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終焉夢想  作者: 四畳半
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終章「夢の終わりと現の始まり」

 ――貴方は誰ですか?

 ――焔魂夜行。

 ――ヒノタマヤコーさん?

 ――昔同じ事を言った娘がいたよ。

 ――どんな方だったのですか?

 ――君とそっくりな娘で、元気で、明るい娘だったよ。

 ――だった?

 ――今は居ないんだ。

 ――……ごめんなさい。

 ――謝る必要なんてないさ。すぐに会えるから。

 ――どうしてわかるのですか。

 ――彼女達がそう言ったんだ。心配ないってさ。

 ――もう1人居るのですか。

 ――そう。僕の友達で、家族なんだ。大人しめな娘だったけど、優しい娘。

 ――貴方は色んな方に愛されているのですね。

 ――僕も皆が大好きなんだ。君も。

 ――私も理由がわからないのですけど、貴方が好きです。

 ――ありがとう。

 ――とても懐かしいです。

 ――ずっと貴方の声が聞こえていたんです。

 ――でもいつしかその声は小さくなっていって。

 ――とても怖かったんです。

 ――まるで私の前から居なくなってしまうみたいで。

 ――ずっと怯えていたんです。

 ――ずっと暗闇の中を探していて。

 ――色んな風景を見て。

 ――とても懐かしいんです。

 ――そこで色んな人に会って。

 ――色んな時間を過ごして。

 ――でもあなたの姿はいつもぼんやりとしていて。

 ――今にも消えてしまいそうで。

 ――僕も怯えていた。

 ――ずっと君の姿を探していた。

 ――何度も忘れてしまいそうになった。

 ――何度も諦めそうになった。

 ――でも皆が居てくれた。

 ――私も一人じゃなかった。

 ――見付けた時安心したよ。

 ――私も。

 ――君の名前は?

 ――姫禊祀と言います。

 ――しかし誰がつけてくれたのかわからないんです。

 ――おかしな話ですよね。

 ――名前をつけてくれた人の事を僕は知っているよ。

 ――それは一体誰なのですか。

 ――すごく弱い奴。

 ――心当たりがありません。

 ――じゃあ君の名前の意味を伝えるよ。

 ――僕のお姫様で穢れを禊ぐ祀られる者だから。

 ――それが君。

 ――貴方しか居ませんね。

 ――うん、その通り。

 ――でも貴方はこれからどうするのですか?

 ――君と一緒に暮らす。

 ――やめておいた方が良いと思います。

 ――どうして?

 ――私は貴方を傷つけてしまうかもしれない。

 ――なら僕が君を受け止める。

 ――本気で言っているのですか?

 ――本気じゃなかったらここまで来ないよ。

 僕はにっこりと笑い、手を差し伸べた。

 彼女はどこか怯えていながら僕の手を恐る恐る掴んだ。

 

   ×


 そうして共に過ごし始めた僕と祀。

 そうしてたくさんの人と関わった僕と祀。

 そうして一ヶ月で一紗の陰謀を暴き、犠牲者が生まれる前に福来の野望を潰し、アレイシア達を話し合いで和解させ、クーデターが起きる前に月にのツアーに行き、軍がクーデターを起こそうとしている事を暴いた僕と祀。

 そうして皆と再開した僕と祀。

 そうして神職になる為の勉強を一緒に始める僕と祀。

 そうして神道系大学に入学し、無事に卒業して階位を授与された僕と祀。

 そうしてそれなりに充実した毎日を送る僕と祀。

 そうして友達はよく来るけれど参拝者があまり来ない神社に溜息を吐く僕と祀。

 そうして皆からそろそろ結婚しろとからかわれる僕と祀。

 そうしてまんざらでもないでもない僕と祀。

 そうして生活にある程度余裕もできて籍を入れた僕と祀。

 そうして皆から盛大に祝ってもらって幸せに笑う僕と祀。

 そうして何年か経って双子の女の子が生まれた事に喜ぶ僕と祀。

 そうして神社が騒がしくなって頭を悩ませる僕と祀。

 そうして仲良く子育てをする僕と祀。

 そうしてすくすくと元気に育つ子ども達にに笑みが隠せない僕と祀。

 でもやっぱり子育てというのは大変なもので苦労を分かち合う僕と祀。

 そうして同時に子どもの成長が早すぎてちょっと寂しさも感じてしまう僕と祀。

 そうして皆からとても可愛がられてまっすぐに育つ子どもに誇りを持つ僕と祀。

 そうして大きくなっていっぱい喧嘩をするようになった子ども達に頭を抱える僕と祀。

 でも寝るときは同じ布団で手を繋いでいる光景を見て胸を撫で下ろす僕と祀。

 そうして学校に上がり、あっという間に中学校に、高校、大学に進学する2人に嬉しいとは思うもののやっぱりちょっと悲しさを覚えてしまう僕と祀。

 そうしてある時2人が彼氏を連れてきて目の前が真っ暗になる僕とそれをたしなめる祀。

 でも彼氏はとても誠実な男できっと彼らなら2人を幸せにできるだろうと確信する僕と祀。

 そうして前より静かになった神社で暮らす僕と祀。

 そうして2人の花嫁衣装を見て目頭を抑える僕と祀。

 そうして孫の顔を見て顔を綻ばせる僕と祀。

 ずっと一緒に手を繋いで歩いてきた僕と祀。

 

「過去を振り返ると色んな事があった」

「そうですねぇ……」

阿真音あまね吽月うづきも立派になった」

「なのに2人ともどうして泣いてるんですか」

「最期くらい笑顔で見送ってくれても良いじゃないか、なぁ?」

「そうですよ。お母さんになったのに情けないですねぇ」

「ほら、2人が泣くから皆しんみりしているじゃないか」

「あらあら……もう可愛い顔が台無しですよ?」

「確かに辛いだろうな。始まりがあれば終わりがあるんだ、仕方が無いだろう」

「でも私達は悲しくないんですよ。こうして皆が近くに居てくれるんですから」

「ちょっと長く生き過ぎたかもしれないな」

「ええ。もう十分ですね」

「満足したよ。もう大分この街も寂しくなってしまった」

「巳肇に千鶴、蓮華、ルー、神月夜……皆最期はこうして笑っていましたね」

「僕たちもこうして泣いていたっけ。あのときはわからなかったけど今じゃその気持ちがわかる」

「何もやり残した事も後悔も心配もありません」

「2人がこの神社を護ってくれる。ならそれで大丈夫だ」

「そうですよ……なのに皆はそんなに悲しんで、もう……」

「朱音も照玖も魅麗も貉那もずっと僕達より年上なのにまだまだ子どもみたいだよ」

「クラスメートの皆も重役なのに大事な会議を放って私達のところに駆け付けるなんて……」

「お前たち昔はあんなに僕の事殺す気満々だったのにどうして泣いて……誤魔化しても遅いよ」

「それぞれ抱えていたものを自分で解決して、今ではこんなにも立派になってしまって……やっぱり少し心惜しいですね」

「皆の未来は眩しいじゃないか。なら大丈夫だよ」

「そうですね……こんなにも集まっているのに騒がしくないなんてらしくないですね」

「心配しなくてもすぐ会えるさ。そうだろう?」

「きっといつでも会えますよ。だから泣かずに笑っていてください」

「ああ、そろそろ眠くなってきた」

「まさか最期までこうして貴方と一緒だとは思いもしませんでした」

「僕もだよ。だけどそれで良かったと思ってる」

 彼女は皺くちゃの手を差し出した。

 僕もその手を握る。

 いつか見た光景。

 いつか感じた柔らかさと体温。

「それじゃ皆、ありがとう……」

「今までお世話になりました……」

 僕達はゆっくりと目を閉じる。

 

   ×


 いつか見た夢。

 気持ちの良い夢。

 眠っている僕と君。

 手を繋いでいる僕と君。

 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

 薄目を開けた。

 そうしてすぐにぎゅっと目を閉じる。

 カーテンの隙間から差し込む光みたいに眩しい。

 手で光を遮りながら僕達は身を起こす。

 そこに広がっていたのはいつもの街といつもの顔ぶれ。

 彼らはこちらに気付くと笑いながら気軽そうに手を上げる。

 僕達もゆっくりと手を振った。

 そうして笑う。

 こんな場面で言う言葉は決まっている。

 いつもと同じ言葉で良い。

 これは決して特別な事ではないのだから。

 僕達は迷わずにその言葉を口にした。


「ただいま」


 これはゆめの終わりではなくうつつの始まり。


 皆さんお久し振りです四畳半です。

 これにて終焉夢想完結です。

 そして夢想シリーズの終わりです。

 こういう時なんて説明すれば良いのか僕にはわかりません。

 ひとまず言えるのはあっという間だったなぁという感想だけです。

 この夢想シリーズを投稿してから約半年ほど。

 たったそれだけの短い時間でしたが僕の漠然としたイメージを文字にして生み出すという時間はとても密度の濃い時間だったと思います。

 拙作とはいえ一生懸命、いつも本気でキーボードを叩いていたと思います。

 例え創作だったとしても登場人物達にとってはそれが現実です。

 彼らが経験した事は本当の事であり、抱いた気持ちも作り物ではありません。

 僕は自分を彼らに投影していたのかな、と思います。

 彼らが苦しめば僕も苦しくなるし彼らが嬉しくなれば僕も嬉しくなります。

 そんな事をしていたらあっという間に完結してしまいました。

 やるべき事は全てやった気がします。

 今までお見苦しい場面もいくつかあったかと思いますがここまで付いて来てくださった事に感謝感激の極みです。

 このお話を読んで少しでも何か感じて頂ければそれだけで幸せです。

 それでは今まで拙作を読んでくださった読者の皆様、宣伝などお手伝いしてくださった皆様、ありがとうございました!

 

 

 

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