレッシャーを与えてくるこのオッサンは、ジョンに拳骨を落としていたオッサンだな。拳で語り合ったからか、かなり打ち解けている。

 

 と言っても、ジョンに拳骨を落としていただけだが。


 あれからもジョンは毎日毎日庭師の爺さんやオッサン達の厳しい指導の元、土の魔法の理解を深める修行という名目で使用人のオッサン達と穴を埋め続けていた。


 それに穴埋めによる全体的な運動と、我が家の十分な食生活によって、大穴を空けて怪我をした当初よりも随分と逞しくなっている。肌も日に焼けて浅黒くなってきているし。

 

 そして朝起きてすぐと、穴埋め作業が終わった夕方に重たそうな金属の棒を持って素振りまでしていた。これは冒険者になると豪語していたジョンに、興味を持ったオッサン達が何処までやり遂げるのか面白半分で課していたシゴキの一環だったとか。

 

 夕方には暗くなるからと言って、照明代わりに何故か私も付き合わされた。一応ここのお嬢様なんだけどなあ、メイド達もオッサン達も父様も何故か微笑ましく見物してるだけだったしなあ。皆腐ってるのかなあ。

 

 一体何が奴をそうさせているのか、ジョンはメニューを全てやり終えた。肉体労働とは無縁の私にはよくわからない。

 

 やる気マンマン、筋肉ムンムン、男性ホルモンビンビンな感じのジョンは、その成果もあって、初級の土の魔法は難なく扱えるようになったとかで、これには父様もご満悦の様子だった。


 結果随分と暑苦しくなっていた、夜になっても暑苦しかった。なんか湯気とか立ってた。私を見るとシャツを脱いで腹筋とか二の腕の筋肉とか見せつけてくるので、思わずジョンに水の魔法をぶちまけてしまうほど暑苦しかった。聖女の能力に攻撃性があると判断されたのか回復してしまい、お陰様で余計に暑苦しくなってしまった。


 なんで攻撃性を与えると回復するのかもう意味がわからない、初代の聖女は一体何がしたかったのか。このスキルマジ地雷。

 

 ため息一つ吐き、三人の傍に近づく。


 

 

「はえぇー……しっかしお嬢……」

 

 ジョンが私に声をかける。私に何か問題があるだろうか。

 

 今の格好は凄く庶民的で日常的で非常に落ち着いてとても良いと、自分の中ではそう思っている。

 

 お嬢様なのだからと毎日毎日過剰に装飾を施されるより、素材の味をそのまま生かしたシンプルでありのままのプレーンな姿の方がロリの味を楽しめるというのに、この家の連中はそれが全く分かっていない。

 

 ついこの間には一般的な貴族令嬢の嗜みなんだとか言って、化粧を勧められたりもした。学園の入学試験に集中したいと言って切り抜けようとしたけど、それでも尚もしつこく食い下がってくるので少しだけ付き合う羽目にもなった。

 

 まともに付き合うのも心境的にあれなので、化粧水的な液体を魔法の練習がてら自分で作って毎日適当にぱちゃぱちゃつける程度で、それ以上は試験に関わるかもしれないと言って納得させた。

 

 化粧水と言っても、魔法で水作って浄化して保湿効果をドバっと入れただけだから、成分とか効いているとかは知らん。肌はもちもちぷよぷよだから多分効いてるだろ。



 

「まあなんというか、まあ……今更ながら、これで元は男だったなんてなあ……」

 

「そうは言うがなぁ、ボウズは知らねえだろうが、お嬢様の容姿は元からあまり変わりは無いんだぜ。強いて言えば髪が伸びて肌の血色が良くなった位だ。それと性別変わっただけでこうなるとはなあ」


「それホントなんですかあ? へぇー……」


「こ、これが私たちの限界だったんです……上の坊ちゃま達の時にはもっと上手く庶民的に抑え込められたんですが、お嬢様はその、素材が良すぎて……た、多分大丈夫だとは思いますが……」


 なんだよ、歯切れの悪い奴らだな。言いたいことがあるんならはっきり言えよ。

 

 と、心の中で呟く言いたいことが言えない勢。


 おそらく、持って産まれてきた素質ってやつがここに来て障害になってしまったんだろう。

 

 これも全部ハゲジジイ神が悪い。きっとそうだ、そういうことにしておこう。

 

 太陽背負って後光を射してろ。

 

 後、ジョン、元からほぼ変わりないって聞いて明らかに私を見る目を変えてくるな。毟るぞ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 出る前に躓きそうになったけど、気を取り直して。オッサンが用意した質素な馬車でカッポカッポと十分ほど揺れて近場の街の入り口へ。

 

 家の外なんてね、何気に初めてなんですけど。一体どんな魔境が待ち受けているのやらと思ったら、西洋の街並みをそのままメルヘンファンタジックにしたような感じで、意外と地球の文明とあまり変わりが無いように見える。

 

 

 

「そういえばお嬢様はこの街を見るのは初めてでしたよね?」


「う、うん。他の場所にある街も全部こんな感じなの?」


「旦那様が治めていらっしゃる、ブルムライト家の領地にある主要な街は、ほぼこうなっておりますね。魔物が多く出没する地域や領地の中心部から離れていきますと変わっていきますが」


「へえー、そうなんだー」


「他の領地の街並みまでは詳しくはないのですが、お嬢様が通うことになるであろう学園のある、国の中央部はここよりも更に発展していると聞き及んでおります」


 ここより発展してるって一体どうなってんだろう。

 

 高層ビルとか立ち並んでるのかな、でもそれだと一気にファンタジー感薄れそう。


 まだ聞きたいことがあったけど、ぼちぼち試験会場の方に行きたいとジョンにせがまれる。因みに家で働く前まではこの街の孤児院に住んでたらしい。

 

 今年で十四になり、ぼちぼち孤児院から出て行かなくならなくなってきた頃にこの間の大穴事件が起きて、今に至るのだとか。仕事と住む場所が決まったけど、一度大怪我してたしな、すぐに治したけど。

 

 果たして運が良いのか悪いのか。

 

 


「それじゃあワシはここで馬車を停めておきますんで、試験会場の方へ」

 

 ここから先へは私とジョン、付き添いでメイドが街の中に行き試験会場へ向かう。

 

 入り口から歩いて数分の場所に試験会場がある。

 

 場所はメイドが知っているのでそこまで案内してくれる。でっかい看板も置いてありまず迷うことは無いとのことだが、文字通りこの街の右も左もわからない引きこもりお嬢様な私がそこまでたどり着ける訳が無い。

 

 万が一はぐれて迷わないように念には念を入れてメイドの手を握っておこう。

 

 これは小さな女の子ならではの特権である。決してやましい気持ちとかは無い。

 

 歩く前に、一応断ってから恐る恐るメイドの手をギュッと握ったら、彼女はとても暖かい微笑みを私に向け、一言『大丈夫ですよ』と言われ優しく握り返してくれた。

 

 ああ、優しさがとても心を絞めつけてくる。完全に子供扱いされている。

 

 

 

 複雑な心境になりながらメイドに連れられて、てくてく歩いて会場に到着。因みにジョンも私の真似をしてメイドの手を握ろうとしてたけど、それは華麗にスルーされていた。

 

 ひらけた空き地に用意された会場にはそれなりの数の少年少女とその保護者達が集まっていたが、服装を見るからに貴族の子供はいなかった。別の会場があるのだろうかと尋ねたら、この街の奥まった方に貴族用の会場があるらしい。

 

 その他にも学園そのものや、領の首都なんかにも専用の会場があり、わざわざ高い金出してそっちの方へ赴き受験させるのが主流なんだとか。

 

 学園の職員達は主に貴族用の会場の試験官を行っており、一般会場の試験官は、学園を卒業して一定の魔法職歴を修めたOB達が率先して行っている。これは主に格式を重んじる貴族の需要と、学園を卒業して自分達の職場にやってくる人材の最初の見定めを行いたいOBの需要が一致した為である。

 

 と、メイドが教えてくれた。

 

 

 

 しかしまあ、よくもここまで貴族と一般ピーポーとの間には隔たりがあるようで。

 

 変装して身分を偽り、表向きは貴族に拾われた孤児という設定になっているとはいえ、ここにいるのがかなり不安になってきた。もしバレたら凄いやりづらそう。

 

 でもやるしか無いんだよなあ、失敗してロリコンと縁談組まされる方が嫌だ。

 

 この私の体をぺろぺろしていいのは私だけだよ。腕ぐらいしかぺろぺろ出来ないけど。

 

 並んでたらもうすぐ私の順番になってきた、ああ緊張する。

 

 思わず顔を見上げてメイドを見た。するとまた微笑みを向けてくれた。そういえばずっと手を繋いでたままだった。

 

 なんだかもう訳が分からなくなってきた。メイドのお手手あったかい也。

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